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悪役に恋して  作者: 冷凍みかん
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少女も歩けば少女に出会う

執務室の前に着く。部屋の中からは僅かに筆が紙を掻く音が聞こえてくる。どうやら父は、いつも通りこの中にいるとみて間違いがない。こんこんと扉をノックして反応が返ってくるのを待つ。


『…誰だ?』


『お父様。リリィです。お話しましょう。お願いがあるのです。』


端的に、しかし詳細は抽象的に、尋ねた理由を告げる。


『…今忙しいんだが、まぁ良いか。入れ。』

『『失礼します。』』


父から入室の許可を得て入室し、今まさに書類と格闘している、父の姿に目をやる。

うむ。今日も大変忙しそうである。



『で、なんだ?話というのは。』


『お父様、端的に申し上げます。私今日お出かけしたいです。』


『旦那様。端的に申し上げます。お嬢様を止めてください。』


忙しそうな父の姿を見て、遠回しに言って、長々と時間を取らせるのも良くないと思った俺は、端的簡単に要望だけを伝える。そして俺が伝え終わったと同時にセシィが否定的な言葉を投げつけてくる。取り敢えず横目で睨んでおく。


そんな俺達の様子を見て、父はこめかみを片手で軽く抑える。


『なんでまた急に、天気が良いからか?エドモンドから聞いたが、昨日は実際に魔法を使ったんだろう。疲労が溜まって、倒れられてもな。』


エドモンドとは言わずもがな、エド爺のことである。授業が始まる前に分かれたはずなのに、何故授業の内容について彼は知っているのだろう。フィール家の使用人には謎がいっぱいである。



『お父様。確かに天気が良くて気持ち良さそうと思ったのも理由の一つですが。私、来年から学園に入るでしょう。その前に今一度、ちゃんと領内のことを見ておきたいのです。』



どうだ。俺の、思いのほか殊勝な理由を聞いて、父は少し真剣に考え始める。ただ何も考えず行動を起こしたわけでは無いということをアピールする。私室から執務室までの馬鹿みたいに長い道のりは、俺に素晴らしい言い訳を考える時間を与えてくれた。


『お嬢様。嘘はやめた方が良いです。そんなこと思っていないでしょう。』


『あら、嘘じゃないわ。仮に嘘だとしても、関係ない。どんな理由であれ、王都に行く前に自分の家の領地を見て回るのは、きっと有用だもの。』


『ぐぅ!小賢しいことを。』


セシィが雇い主の前で決して見せてはいけない態度をしているが無視して、どうやら真剣に検討してくれている様子の、父を見る。



『確かに。リリィの本心は一先ず置いておくとして、言っている事は一理あるかもな。良いぞ。楽しんできなさい。』


『やった!では早速行ってきます。お父様!』


俺の素晴らしい言い訳は父の胸にも響いてくれていたようで、許可を得ることに成功する。

すぐにでも出かけようと、翻すと、父から呼び止められる。


『待て待て、といってももちろん一人ではいかせられないぞ。護衛を付かせる。フィルを連れていきなさい。あとセシィ、お前も着いていけ。』


残念ながら一人気ままのお散歩タイムとは流石にならないみたいだ。


――――


私室にて、外出の準備を済ませる。セシィにも声をかけて、屋敷の正門へと向かう。



『エド爺の話だと、フィルとは正門で合流しろとのことだけど、もう着いてるかな?』


『お嬢様。どうです?フィルなど置いて二人で、良い所に行きませんか。』


セシィが訳の分からないことを言ってくるが放っておく。正門が近くなると、背の高い男が一人立っているのが見える。どうやら先に到着して待っていてくれていたようだ。


『おーい。フィルー。』


『お、来ましたね。では参りましょうか。』


目の前の、護衛を受け持ってくれた男に軽く挨拶をする。


『しかし、わざわざフィルを付けなくても良いのに。お父様も心配性ね。』


フィルは、フィール家が持つ騎士団の中でも指折りの猛者である。その若さからは考えられないくらい、落ち着いた剣捌きは近いうちに、領内一の使い手となると期待されている。

・・・ってエド爺が言ってた。正直余りピンとは来ない。



『護衛の割には随分と身軽な恰好ね。舐めているのかしら。』

『街中で鎧着こんでたら、目立って動きづらいだろう。』


セシィがフィルに軽くケチをつける。二人が合わさると大体いつもこんな感じである。同い年で、同時期に屋敷に働きに来たことも考えると、もっと仲が良くなってても良いと思うのだけど。まぁ決して仲が悪いわけじゃないのだけれど。


『仲良くしてよー。喧嘩なんか始めたら、これ幸いと私は逃げるからね。』


そう言って、俺は二人と一緒に屋敷の外へと歩き始めた。


―――――――


国内きっての、貿易地且つ観光地であるポートセルの街はいつ来ても活気にあふれている。

耳をすまさなくても、領民の楽し気な話声がいたる所から聞こえてきて、来る者の心を弾ませてくれる。


『ね!今度はあっちを見て回ろう!』


『お嬢様少し落ち着いてください。』


『良いですね。旨そうな屋台もありますし。何か食い物でも買ってきましょうか。』


『護衛が離れてどうするのよ…。』


俺の浮かれた様子をセシィはたしなめてくるが、一方フィルは割と乗り気である。どうやら護衛にかこつけて自分も楽しんでいるように見える。港街特有の潮の香りにも気分を良くしながら、領内の商店街を見て回る。


『これなんかセシィに似合うんじゃないかな。フィル、どう思う。』


『似合うんじゃないですか?買っておきます?』


土産屋でアクセサリを手に取りながら、フィルに感想を求める。どうして観光地の土産というのはこんなにも心を躍らせてくれるのだろうか。それが実のところチープな商品であっても特別な気がしてくるから不思議なものである。


『お金がもったいないので結構です。…いや、これなんかどうです?お嬢様是非着けてみてください。』


『あー、いや私はアクセサリとかは別に…。』


セシィが手に持っている首飾りを私に向けてくるので、取り敢えず受け取ろうとすると、手が滑ってそれを落としてしまう。やってしまった。傷がついていたら買取りだろうか。屈み込んで拾おうとすると、首飾りには、既に誰かの手が伸ばされていた。



『はいこれ。貴方たちが見ていた物でしょう。』


伸ばされた手はそのまま首飾りを拾い上げ、俺の首にそれを掛ける。


『これいくらかしら?もらうわ。』


話の流れが良くわからず、口を動かせないでいると。少女は此方に顔を向けて言う。


『うん。貴女に良く似合っているわ。今日は気分が良いからそれ買ってあげる。大事にしなさいよ。』


そう言った彼女は、特徴的な赤い髪を潮風に揺らしながらとても綺麗に笑っていた。




アル爺って誰だよ…。正しくはエド(エドモンド)です。修正しました(8/28)


未熟ですみません。

他にも間違いや、その他違和感ございましたらご指摘くださるととありがたいです。

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