誰かと
『ちょっと何なのこれ!!』
『おはようございますお嬢様。早速着ていただけたんですね。セシィは嬉しいです。』
起きて早々、朝食の支度をしているセシィに向けて、開口一番文句を飛ばす。
『パジャマは!暖かくて!良かったけれども!!』
『なぜ着けてくれていないのですか!』
『着けないよ!恥ずかしい!』
俺の手には1着の下着が握られていた。
――――
『まったく我侭に育ってしまって。これは旦那様に語報告ですね。』
『もうやだ。したければすれば良い。それで怒られるなら。本当にもうやだ。』
俺が1人項垂れていると、テーブルの上に2人分の朝食が並べられる。
『別に食堂で取るから、私いらないよ。』
『そんなこと仰らずに、正直お屋敷に居た頃と比べてやることが少なくて…。』
確かに、休みでもない日に外出することなど今までなかったはずで、彼女はその暇に罪悪感を覚えてしまっているのかもしれない。それで少しでも何かをしようと朝食を作ってくれたのだろうか。だとしたら無碍には扱えない。彼女は基本やはり真面目なのだ。
『うーん。確かに食堂も混んでて面倒だし。いただきます。』
早速セシィが作ってくれた朝食に手を伸ばす。そう言えば、彼女が作った料理を食べるのは初めてのことだが、ふむ実に中々美味しそうではないか。実際に口に入れてみると、これまた中々に美味しい。実は俺に隠れてコソコソ花嫁修業でもしているのではないだろうか。
そんなことを考えながら1人舌鼓を打っているが、セシィは一向に自分の分に手を付けようとしない。こちらを見てニコニコとしているばかりである。これはまさか。
『なんでセシィは自分の分を食べないの。まさか毒とか!』
『お嬢様は私をなんだと思っているのですか。主人と一緒に取る訳にはいかないでしょう。』
『でも2人分並んでいるけど。』
『纏めて作った方が、無駄が減るというだけです。』
そういうものか。そういうものなのだろう確かに。しかし、昨日リザリーと一緒に食べた朝食を思い出す。誰かと一緒に、ご飯を食べるというのはやはり良いものである。生まれ変わって機会も減って、忘れかけていたが思い出してしまった。俺は友人と何気ない話をしながらご飯が食べたいのだ。
『良いよ。そういうの。ここは実家じゃないんだし。直接の雇用主はお父様な訳だし。』
『そういう訳には参りません。私はお嬢様の待女なわけですから』
むぅ。強情である。
『じゃあ命令。一緒に朝ごはんを食べなさい。折角2人居るのに1人でご飯なんて寂しい思いをさせないこと。』
ご主人様特権である。命令となれば強情な彼女も折れてくれるだろう。そう思って顔を見ると、いつもよりも少し目を丸くして固まっていた。
『…あのぅ、セシィさん。』
『え?あ、そういうことでしたら仕方がないですね。命令なら。』
そう言ってセシィもやっと自分の分に手を伸ばす。そう言えば彼女と2人でご飯を食べるというのは初めてかもしれない。前に出かけた時はフィルが居たし、馬車で移動していた時もミミさんがご飯を運んでくれた時も、彼女は意図的に自分が手を付けるタイミングをずらしていた気がする。何故その時は何も感じなかったんだろう。それだけ今までの生活の中で、俺も当然の事だと感じる様になってしまっていたのか。少し反省の気持ちを持ちながらも、食事の時間は和やかに進んでいく。
ふむ。しかしこうやって一緒に朝食を囲んでいると姉が出来たみたいで、なんだか可笑しいものである。歳もそこまで離れてはいないし、実際に姉がいたらこんな感じだったのかもしれない。セシィも同じことを思ったのか少し笑っている。
『ふふ、こうして一緒にお食事をとっていると、なんだか新婚さんみたいでおかしいですね。』
『いや、それはない。』
同じ家族でも、その発想はありませんでした。




