王都にて②
『いやいや、マジですか!』
目の前の光景に、俺は目を丸くする。いくら何でも複数の大人の男達相手に無謀すぎる。正義感溢れるその行動は感動するけれども、流石に無理があるだろう。それとも彼女は何とかする自信があるということだろうか、一家に伝わる護身術的な物を治めていて、このくらいの揉め事等、軽く収められる実力があるとか。
『あぁ?嬢ちゃんには関係ねぇだろ。それとも代わりになってくれるってか。』
『あんたの方が、金持ってそうだしな。別にそれでも俺達はかまわねぇよ。』
男達が、ニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべてリザリーに語り掛ける。流石にいきなり殴りかかるということは無いようだ。その展開に少しほっとしながら、俺は彼女の傍に駆け寄る。
『なにしてるのさ。危ないって!どうもお邪魔しました!』
俺はリザリーを連れてその場を立ち去ろうとするが、彼女は一向に動こうとしてくれない。それどころか、
『小汚い物乞いに分け与えるものなどないわね。』
そう言って男達を煽って見せた。勘弁してくれ…。
『言ってくれるじゃねぇか。痛い目見ねぇと、わからねぇか。』
『見た所そっちのガキも…。そこの学園の生徒だな、てぇことは金持ってるんだろ。大人しく出すもん出せば見逃してやるぜ。』
あ、はい、巻き込まれました。無駄に有名な制服が憎い。もう言う通り金だけ出してしまった方が早いか。俺はそう判断して懐をあさる。
『なんだ、そっちのガキは物分かりが良いじゃねぇか。それでいいんだよ。』
はいはい。子供は素直が一番ですからね。
『止めなさい。こんなやつらの言いなりになるなんて許さないわよ。』
リザリーはそう言って俺の方を睨んでくるが、争いになって怪我でもされたらたまったものではない。ここは無視して男の言い分に従って見逃してもらおう。
『あ、財布忘れた。』
『馬鹿かしら!…まぁそれで良いわ。』
そんなに言わなくても…。セシィから逃れるので精いっぱいだったのだ。仕方がないじゃないか。
『チッ。なんだよじゃあ、やっぱりそっちのガキに出してもらうしかねぇなぁ。』
『出すものなんて何もないわよ。その辺の石でも拾っていたらどうかしら。』
『本当に、痛い目見ないとわからねぇらしいなぁ!』
リザリーの言葉を受け、ついに激昂した男たちが彼女の腕をつかむ。
『もう金だけじゃ済まさねぇ。大人を馬鹿にするとどうなるか、その身体にキッチリ仕込んでやるよ!!!』
身体にって!え、これまさか、セシィの妄想通りの展開になってるんじゃないの!やばいって!
『離しなさい!このっ愚図!やめてっ。離してっ。』
リザリーは必死で抵抗を試みるものの、やはり腕力の差でどうしても振りほどけない。流石に不利を感じたのか、少しずつ言葉の勢いも弱まり、最後は泣きそうな色を含んだ声になってしまっていた。声だけでなく目も少々潤んできていて、その様子を見て、俺は…
とってもムカッとした。
『こんのっ!糞が!!!』
リザリーを掴んでいた男の手を蹴り上げて、離させる。そして男が俺の想定外の動きに唖然としている間に、腹部に足技一線、思い切り蹴り飛ばしにかかる。ここにきて前世から特に変わりない身体能力が功を奏したようで、俺の目論見は見事に成功した。
『クソ、ふざけやがって!!』
しかし男を倒すまでには至らなく、耐えられてしまう。腹を抑えつつも踏ん張る男の様子を見て、俺は、
『っブレイズ!』
大きな火の玉を投げつけた。
俺が放った大火球は男を燃やさんと勢いよく目標目掛けて飛んでいく。まともに当たったらひとたまりもないだろう。そのくらい思い切り投げつけてやった。
『ひっ!!』
腹部を蹴られ、動きがまだおぼつかない男は、なすすべもなく俺の火球の餌食となるだろう
――――シュウゥ―――――
・・・かと思われたところで、火球は勢いを失い掻き消えた。
『次は消さない。分かったらさっさと消えろ!!!』
俺は男達に一喝する。
『やべぇ!こいつ魔法使いだ。逃げるぞ!!』
それを受けた男たちは一目散に走り去って行く。学園の生徒だと気付いた時点で、魔法が使える可能性に思い至らなかったのだろうか。威嚇射撃はどうやら効果抜群だったようだ。
『大丈夫!?』
去って言った男ども等もうどうでも良く、腕を掴まれていたリザリーに声を掛ける。
『えぇ大丈夫よ。…それよりも貴女。』
『本当に大丈夫!?変な事とかされなかった!?コブ付の傷ものとかにされてない!?やっぱり消し炭にしといたほうが良かった!?』
『されていないわよ!!見ていたでしょう!!…全く。』
それもそうだ。焦るあまりセシィの悪癖が移ってしまった。いけないいけない。クールダウンしなければ。ひっひっふぅ。良しこれで大丈夫。大丈夫。
『リリィっ!後ろ!!』
俺が気を落ち着かせていると、リザリーが俺の後方に目をやって叫んだ。その声にハッとして振り向くと、先程の男達の仲間だろうか、一人の男が角材を俺の頭部目掛けてて振り下ろしていた。背面からの突然な不意打ちに、これはちょっと避けられないかなと思い、来るべく衝撃に耐えるようにして両手を、頭を守るように構える。
そう言えば名前で呼ばれたの初めてだな・・・。
しかし衝撃は何時までもやってこない。不思議に思い目を開くと。男は地面に倒れ伏していた。
『…あれ?』
俺が目の前の光景に困惑していると、背後から柔らかい感触が俺を包み込んだ。
『だから言ったでしょう。男なんてハゲ散らかした狼ですよって。』




