不本意な決まり事
『うえぇ。最悪だぁー。最悪だぁー。』
リザリーから打ち明けられた衝撃の事実にまだ立ち直れないでいる。なんだよ「フィール家の眠り姫」って、考えたやつをぶん殴ってやる。もちろん元凶である父にも一言文句を言ってやるつもりだ。
『本当に何も知らないのね。貴族の間では貴女有名人よ。』
『どんなふうに?』
『美貌を恨まれて、呪いの掛けられた麗しの眠り姫って。…っぷ。』
『何!?何!?呪いって何さ!!最悪だよ!!もぉー!お父様のアホウ!!』
俺が知らず知らずのうちに変に広がっていた、身も蓋もない自らの噂に悶絶していると、目の前の彼女は愉快そうに話を続ける。
『まぁ噂は噂ってことね。初めてみた時も街中ではしゃいでいたみたいだし。全然健康体じゃない。噂通りなのは見た目だけね。』
『・・・え?いやそんな。別に見た目だって、…自信がないわけじゃないけど。そんな呪われる程じゃ。…その、それにあなたの方が。』
急に自分の見た目を褒めらて、頭の中が真っ白になってしまう。なんか変な返しになってしまった気がする。
『はははっ。ありがとっ。それでいて、なるほど自信がないわけでは無いと、素直ね。』
笑いながら揚げ足を取ってくる。
『いや!今のは言葉の綾ってもので!』
俺が全力で弁明の言葉を吐き出すと。彼女が顔を近づけて小さな声でニヤニヤと囁きかけてくる。
『いいわよ。別に否定しなくても。周りの男達を見てみなさいよ。みんな貴女を見ているわよ。』
近い!近いよ!…あ、いい匂いがする。俺は赤くなりそうな顔を、隠すように背ける。すると周りのクラスメートの姿が目に入ってきた。そう言えばリザリーと再会して舞い上がっていたけど、他の子とも仲良くしたいなと考え、目を合わせようとする。一斉に目を逸らされてしまった。
『・・・え。私嫌われてるの。泣きそうなんだけど。』
周囲の反応に思わず泣きそうになると、皆焦ったような顔を見せる。
『ははっ!あっははは!!違うわよ。さっき私の言った言葉をよく思い出しなさい。』
さっきの言葉と言われても、近づいてくる顔に気を取られてしまって、なんだったっけか。
――周りの男達を見てみなさいよ。みんな貴女を見ているわよ―――
何とか思いだして、そして固まる。流石に人生2度目、しかも前は男である。この言葉と相手の態度で何も察せないほど、男心に鈍くはないつもりだ。
『え、えー?そういうことなの?』
『そういうことよ。』
相変わらず笑顔で楽しそうに、俺が傷つく真実を教えてくれる。そして俺はここ1時間でもう何回目かになるかもわからないため息をつきながらうなだれる。
『もー。最悪だー。』
そんな俺の様子を見て目の前の少女はまだ楽しそうに笑っていた。
――――
『いやー。お待たせしました此方の紙を前から後ろへ、一枚ずつ送ってください。ん?リリィさんどうしました?元気がありませんね。』
忘れものを取って戻ってきたフォルス先生が人の気も知らずに話しかけてくる。正直今は自分の置かれている状況を整理するため、少し放って置いてほしかった。
『・・・なんでもありません。お気になさらず。』
『…ぷっ。』
頼むから笑わないでください。今結構いっぱいいっぱいなのです。
『そうですか。今配布した紙には、みなさんの名前が書かれています。覚えるまでは大事に保管しておいてください。』
先生のその言葉に、気を取り直して配布された紙に目を移す。成程たしかに人数分の名前が書かれていた。考え事をしていて自己紹介を聞きそびれてしまっていた俺にとっては、非常にありがたい一枚である。
部屋の壁にでも貼って、早めに覚えることにしよう。
『紙の上には、2つ空欄がありますね。これからそこに、クラス代表2名の名前が入ります。では早速決めていきましょうか。誰か我こそはという方はいらっしゃいますか。』
ふむ。よく見ると先生の言う通り。名簿上部に不自然な空欄が2つ空いている。
『じゃあ僕がやらせてもらってもいいかな。』
先生の発言にを受け一人の男の子が手を挙げて立ち上がる。同じクラスなのだから同い年で、まだ15歳の少年のはずなのだが、背が高いな。前世の俺と同じくらいはありそうだから180センチはありそうだ。年齢的にもまだ伸びるだろう。まぁ俺もまだ伸びる予定だったけどね!当時まだギリギリ高校生だったし!
身長のことを抜きにしても、落ち着いた雰囲気を感じさせ、顔も非常に良く整っている。何というか優し気な王子様といったような印象のイケメンだ。まぁ、俺も負けてなかったけどね!そこそこモテてたはずだし!多分な、もうあまり覚えていませんがね、ざまぁみろ!!
『ロイさんですね。ありがとうございます。他に誰もいないようでしたら、取り敢えず一人は決まりですね、あともう一人は…。』
このイケメンはどうやらロイというらしい。名簿の中からその名前を探すと「ロイ・ロッドフォード」という名前を見つけた。なるほどロロちゃんね。覚えておこう。取り敢えず空欄に彼の名前を書いておこうとする。すると突然自分の名前が呼ばれた
『リリィさんどうですか。』
『え?』
急に先生から指名を受けて顔を上げる。どうやら今立っている彼の他に、立候補者はいなかったらしい。困ったフォルス先生は、話を進めるため、少なからず交流があった俺を取り敢えず指名してみたといったところか。
少し考える。クラス代表、前世で言うところの学級委員というとこだろう。学級委員とは名ばかりで、話し合いの議長とか、荷物持ちとか、とにかく面倒ごとを任されていた彼らの姿を思い出す。学校生活っぽくて良いかもしれないけど。理想を言えばやはり、もっと何も気にせず学園生活を満喫したいものだ。そうと決まれば話は早い。
『えっと、その、申し訳ないんですけど、セシィが心配するので…。』
必殺、人のせいを発動する。くっく。そのうえこれを使えば相手が勝手に俺の体調の事を連想して何も言えなくなるという我ながら恐ろしい必殺技である。まぁ最近これのせいで散々な噂を流されるという、諸刃の剣であったことが判明したが、この場合は致し方がない。先生も、それならば仕方ありませんねといってくれている。
完璧な演技に納得していると、後ろから肩をたたかれる。
『眠り姫の由来がはっきりしたわね。』
『私には何のことやら。』
悪い顔をして囁いてくるリザリーに俺の冷や汗が止まらない。
『あら大丈夫よ。私だって手伝うし、無理のない範囲でやってみたらどう。折角体が良くなったのに、学園でも寝た切りなんて勿体ないわよ。勿論みんなも手伝ってくれるわよね。』
リザリーが突然声を上げて、私のクラス代表への道を強引に開こうとする。その発言を受けてクラスみんなが肯定的な言葉を各々かけてくれる。みんな裏表のない良い顔をしていた。
やられた。完全にやられた。ここで断ってしまってはただの我儘な人になってしまう。恨めしそうな目を後ろのリザリーに向けると、非常に良い笑顔で手を振られてしまった。
くそっ可愛いな!もうこうなったら仕方がないので腹をくくる。
『分かりました、出来る限り努めさせていただきます。』
『えぇ頑張ってね。応援するわ。』
こうして名簿に残された空欄に、めでたく「リリィ・フィール」の名前が刻まれることとなった。




