ドロップキックから始まる
『リリィ!』
渾身の力を込めて自らを弾丸として放った一撃は、俺の全体重を乗せてワイバーンの胴体へと着弾した。しかし悲しいかな、自らの体重のおよそ数倍いや数十倍はあろうかという相手を倒すには余りにも威力が足らず、未だ力強い様子で大地に佇んでいる。思わずお前の領分は空の上だろうと毒づいてしまいそうになるほどに、堂々とした風体である。
しかし、こちらに意識を向けることには成功した。突然現れた異物による攻撃は、あちらとしても予想外の物であったようで、その目はしっかりと俺を見据えている。
ワイバーンが状況を整理しようとしているのだろうか、落ち着いた様子で動き出さないでいると、遅れて3人が俺の傍へ駆け寄って来た。
『いきなり何をするかと思えば!危ないだろう!!』
隣に並び剣を構えたロイから叱咤を受ける。
『危なかったのは彼女の方!間一髪間に合ってよかったと思って!』
ワイバーンの意識は最早先程まさに手に掛けようとした相手の方へは向いていない。今は新たに生まれた4人の獲物のことで頭はいっぱいだろう。
俺の言葉を受けてもう一人剣を抜いて臨戦態勢の男、カインが鋭い眼光を正面に向けて言う。
『そうだな。良くやったと思うぜ俺は。あとはもうアイツを倒すしかねぇなぁ!』
クラスメイトの具合も気になるが、先ずは目の前の敵を何とかしなくてはならない。そうは分かってはいるものの、どうしても着ななってしまい、目線をそちらに向ける。
『大丈夫です!気絶しているだけで大した外傷はありません!…念のため早く医者に見せた方が良いとは思いますが。』
既に其方にはベルが駆けつけていた。中々どうして頼もしい面々じゃないかと、再び正面へと向き直す。
『なんとかしないとねっ。』
――――――グォロォォオオ―――――――
改めて戦闘への覚悟を決めた時、ワイバーンが身が竦んでしまいそうになる雄たけびを上げると、次の瞬間には動き出していた。
『うわっとっ。』
先程攻撃されたことが頭にあるのか、俺目掛けて一目散に走り寄ってくる。そして一息に俺を飲み込もうと、いや噛み殺そうとその大きな口を開け牙を鳴らした。
『意外と早っ。陸でも早いとか、それどうなの、ワイバーンとしてっ!?』
間一髪潜り込んで避けたが、心臓は大きく脈打っている。軽く啖呵を切っては見たものの、こんな大きな、いやそもそも大小問わず魔獣と戦う事自体が初めてである。良くもまぁ咄嗟に体が動いてくれたものだと自分に感心する。冷静に考えて怖い、やばい小便が漏れそうかもしれない。
『せいっ!『おらぁっ!』
魔獣の攻撃が外れたのを隙と見て2人が同時にその巨体へと切りかかろうとする。俺からは遮られて見えないが気合いの入った一撃なのだろう。そんなことを思っていると。俺の上の覆い被さっていた、巨体が跳ね2人の姿がはっきりと見える。いや待て2人ともその『ヤベッ。』みたいな顔を止めろ。
『ヒィッ。』
既に振り下ろし始めていた2人の剣はそのまま俺の横を通過する。間一髪逸らしたのだろうか。間一髪俺の命はつながった訳だ。しかし戦闘が始まってから間一髪が多すぎないだろうか。鳥肌が止まない。
『ちょっとちゃんと考えて攻撃してもらえないかな!!』
『悪かったっ!次は気を付ける!』
『当たんなかったんだからいいだろうが!それよりも前見ろ!アイツ意外と早えぞ。』
言われて態勢を立て直すと、相手も既にこちらへ向き直して体制を低くして口を開けている。
…口を開けている?
―――「ワイバーンは基本風属性の攻撃しかしてきません。」―――-
『やばい2人とも下がって!』
次の瞬間ワイバーンはその口から風の力を持つブレスを、攻撃とはこうするのだと見せつける様に撃ち放った。




