不出来な子ほど、可愛いものです。
『え、なんで、だって体弱いはずじゃ?』
『人を見た目で判断しちゃいけないよ。ロロちゃんが将来悪い人にだまされないか、私は心配だよ。』
俺はロイの首に軽く当てていた木剣を外して告げる。彼はまだ今起きたことに理解が追いついていないようで、まだ呆けた顔を見せてくれている。
ふむ。中々イケメンのこういった表情を見る機会はなかったが、気分爽快である。
『お見事ですね。リリィさんがここまで振れるとは思いませんでした。』
離れて全体を見ていたフォルス先生が、俺たちに近づいてきて賞賛の言葉を掛けてくれる。褒めてくれるのは素直に嬉しいが、1つの組に構っていて大丈夫なのだろうか。そう思って回りの様子を見渡して見ると、皆もすでに試合を終えているのか、構えを解いてこちらを見ている。
話し声が聞こえる。
『え、あれって、あの眠り姫でしょ?』
『そのはずだけど・・・。』
『夢の中で稽古つけてもらってたとか・・・?』
ひどい言われようである。
『さぁさぁ!皆さんも見惚れてないで、試合を始めてください。これじゃあ何時までたっても授業を始められませんよ!』
どうやら、他の組はまだ打ち合いを終えてはいなかったようで、先生の注意を受けて、それぞれ試合を再開する。そんなに見てもらえるほどの事をしたつもりはないのだけれど、見た目ひ弱な女の子が、体格の良い男を圧倒するのは中々にインパクトがあったようだ。
それにロイはイケメンである。イケメンが女の子にボコボコにされるのを、胸がすく思いで見ていた人も多い。きっと多いはずだ。…いけない自分の中汚い所が出てしまった。
取り敢えずまだ呆気に取られて、違う世界に居る様子の目の前の少年に声をかける。
『ロロちゃん。情けない。こんなに弱いなんて思わなかった。ショックです!』
『え、いやいや!僕が弱いのは兎も角、なんでそこまで言われなきゃいけないのさ!』
俺の容赦のない罵倒を受けて、ロイはこっちの世界に帰ってくる。
『ははっ。冗談だよ。振ったことなければこんなもんだって。気を落とさず、これから強くなれば良いよ。』
『まるで、自分は初めてじゃないかの様な台詞だね。釈然としないけど、君の言う通り勉強させてもらうことにするよ。』
なんてことない雑談を経て、完全に態勢を立て直した少年は、公爵家の息子らしく優雅な姿勢で俺の言葉を肯定受け入れて肯定する。
うん。前向きにとらえてくれたみたいで何よりである。しかし、剣による戦いのない世界で身につけたが、この世界で通用するのか試したかったのだけれど、流石に初心者相手では何の参考にもならない。別に、戦いに赴こうなんて気は少しだってありはしないから、別に分からなくたって良いのだけれど、そこは自分の力を試してみたくなるものである。それが男心である。女子ですが。
それではせめて周りの人の動きを見てみようと、キョロキョロ周りを見渡すとほとんどの組が俺達の話している間に、殆どの組は打ち合いを終えていた。
あと残っているのは、なんと、まだカインとリザリーの組が打ち合いを続けているではないか。意外な組合わせが残っているものだと感心する。少し離れた場所から一生懸命剣を振っているリザリーの姿が見える。これは是が非でも応援に行かなければなるまい。
『ちょっと、ロロちゃん。リザリー達の方へ行ってくるね!』
『ん、あそこまだ終わっていないのかい。僕も興味あるし一緒に行くよ。』
ロイを伴って、まだ打ち合いを続けているリザリー達のもとへ歩く。
『それにしても、カインは何やっているんだ。いや、もしかしてリザリーも強かったりすのかい。』
2人のもとに向かう途中でロイがそんなことを聞いてくる。少し考えてみるが、彼女には強いという印象はない。昨日王都の街中で男達に絡まれた時も、勇ましく食って掛かってはいたものの、成すすべなく掴まっていた。とてもじゃないが、剣術はおろかその他の武道も嗜んでいたとは思えないし、貴族の令嬢なのだから本来嗜んでいなくて当然だ。
『いやぁ。そんな風には見えたことはないけどなぁ。カインが弱いんじゃないかな。』
『いや。それはないよ。カインは軍閥の息子だし、以前試合したことがあるけど良く鍛えられていた。』
成程。良くわからないけれどカインは軍事に力を持っている家の子供ということなのだろう。しかし。
『いや悪いけど、ロロちゃん目線からよく鍛えられてたって言われても…。』
『とにかく!カインが弱いってことはないはずだ。そうなると。』
――『くそっ!当たりなさいよ!』―--
――『はっはっはぁ!弱いなぁお前!ちゃんと前見ろよ!』――-
大分近づいたことで、2人の声が聞こえてくる。それを聞く限りこれは。
『リザリーが強いか、カインが遊んでいるかのどちらかと思ったけど、どうやら。』
『後者みたいだね。リザリー…、可愛い…。』
2人の様子がはっきりと見える位置まで近づく。
そこでは赤髪の少女が木剣に、見事不細工に振り回されていた。




