ネコ缶食べる?
愛猫が人間になりました。何を言っているのか分からないとお思いでしょうが、恐らく多分きっと本当のことです。あっ、頭を患ってるわけじゃないんです。信じてください。
突然ある朝、自分の猫と言い張る美形の恐らく十代後半くらいの男の子が家に現れてから、三日経った。
それから仕事が忙しくなって、ほとんど家に帰らなかったので、あまり話していないんだけど、ミドリ(仮)は気にすることなく家で過ごしてるみたいだった。
一日目は家の中の説明と、お風呂やトイレの使い方を教えてあげて、あとはネコ缶と冷凍チャーハンを置いて出かけた(どちらを食べるか分からなかったからドキドキしながら外に出たんだけど、帰ってきたらどちらも食べてた)
「どっちが美味しかった?」って聞いたら、「どっちも!」って言ってたから、またネコ缶と冷凍チャーハンとあと野菜も必要かなってネコ草を与えた。
二日目は、クローゼットの中を漁って着れそうなジャージを渡して着替えさせた。芋ジャーなのにすごくカッコよく見えてちょっと許せない気持ちになった。というかよく見たらとても整った顔立ちで、ちょっと可愛い系だけと手足は長いし身長もあるし、おいおい神さま贔屓しすぎじゃん?って思った。しかも天然物の銀髪ってなに? 二次元かな?
三日目はテレビの使い方を教えて、とりあえずこれを見てなんとなく日本社会を察してくれと頼んだ。一日中見ていたみたいだが、印象的だったのが愛憎渦巻く昼ドラだったらしく、懇切丁寧にあれは普通ではないことを説明する羽目になった。
そして、今、私はお風呂場のドアの前にいる。中にはミドリが入っている。いや、待ってほしい。覗きではない。ネコらしさを発揮した彼がお風呂嫌いなのに気づいて無理やり押し込んできたのだ。生粋のお風呂大好き日本人として、清潔な身体で家にいてもらわなければ困る。
「カナ〜〜」
「スポンジで体を洗ったら次は髪の毛だよ!」
「うーーー」
「頭から足の先までピカピカになるまで出てこないように!」
「あーー」
「返事は、Yes,momだ! ミドリ二等兵」
「ん〜〜?」
この家の支配者は私である。いくら美形と言えども守るべきものは守ってもらわなければ。
「私はリビングにいるから、終わったら服着て出ておいて」
「はあい」
ミドリが我が家に来て、追い出さなかった理由は三つある。
① こちらに害を成そうとしてこないこと。そもそもぼーっとしているからこちらが守らなければいけないのでは?という気になる
②まじでウルトラスーパー世間知らずだったため。言葉は通じるけど何も知らない赤ちゃんだったから、なんかもうこのまま外に出したら野垂れ死ぬと思った
③ミドリしか知らないはずの情報を知っていたから。どういうことなのか突き止めなくては。
つまりは懐柔されたというやつだ。かわいいは正義ってこういうことか……。
「ふう……」
ミドリのお気に入りのおもちゃを手にとってため息をついた。
もし、本当にミドリが人間になったのなら、我が愛しのもふもふとは永遠にお別れなのだ……。