水色の
ベルとロイ、2人の聴力を頼りに森の奥へ、より奥へと進んでいく。それにつれて更に更にと周囲の不気味な様相も「深まっていく。そんな景色に対する恐怖感からか、いつもよりも澄まされた耳に届いてくるのは、自分たちが地面に落ちた葉を踏みつけ粉砕した音、木々のこすれる音ばかりで、水の流れる音はまだ聞こえてこない。
『全然水の音なんて聞こえないのですが。』
言葉の裏に本当に間違いないのだろうかという気持ちを少し込めながら、2人に付いて歩いている側であるカインの方へと声を掛ける。
『そうだなぁ。まぁ特に迷ってるわけでもなさそうだし、大丈夫なんじゃねぇか。』
適当である。まぁこの男の場合は、正直迷っても良いんじゃないかと思っている節もあるので、あまり参考にならないが。むしろ迷って欲しい、何だったらそのままモンスターにでも遭遇してしまった羅良いとすら思っているかもしれない。全く持って参考にならない。思わず眉間に力が入ってしまう。すると何が可笑しいのか、愉快そうに笑うのである
『ッハ。そんな面すんなよ。……お、ほら、なんか聞こえて来たぜ。いよいよじゃねぇか。』
『そんなこと言って、また変な音立てるんじゃないでしょうね。さっきはわざと枝を踏んづけたでしょ。』
この男、一回驚かせることに成功した事を良いことに、さっきから事あるごとに此方の恐怖心を煽ろうとしてくるのである。流石に1度目ほど驚かされることはないが、それでも神経を尖らせている中で少しでも大きい音がしようものなら、どうしても多少は反応してしまうものである。
『しねぇよ。マジだって。』
ほらと言って手を広げて何も手に持っていないことを強調してくる。警戒しているのは足下だから余り意味はないが、そこまで言うのならと、聞こえてくる音の中から先程までは聞こえてこなかった類の物探すことに集中してみる。
――ッピチャ
『…あ。』
『だろ。そう何度も嘘なんかつかねぇっての。』
『いや絶対にその言葉は信じないけど。確かに何か、水が跳ねるような、音が聞こえたかも。』
いちいち根に持つなよと言葉を投げてくるカインを後目に、先程かすかに聞こえて来たものをより鮮明に聞き取るべく、一層耳に神経を集中させる。すると、先を歩く2人について行くにつれてその音は確かになって行く。水の跳ねる音から、流れるような、水が岩に当たって道筋を変えていく様子が想像できる音へと変わっていく。
音が変わっていく様子に集中していると不意に前の2人が足を止める。
『着きましたよ。』
2人に追いつき、ベルが指さす方へと目をやるとそこには確かに、一筋、一体どこに流れていくのだろうかもわからない川が流れていた。
『おぉ!本当にあったね!流石ベル君!凄い!信じてた!天才!川王!水王!耳の王!』
俺が嘘偽りのない賛辞の言葉を矢継ぎ早に並べると、照れたような顔をして目をそらされる。
『いや、その、確かに耳には少しばかり自信があるというか、鍛えてますので。』
『騙されんなよ。こいつさっきまでずっとお前らの事ぶん殴ろう殴ろうとしてたぜ。』
…けしてそんなことはない。
『でもなんてことはない普通の川だね。澄んでいて綺麗は綺麗だけれども。無色だ。』
『確かにそうですね。取り敢えず流れに沿って行ってみましょうか。』
ベルの提案に特に他の考えも持たない俺達はそれぞれ賛成の旨を伝え、実行に移す。流れに従って歩いて行くと少しずつ辺りに茂っていた木々の密度が薄くなり、時折木漏れ日が隙間から零れ始める。
『これもしかして外に出ちゃったりして。』
『かもしれないね。そうしたらまた振り出しかな。どうしようか。』
頼りないリーダーである。
『外から見た感じだと、まだまだ歩かないと外には出ねぇと思うけどな。』
『そうですね。まだまだ中心部のあたりだと思います。変ですね。一番茂っているのが普通なのですが。』
周囲の変わり様に疑問を覚えているとそれは突然現れた。
『…すごい、綺麗。』
世にも不思議で幻想的な。まるで空がそのまま落ちて来たかの様な。色がついているにも関わらず底まで見えてしまいそうな、どこまでも澄み切って美しい、水色の泉がそこにはあった。




