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悪役に恋して  作者: 冷凍みかん
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王都リンゼル

文字数少ないですが、区切りが良いので取り敢えず此処まで。

窓の外を眺める。そこには果てない地平線が広がっている。王都への移動初日に起きたワイバーンとの会合以来、特別なことも起こらず、なんとものどかな旅路である。朝が来て、夜になり、近場に町があれば宿場に泊まり、無ければ安全な馬車の中で体を休める。そしてまた朝が来て移動する。平和でこれ以上ないくらい順調な道程である。ただ一つだけ言わせてほしいのだ。



『飽きた。』


『もう暫くの辛抱です。お嬢様。』



最初こそ、移動の最中、少しずつ変化する景色に、目を楽しませて、時間を潰すことができていた。だが数時間、数日と延々と窓の外を眺めている中で、少しの変化では心が動かなくなってしまっていた。暇である。



『もう暫くって、さっきも、もう暫くって言ってたじゃない。もう暫くの後のもう暫くって要するにまだまだってことじゃない?』


『お嬢様の質問の感覚が短くなっているんです。全然時間も経過していませんよ。』



退屈すぎると、人間、時間が長く感じられるものである。確かに、さっきから同じ質問しかしていないような気がして、バツが悪い気持ちになる。



『そんなにお暇でしたら。学園の制服の着脱練習を行いましょう。ほらバンザーイ。』


実際のところ退屈なのはセシィも同じようで、御覧の有様だ。もう既に大分いかれてやがる。


『だまらっしゃい。予定では、王都に到着して学園に入学するまで1日猶予があるわけで、服の類はそこで出せば良いでしょ。』


俺のように遠方から入学してくる生徒は、珍しくも無いらしく、学園ではそういった生徒に限り、前日からの入寮が認められているそうだ。荷ほどきのことを考えた、中々気配りができる学園である。


『む、それならば。…お嬢様。』


『何?言っておくけど今のセシィの言うことは余り真面目に聞けないわよ。貴方今狂っているし。』


『それならばそれで良いのですが…。見えてきましたよ。』


『何が?私を掌で転がす愚策のこと?』


どうせろくでもないことに決まっている。 


『いえ、それも見えたら良かったのですが。前方をご覧ください。あれが我が国が誇る都市。王都リンゼルでございます。』


『え?嘘!?どこどこ!見たい!!』


窓から首を出して進行方向に目をやると、遠くからでもかすかに見える外壁。


そして、遠くからでも確かにはっきりと視認できる。雲まで届こうかという巨塔が目に入ってきた。



『さて、少し早いですが。暇ですし降りる準備でも始めましょうか。』


『はぁー。すごいなぁー。話で聞いたことはあるけど、あれがフェルシルの巨塔ってやつかな?あんなに大きいんだ。』


セシィが何かを言っているが、俺はどんどんその姿が明確に、そして大きくなって行く巨塔の存在に心奪われる。初日に見たワイバーンにも驚いたが、それが可愛く思えるほどのサイズ感である。


『はぁ。好きなだけ御覧になっていてください。私は簡単に荷物をまとめて起きますので。』


『あ、待ってごめんごめん。私も手伝うって。』


――――


『到着!』


王都を守るように広がっていた外壁は、遠くからでは、塔との比較で小さく見えていたものの、これで中々大きいものだった。なるほど、この中でなら王族の方も領民も、安心して暮らせるというものだ。暮らしの安心感は、直接その都市の発展や活気につながる。王都の中は、それはそれは活気に満ち溢れていた。


飲食店からは鼻孔をくすぐる良い香りがし、露天からは客を呼び込むための景気の良い掛け声が聞こえてくる。


『ねぇセシィ。一つだけ、一つだけ買ってきても良い?』


『ダメです。今日は早く入寮をすませて。明日に備えて休みましょう。初日から疲れて眠るなんてことがあったら、一生ものの恥になります。』


ぐぅ、手厳しい。まぁこれから三年もの間、この街で暮らすのだ。きっといくらでも機会はあるだろう。視線を少しずらすと、あちらは武具など工業製品の店舗の並びだろうか。鉄を打つ無骨な音がかすかに聞こえてくる。また別の所を見ると被服店や家具店の並びなど、他にもたくさんの店舗群が確認できる。王都というだけあって、どうやら何でも揃っていそうな雰囲気である。



『うわぁ。ポートセルも活気がある方だと思うけど、流石に王都となると別格ね。』


『リンゼルはただの王都というだけでなく、地理的にも国の中心でそのまま商業の中心でもありますからね。』


『そのうえ学園もあって知識も集まる。まさに華の都というわけね。』


もちろん美観も素晴らしい。憩いの場となっているのだろうか。目に入った広場では中心に据えられた噴水が鮮やかに虹を描き出していた。


王都の街並みを眺めていると。不意に馬車が動きを止める。


『どうやら着いたみたいですね。』



『ここがフェルシール王立学園!。…学園?ええと、お城と間違えてない?』


一見するとお城と見間違い兼ねない規模と絢爛さを兼ね備えた建物の目の前で、私たちの馬車は止まっている。


そしてその後ろには、近くでみるとより一層迫力の増す巨塔が、この春入学の新入生を言圧するかの如くそびえ立っていた。


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