王都の道中、ネタ晴らし
日付跨いでしまいました。すみません…。
『え?あれ?え?どうゆうこと?』
『嫌ですわ。私がお嬢様と離れるわけがないじゃないですか。』
『え、でも一人暮らしって。離れ離れだからって洋服を。え?』
『これをご覧ください。』
未だ困惑したきりの俺にセシィは一枚の紙を手渡してくる。
――リリィ・フィールの使用人の同行を許可する―――
『え?なんで!学園の生徒は寮で一人で暮らすことって、前に読んだ案内では書いてあったはずなのに!』
『いやですわ、お嬢様を一人で行かせるわけないじゃないですか。以前の案内にも、特別な事情がある者以外、そう書いてあるはずですよ。』
そう言うと今度はどこに持っていたのか、以前学園からと届いた、入学案内の本を差し出してくる。俺はそれを奪うと、目が抜け落ちる勢いで読み始める。
『確かに、書いてる…。でも特別な理由なんて私にはないはず!どうだ!さっさと散ってしまいなさい!!』
そうだ、ここに書いてある特別な理由。それは恐らくだが、手が付けられない位、乱暴な生活で共同生活に不安があったり、もしくは、とてもとても尊い身分のそれこそ王族の人が入寮する場合とかだろう。そう思って、前は関係ないと読み飛ばしたのだ。
他に考えられるとしたら、極端に生活力がなかったり、極端に体が弱かったりだろうか。前者は理由としては弱い気がするし、後者はそもそも入学なんてしないだろう。どちらにせよ、俺とは関係しない話であるはずだ。こいつ、学園の偉い人でも脅して権利を獲得したのではないだろうか。俺はセシィに白い眼を向ける。
『はぁ…。ご自分が何故、魔法を学ぶまでに時間がかかったのか、お忘れですか?』
言われてみて、自分の身体が弱い設定になっていたことに気づく。最近では男と女のカルチャーショックで体を壊すこともないし。実際、活動的に動き回っても、極端に身を案じられることが少なくなっていたため、すっかり忘れていた。
『あ…。いやでもさ!実際に魔法使っても何ともなかったし!ただの心配しすぎだったんじゃないかな!ほら!』
そう言って細い腕を折り曲げ、力コブを作り自らの健康体をアピールする。
『ダメです。確かに最近はすっかり元気になられましたが、1年ほど前まではちょくちょく倒れられていたじゃないですか。今回の件は旦那様から学園へ、ちゃんと正式な許可をいただいています。』
『う、いや、あれは…。』
あれはただ単に、身体が良くなったのであればと誘われる、社交の場が嫌で自分の風評を利用しただけである。要は仮病である。どうやら父が、俺の外見のことをやたら大げさに言いふらしているらしく、それに加えて中々外に出てこないことで、どうやら暇人たちの興味の種になっているらしいと、セシィから聞いたことがあった。
そんなところに出てみろ。疲れ切ってしまう、そのためこれ幸いと、病弱なことを積極的に否定はしてこなかったのだ。まさかこんなところでその弊害が出るとは。
『あれは、なんです?』
言えるわけがない。俺は目を逸らすと、ため息の音が聞こえてくる。もしやバレていたのかと肩を震わせる。
『でも!洋服!服は!私のこと着せ替え人形にした件!あれの理由には!』
『あれは、これ幸いと状況を利用しました。趣味です。』
お嬢様にどうやら同行の件が伝わってないみたいだったので。などといけしゃあしゃあと抜かしてくれる。
『正直だな!もっと悪びれろ!悪びれて!』
『旦那様にも許可は貰ってますよ。お洋服は前日に旦那様と選んでました。』
あのやろう!
