おはようの挨拶
時刻は午前六時三十分、この時間に私は起きる。外はまだ暗くシングルベッドから一歩でも出れば冬の寒さが私を襲うだろう、というのを言い訳にして私は隣で寝ている英雄様を抱き枕にしている。(実際は全裸で寝ていても英雄様の魔法によって暖かいのだが…)
とりあえず朝の日課を始めるために私は布団の中に入ったまま彼の上にまたがり彼の顔に自分の顔を近づけていく。彼の寝息がかかるところまで近づけたらそこで動きを止め、彼を観察する。これが私の日課の始まりである。私に一日のはじまりを教えてくれるのは朝日でも小鳥のさえずりでもなく私の顔に微かにかかる彼の寝息なのだ。余談ではないが彼の顔は中性的で(男性には美少女、女性には美男子に見える)髪は雪のように真っ白、長さは9cm、身長は172cmで私より13cm高い。体つきは細マッチョである。これらのほかに身体的特徴を挙げると右腕がないことだ。数か月前まであったのだが人間界と魔界を救う際に失ったらしい。後、私が裸なのに対して彼は専用の軍服を着ているのをずるいと思ってるのはナイショなのだ。(私と同い年の16歳が軍服を着てるのは異常だと思う)
そのまま10分位観察してから私の日課は次のステップへ移行する。
私は固定していた自分の顔を彼の首筋に近づけ…舐める。子供がアイスクリームのふたにのこったアイスクリーム舐めるように大胆に、でも音を出すと彼が起きてしまうかもしれないので静かに黙々と舐める。彼の体臭や私の汗と彼の汗が混ざり合ったにおいを鼻で感じ、彼の皮膚の味と彼と私の汗が混ざってドロドロかつ塩のきいた味なったのを舌で入念に堪能しながらひたすら舐める。この時に自分の唾液を彼にたっぷり塗る感覚で舐めるのが私の好みである。そしてそのまま首だけでなく、顔全体を舐めていくが、唇はまだなめない。唇はまだとっておく。
これを20分位すると私の朝の日課は最終フェイズに入る。
その内容は、先ほど残しておいた唇に私の唇を重ねる行為、つまりキスである。キスといえば日本の伝統的な恋人同士の朝の挨拶、これをしなければ日本人カップルは朝を迎えられないのである。だから私が彼にキスするのは当たり前の行為でありむしろしなければならないことである。Q&A終了。
そんなことを考えながら私は目を閉じ自分の唇を彼の唇にゆっくりと近づけていく。そしてそのままキスという重要任務を完遂させるために行動する。
だって、だって私と彼の関係は…関係は!
「アイリス」
不意に私の名前が呼ばれたので目を開けると先程まで寝ていたはずの彼と目が合う。私の唇に当たってるのは感触的に彼の唇、ではなく彼の人差し指だろう。そのままお互いにまるで時間が止まったかのように見つめ合うこと約10秒、その後、驚きすぎた私はベットから落ち、そのまま木の床で正座してしまう。(ちなみに今の私はさっきまでやってたことを思い出したせいで顔は紅潮、体はほてってしまい、羞恥のあまり彼の顔を直視できないが頭は冷静である)
それに比べて彼は動揺する素振りすら見せてないのだろう。いつも通りのいつもの愛おしくて恋しい声でこんなことをいってくるのだ。
「おはよう。朝からこんなことを言うのもあれだけど朝の挨拶にキスはいらないよ。だって僕たちの関係は…」
「親子なんだから」
つづく。