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悪役に恋して  作者: 冷凍みかん
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王都にて④

『男は、狼ですよって、申し上げましたのに。』


セシィが隣に座る俺の耳元で囁く。その顔は我儘を受け入れてもらえなかった子供の様にむくれていて、年甲斐もなく中々に可愛いらしい。言っている内容が残念なのが非常に残念だが。


『え?何?聞こえない。』


『す、すみません。お邪魔しちゃって。』


そんなセシィのむくれ顔を見て、前方の席に腰かけている少年、ベル君が焦って謝罪の言葉を述べる。


『あぁ、気にしないで良いよ。何時ものことだから。』


『何時ものことなの?仲が良いのね。それよりも頼むものは決まったかしら。』



おっと、これはいけない。前方斜め前、ベル君の横に座っているリザリー催促の言葉にはっとさせられる。今俺達がいる空間には、パンや卵等、様々な食材の適度に焼かれた香ばしい香りが満ちていて、空腹の腹を刺激する。また時折コーヒーの香りも混って俺のもとに届けられ、より一層である。


そう、俺達は今カフェの中にいた。



『んー、決めたこれにする。セシィは?』


俺は手に持っている、メニューの描かれた紙をセシィに見せながら訪ねる。


『いえ、私はお嬢様が残したものをいただくことにしていますので。』


『私と!同じのね!はいこっちは決まり。そっちは?』


セシィの言葉を適当に翻訳しながら、メニューを確定させ、リザリー達の様子を伺う。すると彼女は心外だといわんばかりの表情を見せる。



『とっくに決まっているわよ。貴方たちのやり取り長いんだもの。面白かったから良いけど。』


どうやら、待たせてしまっていたのはベル君に対しても同じようで、彼は俺とセシィの考えが纏まったとみて、給仕の人を呼んでいた。



『しかしこんな店良く知ってたね。』


カフェの雰囲気は非常に良く。木材を丁寧に組み上げでいる落ち着いた外観と内装は、年若い少女が来て語らうというよりかは、寧ろ。昼下がりに落ち着いて読書を嗜めるような造りをしていた。こういった店には前世でも中々入る機会がなかったためワクワクしてしまう。いつか大人になったら、本を片手にこんなところで休憩なんてしてみたいと思っていたものだ。


『えぇ何時か、お嬢様とご一緒できたらと、学園行きが決まってからリサーチを済ませておきました。』


『へぇ。主の為にそこまで、貴女まるで、従者の鏡ね。やるじゃないの。』


リザリーはそんなセシィの発言を素直に受け取り、称賛の言葉を投げかける。


『いや違う。セシィはそんなこと絶対に考えていない。』


一応訂正しておく。


―――お待たせいたしました。暖かいうちにお召し上がりください―――



頼んでいた料理と飲み物が運ばれて、テーブルの上に並べられる。遠くの席からの香りだけでも堪らなかったのに、こうして至近距離から攻められると、もう何というか素晴らしい。


『うわ!美味しそう!』


『お嬢様。はしたないですよ。』


セシィにその様子をたしなめられるが、俺は、目の前に置かれたパンを手に取るとそのまま頬張る様にかぶりつく。


『良いじゃない。家じゃできないんだし。こういうのは時と場合だよ。セシィ。』


『ほら、全然噂の印象と違うでしょう。』


目の前でリザリーがベル君に何か良からぬことを言っている気がするが、それも無視である。今は目の前の大事に取り組むことに夢中になるより仕方がない。


『でもこっちの方が良いと思います。』


ベル君が口を開く。ふむ、嬉しいことを言ってくれる。


『所詮噂だからね。早めに掻き消えてくれることを切に願う。』


人の噂も49日とはよく言ったものだが、果たしてそう上手く消えてくれるだろうか。長年の出不精が積み重なった結果だとしたら、中々イメージを書き換えるのには骨が折れそうだ。積極的にアグレッシブな姿を見せるしかあるまい。折角学園に来たのだ、学生らしく馬鹿なことをやってみたい。そのために遠路はるばるやってきた節さえある。


あ、そういえば。


『2人はどうして学園に?やっぱり貴族として魔法を学ぶため?』


何となく気になったので2人に問いかけてみる。2人は一瞬とした後俺の質問に答えてくれる。


『まぁ、そうね。あとは社交的な意味合いも強いかしら』


成程成程。特に強制されている訳ではないようだが、リンゼル王国の有力な貴族たちは、概ね、学園へ通うというのがこの国の慣例である。力のある貴族の子供は大概、魔法への適性の強い子が多く、その扱い方を学ぶのだ。


そういった背景から、学園には多くの有力貴族が集まる。そしてそれに近づこうと、地方などから階級の控えめな貴族たちもまた集まる。いつしか学園は貴族たちの社交の場としての側面も持つようになったらしい。実際にここで有力な貴族の小僧を捕まえる令嬢も多いそうな。俺には関係ありませんが。個人的には身分違いの大恋愛とかが流行ってくれると面白いが、どうやら現実問題難しいらしい。



『あー、僕の場合は貴族じゃないので微妙なんですけど、まぁ魔法を学ぶためって言うのは一緒ですね。』


『え!?そうなの、てっきりベル君も貴族の子せがれかと。』


少年の告白に少々驚く。別に学園にいるのは確かに貴族だけではない。学費が払えなくとも、魔法の才能に秀でている者であれば、入学できるのが学園の良い所だ。ただし、そもそも貴族以外で才能があるのが希少であり、その中でも秀でているとまで言えるのはさらに希少らしい。そうアル先生から以前聞いたことがある。所謂天才というやつだ。ベル君もそんな天才の1人なのだろうか。男達に絡まれていた様子から見るに、とてもそうは思えなかったが、人は見かけによらないものだ。


『天才君かー。』


『いえいえ!とんでもないです!学園に通えるようになったのだって本当に偶々で。』


偶々で果たして入学できるものだろうか、目を細めて目の前の少年をしらーっと見つめる。少年はバツが悪そうに下を向いてしまう。悪い事をしてしまったか。



『まぁ良いじゃない。講義の中で偶々かどうかはいづれわかるでしょう。そんなことより、早く食べてしまいなさいよ。』


おっとそうだった。俺は話している最中に放置してしまっていたパンを再び手に取ろうとする。すると横からセシィがこっそりとセシィが俺の食べかけのパンに手を伸ばしていたことに気付く。お腹が空いて俺の分まで奪おうというのだろうか。


『なにしてるの?セシィ?』


『特に何も。えぇこっそり私のと入れ替えようなんて思っておりませんもの。えぇ。』


全く人前くらい自重してほしいものである。

ふざけるなっ!!


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