『後、たまにエドモンドさんも混ざってました。フィルもです。』
『野郎ども!次会うときが楽しみね!…。いやもう会いたくない!やだよあの家!』
俺は一人馬車の中でうなだれる。まさか自分の家の中でそんな裏話があったなんでしらなかった。のほほんと一人気ままな学園生活を思い描いていた日々の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。
『まぁまぁ。ほらお嬢様良い景色ですよ。』
セシィが俺の気も知らずに、能天気なことを言ってくる。うつむいている原因の半分以上はお前だというのに。恨むような目でセシィをにらみつけようと顔を上げる。すると馬車に備え付けてある、窓の外の景色が視界に入ってきた。
『こっちの気も知らないで…。…わぁ!すっごぉーい。広い広い!』
終わりの見えない地平線がそこには広がっていた。前世では、死ぬまで見ることのなかった光景である。視界を阻害する邪魔な建物も一切なく。俺はひたすら窓からの景色に心奪われてしまう。そんな様子を見てセシィは微笑んでいる。もう恨み言を言う気など全くなくなってしまった。
窓に近づいて、暫く食い入るように外の世界を眺めていると、視界が急に暗くなる。気になって上を見上げてみると。
『え!何あれ!?でっかい!!』
巨大な爬虫類が悠然と空を羽ばたいているのが見えた。
『あれは、ワイバーンですね。大型の魔獣の一種です。』
『ワイバーン!ドラゴンなの!?すっごいなぁ。あんなに大きいんだ。』
初めてみるワイバーンに、その危険性も考えず、その大きさに唯々感嘆して見つめてしまう。
『ワイバーンとドラゴンは種族が違いますよ。本物のドラゴンはもっと大きいです。それこそ山のような大きさのモノも存在していると聞きます。』
『へぇ、ワイバーンとドラゴンって一緒じゃないの?』
てっきり小型のドラゴンがワイバーンと呼ばれていると思っていた俺は、セシィに問いかける。
『そうですね。ドラゴンは種族ごとに様々な属性のブレスを吐きますが。ワイバーンは基本的に風属性の攻撃しかしてきません。それに、単純に見た目ですね。近くでみると全然違います。』
『それから?それから?』
『あとは…。知能ですかね。ワイバーンは割とよく人を襲います。』
『…え?』
セシィがいうが早いかワイバーンが高度を落として俺達の乗っている馬車の方へ近づいてくる。
『きゃー!それってとっても不味いんじゃないの!?やばいって!』
俺が慌てている一方でセシィはすまし顔だ。これはもう、やぶれかぶれ撃退するしかないと、魔素を練り始めると、ワイバーンはまるで馬車など視界に入って無いかのように上を素通りしていった。
『大丈夫ですよ。この馬車には認識阻害の魔法がかけられています。まず襲われませんよ。』
『・・・それは先に言ってよ!!』
それで平気な顔をしていたのか。本当に俺を驚かせるのが好きなやつである。今度、いつか、絶対に、ぎゃふんと言わせてやる。そう決めた。
『しかし。こんなに近くで野生のワイバーンを見る機会なんてそうありませんよ。まるでお嬢様のご入学を、神様が祝福してくれているみたいですね。』
『どうせならもっと心臓に良い祝福が良いんだけど…。まぁいっか。ワイバーン、ワイバーンね。凄いなぁ。』
巨大な後ろ姿を見ながら、もう何度めになるかもわからない、感嘆の言葉を吐き出す。ドラゴンではないとはいえ、大きな翼で力強く空を掻いて飛んでいく姿は、十分に、この身に残る少年心をくすぐるものがあった。
『王都に行けばもっと、驚くものもありますよ。到着までまだまだ先は長いですし、そうはしゃがないでください。お体に障りますよ。』
『大丈夫だって。平気平気。うっぷ。あ、やっぱ少し気持ち悪くなってきたかも。』
仕方ないという面持ちでセシィが背中をさすってくれる。朝早くに出たこともあり、眠気が襲ってくる。
『少し休まれますか。』
『うん。そうする・・・。』
馬車は広く、女の子が足を延ばして寝られるくらい、座席も大きい。横になるとすぐに俺は眠ってしまった。




