1日の終わりに
『いやぁしかし、フォルス先生すごかったね、ビックリしちゃった。』
『…見てなかったわよ。』
ところ変わって格闘術(剣術)の授業が終わり、我々は午後の授業もひと段落し校内をうろついていた。本日はお日柄も良く、爽やかに汗もかいた後とくれば、さぞ気持ちの良い時間帯だと思うのだが、どうも隣のお嬢様は先程の授業の失態が響いているのか、落ち込みっぱなしである。
『そんなに気にしても仕方ないよ。女の子なんだし。元気だしなって。ほらあれを見てごらんよ。』
励ましの言葉をリザリーに贈りつつ、俺は前を歩いているロイとカインを指で指す。
―――
『お前、眠り姫にボコボコにやられたんだってな!』
『ちょっと気にしてるんだからそれ以上言わないでもらえるかな!』
『いやだってよ!お前そりゃあねぇよ男として!』
『じゃあ今度お前も試合してみなよ!負けるから!絶対負けるからな!』
―――
『ほら。どうでも良くなっては来ないかね。』
『いや、ああはなりたくないわよ。淑女的に。』
面白い物でも見て、気がまぎれたら良いと思ったのだが、彼女は目の前の喜劇を見ても、まだ憮然とした様子である。
『そもそも女の子だし剣なんかねぇ。』
『じゃあそもそもなんで貴女がロッドフォードに勝っているのよ。寝ていたんじゃないのかしら。』
『…睡眠学習ってやつかも。』
『…はぁ。』
本日一番の大溜息である。
――――
ロイ達とは校舎の前で、リザリーとは寮の入口でそれぞれ分かれて、自室へと向かう。何はともあれ本格的に授業も始まった初日であり、直接消耗した体力以上に疲労感がある。リザリーも同様だったのか、先程寮に入ったらすぐに、自分の部屋へと向かっていってしまった。
『ただいまー。』
学園から与えられた自部屋の扉を開けて、帰りの言葉を室内へと投げる。1人部屋であれば不要な言葉ではあるが、俺の場合はそうではないから大切なことである。
『お帰りなさいませ。お嬢様。』
『あ、セシィずるい。何飲んでるの。』
部屋の中へと入ると、同居人もとい従女は、椅子に腰かけくつろいでいた。室内は彼女の持っているカップから零れているのか、甘い香りで満たされている。
『王都で売られている流行りの紅茶だそうです。昼間少し時間があったもので、買って参りました。今お嬢様の分も淹れて差し上げますね。砂糖を入れると甘くておいしいですよ。』
要するに暇だったのだろう。屋敷に居た時であれば、掃除一つとっても大変な作業だが、今はこの部屋一つである。時間が余ってしまうのも無理はない。彼女は学生ではないため、授業を受けることもないのだ。
セシィが俺の分の紅茶を淹れて戻ってくる。
『お嬢様に似合いそうなお召し物も何着か見繕って参りましたので、是非着てみてくださいね。是非ね。』
『ありがとう。紅茶の方ね!なんか怖いから服の方は実物見てからじゃないとお礼なんて言えない!』
格闘術の授業で枯れた喉を潤すべく、紅茶が入ったコップに口を付ける。
『美味しい…。』
『そうでしょう。味だけでなく美容にも良いらしいですよ。ところで初めての授業はどうでしたか。まさか眠っていたなんてことは…。』
『うっ。少し、少しだけだから。』
セシィに今日あったことを話す。座学が大した内容ではなかったこと。フォルス先生の必殺技の話等々。つい興奮してしまい、話が終わるころには、すっかり外が茜色に染まっていた。
『ごめん話しすぎちゃった。』
『いえ。今日はご飯を食べて、お湯を浴びてお眠りになられたらどうですか。新鮮なことばかりでお疲れでしょう。』
セシィの言葉に従い、一日を終える準備を始める。お風呂から上がるころには、だいぶ太陽も沈んで来て、暗くなっていた。
『良し。今日はもう寝るとしますか!』
私室で今まさに眠らんとしていると、私室の隅に袋を見つける。これはもしかして。
『セシィが言ってた洋服かな。寝る前に確認確認と。』
袋の中には可愛らしくも暖かそうなネグリジェと私服。
そして明るい色合いの派手なランジェリーがこっそり忍ばされていた。




