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悪役に恋して  作者: 冷凍みかん
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お誘い

『ねぇ貴女これから、時間はあるかしら。』


声に合わせて振り向くと、リザリーがこっちを見て話しかけてくる。確かに今日は案内だけで終わったために、時間には余裕がある。まさか、お昼前に終わるとは思わなかった。


『あるっちゃあるけど、何?』


特に今すぐ帰ってしなきゃいけないことがあるわけでもなく、取り敢えず用件を尋ねる。いやでも時間割は早く決めないといけないか。あの数の講座から選ぶとなると、意外と時間はないのかもしれない。



『折角早く終わったんだし、王都に遊びに行きましょうよ。出てきたばかりで勝手が良くわからないでしょう、案内してあげるわ。』


『よし行こう、今すぐ行こう。』


時間割も大事。でもこれから住む街はもっと大事。そう考えた俺の返事は早かった。明日からのことは、歩きながらでも考えられる。着いた時は馬車の中から横目で見ただけだったため、詳しく見て回りたいのだ。きっと楽しい、いや今後生活するうえで有益な時間になることに間違いない。そうだ、うん、きっとそうだ。



『そう来なくっちゃ。じゃあ正午に正門でね。』


『え?今からじゃないの?』


てっきりこのまま出発するものかと思っていた。しかしどうも彼女はそういうつもりではなかったらしく、待ち合わせの時間と場所を提示されてしまう。


む、こっちは今すぐにでも行きたいというのに、何か火急で済ませなければならない用件でもあるのだろうか。でもリザリーから誘いがあった訳だし、いったいどうしてだろうか。

1人不思議がっていると、呆れた顔で答えてくれる。


『馬鹿ね。貴女1人で来たわけじゃないのでしょう。それに、制服のまま街に出る気?』


『あ…。そっか。』


言われてみてはたと気づく。確かにセシィに一言も断りなく外に出たら後が怖いかもしれない。いやでも仮に正直に伝えたとして…。


『ごめん、私もうお外歩けないかもしれない…。』


『え…。どういうことよ?』




何はともあれ、リザリーと共に本校舎を抜け、女子寮まで歩いて行く。春の陽気な雰囲気を全身に浴びていると、香ばしい匂いに鼻孔がくすぐられる。


『食堂からかな。ねぇ正午からで良かったの?ご飯とか平気?』


『確かに食堂を試してみたい気もするけれど。明日から毎日使える訳でしょう。今日は王都の味を試しに行きましょう。』


なるほど意外と中々美食家なようである。

そんな何気ない会話を続けていると、我らがホワイトな女子寮が見えてきた。


『しかし慣れないなぁ。あの色。』


『あら良いじゃない?気品があって。私は好きよ。』


『マジですか…。』


まぁアレ単品だったら俺も別に悪くは思わないけど。周囲との馴染みがなぁ。完全に女の子だったら俺も気にならなかったのだろうか。色彩感覚の相違である。



『じゃあ、さっき言った通りの時間と場所でね。』


『うん。暫く待って私が来なかったら、…見捨ててくれていいから。』


『はいはい。じゃあまた後で。』


彼女はそう言って、手を振り自分の部屋へといってしまう。実は隣部屋でした、なんてこともないだろう。だって私2人部屋、彼女は1人部屋、別の区画にあるだろう。姿を見送って俺もセシィの待つ自分の部屋へと向かう。




『あ、リリィさん、お帰りなさい!』


自室へと向かう途中で、空き部屋の掃除でもしていたのだろうか、身の丈と合わない大きさの掃除用具を片手に持った、ミミさんに話しかけられた。大丈夫だろうか。転んだりとかしてないだろうか。


『ただいま戻りました。ミミさんはお仕事ですか。大変そうですね。』


『そうでもないですよ。慣れてますから!…あ!今日からご飯は食堂で取ってくださいね。正式にご入学おめでとうございます。』


『ありがとうございます。でも実は今日は友達と街でご飯を食べようかと思ってて。』


『おぉ!初日から友達を作るとは中々やりますね…。安心しました。眠り姫も眠っちゃままじゃつまらないですもんね!』


『ぐ、その噂どこまで広がっているんだろう。』


どこまでも苦しめてくる、はた迷惑な噂である。自業自得なところは自覚しているが、誰か否定してくれていても良かったのに。


『まぁまぁ。やっぱり元気が一番ですね!噂通りじゃないならその方が。ではではー。』


そう言うと、まだ仕事が残っているのだろう、足早に去っていく。器用な物で、掃除用具を持っていてもしっかりとした姿勢で歩いている。これが慣れだろうか。



ミミさんとも別れ、自室の前で一人言い訳を考える。折角王都にリザリーと行く機会をフイにしてはならないと脳みそをフル回転させる。


―――ガチャ―――


『フッヒィっ!!』


『また変な姿勢で変な声出して、何しているんですかお嬢様。お帰りなさい。』


『え、ええ。ただいまセシィ。』



上手い言い訳など思いつくわけもなく、俺は突然開けられた扉に身体を振るわせることしか出なかった。


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