買い物、帰宅、姦しい
『全くひどい目に合った。』
危うく下着姿で外を歩かされるところだった。いや流石に冗談だったと信じたいところだが、彼女はやらせようと思ったら有無を言わさずやらせる女性である。
『流石に冗談でしたよ。』
悪いが全く信じられない。
俺達はセシィに連れられて入った、肌着の店から出て、今は適当にウィンドウショッピングをしながら、次に入る店の品定めをしている。
『でも、危ない所をお救いしたのですから、何かしらあっても良いのではないかと思います。』
『うぐっ。それは…そうかもしれないけど。』
確かに、あの場にセシィが現れなければ、俺は殴られて、逃げ去った男達もまた戻り、形勢が逆転していたかもしれない。その後のことを考えると身も凍る思いだ。そう考えると彼女の主人として、何か褒美を考えなければいけないだろう。
…考えなければならないとは思うのだが、先程の様な突拍子のない物は流石に少し遠慮してほしい。
『次はあそこに入りましょうか。』
俺とセシィのやり取りに対して、当事者でありながらも、我関せずの態度を貫いていたリザリーが1つの店を指さして、おもむろに口を開く。彼女は彼女で俺が困っているところを見て楽しんでいる節があるため警戒しつつ、指の示す方へ眼を向ける。
うん。クラス代表を決めるときだってそうだったのだ、彼女の一声がなければ無事逃げおおせられていたものを、見事な策にはめられた結果の現在のクラスでの立場である。そんなの所も可愛いと思ってしまうのはかすかに残った男の業か。
余計な事を考えつつ、改めてお店の方に意識を向ける。どうやら俺の心配は杞憂だったようで、普通にカジュアルな女性服が売られている店のようだ。
『よし入ろう。今すぐ入ろう。』
店の様子を見て、安全であることを確認した後、セシィとの話を強引に区切って、店の中に入る。
店の中は外から見た通り、普段着として着れそうな服が所狭しと掛けられていて、この中から気に入った物を見つけようとすると結構骨が折れそうである。
そういえば、この世界に生まれ変わってから、こういった店で自分の服を見繕ったことはないかもしれない。男と女で勝手は違うだろうが、どうしてもワクワクする気持ちは抑えられない。
俺が店内をキョロキョロしているとリザリーが微笑みながら話しかけてくる。
『へぇ。流石に貴方も洋服には興味があるのね。』
『いや正直余り関心なかったけど。今までは家にあるのをセシィが選んで、それを着る事が多かったから。でも、うん。自分で選ぶのは新鮮でちょっと楽しいかも。』
『そう。折角だし色々試してみましょうか。』
そういって俺達は手当たり次第に、店内の洋服を物色し始める。
『お嬢様これ!これなんか如何でしょう!』
セシィが、いかにも女の子らしく、可愛らしいふわふわした服を薦めてくる。
『いやー、そういう露骨に可愛らしいのはちょっとねー。』
申し訳ないが、出来ればもう少し落ち着いた服の方が好みである。出来たらスカートよりもズボンの方が望ましい。
『あら?良いじゃない。似合うと思うけど。』
『いやーまたの機会に。』
またの機会がいつ来るかは全く全然予想できませんが。
――――
『結構、疲れたわね。』
『そう?まだ全然平気だけど。』
2つ目の店を出た後も、他の店を手当たり次第に見て周り、気づいたらすっかり、空は茜色の様相である。
『どれだけなのよ。あなた本当は家の中で走り回っていたんじゃないの?』
少なくとも噂通り寝ていた訳ではないので何も言えない。もっとも彼女は既に俺が噂とはかけ離れた存在であることなどとうに知っているだろうが。
『まぁでも、時間的にもちょうど良いし今日はもう帰ろうか。』
『そうね。』
『そうですね。戻りましょうか。』
彼女たち2人の賛同を受けて、来た道を引き返して寮へと向かう。途中通った広場では噴水が夕焼けに反射していてとても綺麗だった。
『じゃあまた明日。』
『えぇまた明日。』
俺達は分かれてそれぞれの部屋へと戻る。
『ただいまー。』
『今は誰も返してくれませんよ。』
無人の部屋からは特に返事が返ってくる事はないのだが、自然とただいまの言葉が出てきててしまうあたり、だいぶこの環境にも馴染んできたのだろう。入寮2日目にして我ながら大した適応力である。
『しかしお嬢様がまさかお財布をお忘れになっていたなんて、私の手持ちで足りたから良かったものの。』
『うっ。返しますー。ちゃんと返すからちょっと待ってて。』
今日買ってきた洋服を、持って私室に財布を取りに行く。ついでに何時までも制服で居ては、しわが付いてしまうと着替えも済ませ、部屋に掛けて伸ばしておく。
『お待たせ―。』
『いえ、そんなに待ってはおりませんが。…お嬢様っ!!』
セシィが私室から出てきた俺を見て驚いて声を上げる。
『あー、うん。どうかな?変じゃない?』
セシィは全力で首を振って俺の言葉を否定する。変じゃないなら良かった。とてもじゃないが恥ずかしくて鏡で自分の姿を確認する余裕はなかったので、彼女の態度にほっと胸をなでおろす。
『あー良かった。セシィこれ着てほしそうにしてたから。今日は本当に助かったし、こんなことでお礼になるとは思わないけど、ありがとう、本当に。』
こっそりと購入する服の中に忍ばせておいた、セシィから勧められた最初の1着を着て感謝の言葉を伝える。また別の形できちんとしたお礼をするつもりではあるが、一先ずこれで、彼女は喜んでくれるなら嬉しい。恥なんて安いものである。
『あとはい、お金返すね。』
助けてもらって、お金も借りて、本当に助けれっぱなしの1日である。少しでも感謝の気持ちを伝えることができていたら良いのだけれど。
セシィは懐から自分の財布を取りだす。
『…お嬢様。私はいくら支払えば良いのでしょう。』
うん。伝わってくれていれば良いのだけれど……。
買い物回終了―。




