王都にて①
『ねぇお願い!何も言わずに見逃して!』
女子寮の一室にて少女の悲痛な叫び声が聞こえる。そう、俺だリリィだ。ただ今セシィと交渉中である。無論交渉内容は本日のリザリーとのお出かけについてだ。
『ダメです。貴族の御令嬢が2人、護衛もつけずにノコノコとなんて、襲って下さい、攫ってください、あれこれしてくださいって言っているようなものですよ!痴女ですかお嬢様は!!』
『痴女はお前だ。ド変態!!なんでそんな発想しかできないの!』
先程から必死になって説得を試みてはいるものの、堂々巡りである。最終的な発想はともかく、セシィの主張は、まぁ正当な物であり、中々言いくるめることも難しい。
『ぐぐ、こんなことならフィルも付けてもらえば良かった。』
きっと彼ならば護衛をするといって着いてきたあと、上手いこと頃合いを見てふらふらどこかへ行ってくれていたことだろう。悔やまれる話だ。最も移動当日まで1人で王都に行くと思っていた身としては、当然何もできるわけはなかったのだけれど。
『フィルがいても認めませんけどね。』
何という信頼のなさ。もっと同期のことを信頼しても良いのに。同期というのはフィール家に雇用された歴で同期である。年齢も同い年なはずだしもっと信頼し合っても良いのではないだろうか。うん同い年、しかし見た目セシィの方が全然若くみえるのは、女性ゆえの努力というやつだろうか。そんなことを考えていると、セシィの目が鋭く光る。
『なにか良からぬことを考えていますね。』
『ヒィッ!!』
何で分かるのか。恐れるべくは女の勘か。
余計なやり取りをしている間にも時間は少しずつ過ぎていく。気づけば約束の正午までは、あと数分である。走って何とか間に合うかどうかといったところだろうか。こうなってしまっては、もはや手段を選んでいる場合ではない。現在の互いの立ち位置する。部屋に入ってからすぐ交渉を始めたこともあり、俺は扉の前、向かい合ってセシィが腕を組んで仁王立ちだ。
―――地の利は我にあり!―――
『ごめん!埋め合わせは今度するから!』
俺は身をひるがえし部屋を出て、廊下を駆け抜けていった。
――『こら!待ちなさい!!』―――
遠くでセシィの声が聞こえる。少しの罪悪感を胸に覚えるが、俺にはもっと大事なことがある訳だ。すまないセシィ、ちゃんとお土産買ってくるから。
―――
『遅かったじゃない。本当に捕まったのかと思ったわよ。』
全力で走り、何とか正門までたどり着いたものの正午は少し過ぎてしまっていた。しかし約束していた少女はどうやらまだ、待っていいてくれていたようで胸をなでおろす。
『ぜっ、っふぅ…。んっ。なんとかっ。まいて、来たよッ!』
『……取り敢えず本当に捕まりそうになってきたのは分かったわ。それに貴女、制服のままじゃない。…まぁ良いわ。行きましょうか。』
制服のままのお出かけとなってしまったのは、着替える余裕などなかった訳で、どうか見逃してほしいところだ。まぁ個人的には学園の制服の方が普段着させられている物よりも動きやすいため、特に問題はなかったりする。
息を整えて姿勢を正し、リザリーの姿を直視する。彼女はどうやら本人の言葉通り制服から着替えて来たようだ。赤を基調としたその姿は、彼女の髪色ととても良く同調していて、
『・・・うわ綺麗。』
『当然でしょう。私もまた眠り姫の私服姿を見たかったのだけれど、それはまた次の機会ね。今回は我慢することにするわ。』
つい零れた俺の素直な称賛に対して、笑いながら、さも当然そうにドヤ顔を見せてくれる。そしてドヤ顔ついでに恥ずかしいことを言ってくれる。王都に持ってくる私服ちゃんと選べば良かったか。制服もあるし、2~3着あれば十分だろうと適当に選んでしまったことが悔やまれる。王都で何かしら手に入れることができるだろうか。でも高そうだしなぁ。
『うぐ、余りハードル上げないで。』
2人で学園の正門を抜けて外に出る。馬車で通った通りだと、目の前の道を右へ進むと確か噴水のある広場があったはずだ。そこまで出られればぼんやりとご飯を食べられるところも見えてくるだろう。
『では先ず広場まで出ましょうか。』
どうやらリザリーも同じ考えだったようで、俺達は広場へと続く道を歩き始める。
広場まで近づくと、賑やかな町の喧騒が聞こえてくる。やはり以前素通りした時に感じた活気は本物のようだ。中に入ると、その賑わいもより一層感じることができ、広場からは悲鳴の様な声も聞こえてくる。
え、悲鳴?
『どうやら喧嘩みたいね。』
良く目を凝らしてみると、身なりは悪いがガタイの良い男たちが、一人の少年を取り囲んでいる。どうやら金品を要求しているみたいだ。既に一発貰っているのだろうか心なしか顔に青痣が出来ているようにも見える。さっき聞こえてきたのは、それを見ていた周囲の通行人の悲鳴だろう。
黙って見過ごすには少々罪悪感を覚える光景だが、此方は15歳の少女が2人だ。申し訳ないけれど別の道を探した方が良さそうだと思い、隣にいるリザリーの方に目を向けるが、もう其処に彼女の姿はなかった。何故なら、
『止めなさい!大人の男が寄ってたかって、みっともないとは思わないのかしら!!』
彼女は、喧騒の中心で、少年を守るように堂々と男たちの眼前に割って立っていたのだから。




