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悪役に恋して  作者: 冷凍みかん
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てくてく歩く

『お嬢様ッ!?大丈夫ですか!?』



天井に頭をぶつけた音を聞きつけて、すぐにセシィが扉を開けて部屋の中に入ってくる。

その顔は焦りの色が強く額にはうっすらと汗がにじんでいた。俺が倒れたとでも思ったのだろうか。残念ながらはずれだ。倒れてなどいない。


頭を抱えている俺の姿を見て一言。

『お嬢様。頭、大丈夫ですか?』

ほっとしたような、呆れたような顔で辛辣な言葉を投げかけてきた。




『なるほどそのようなことが。』


セシィは先生から事の顛末を聞くと納得したみたいで、可哀想な物を見る目で俺を見てくる。でも!だって飛んだんだよ!?興奮して頭上不注意になったって仕方ないじゃないか。

負けじとこちらも強く目で訴えかける。するとより強い憐みの目を向けてくれる。



『お嬢様、あれほど無理をするなと言われていたのに。もう。』


『ぐぅ。飛べたことが嬉しすぎて、下ばかり見ちゃったんだよ。仕方ないじゃない。初めてなんだから。』


いくら自己弁護の言葉を並べてみても、セシィの目の色は変わらないままだ。そこで先生からフォローが入る。


『しかし、初めてで、天井の高さまで飛び上がるとは…。きっと優秀だろうとは思ってましたが、これはちょっと想像以上ですね。』


先生からのお褒めの言葉を武器に胸を張って、どや顔でセシィを見る。ほれみろ、憐れまれる筋合いなどないのだ。


『はぁ…。女の子が天井に頭をぶつけるなんて。コブでも出来たらどうするんですか。』

『あらやだ、私コブ付になっちゃった?』

『笑えません。笑いませんよ。』


そう言ってセシィは俺の頭に手を乗せてコブの有無を確認する。


『コブは出来ていないようですね。良かった。』

『まぁ余り勢いはなかったからね。突然のことで大げさに声に出しちゃったけれど。』

『淑女が出して良い声ではありませんでしたね。えぇ間違いなく。』

『なにおぅ。』


―「くすっ。」―


セシィといつも通りのやり取りをしていると。目の前から、耐えかねて、吹き出してしまったかのような声が聞こえてきた。その声で、そう言えば今は二人ではなかったことを思いだす。そして無性に恥ずかしくなる。


『し、失礼いたしました。』


『くっくっ…。いえ、此方こそ失礼を。お二人は仲がよろしいのですね。』


『別にそんなこと『ありますよ。ありますとも。』ちょっとセシィ被せないで、後その自信に満ち溢れた顔をやめて!なんかすごく恥ずかしい!』




『くっく…!。で、ではお時間もちょうど良い所ですし、今日の所はこれまでといたしましょう。リリィ様。セシィさん。これからよろしくお願いします。』

先生は今にも破顔しそうなのを精一杯耐えながら、今日の所業の終わりを宣言する。本音を言えば、もう少し延長したいところではあるが、最初から長々と引き留めるのも居心地が悪い。


『はい。お嬢様をよろしくお願いします。』

『え?私より先にそういうこと言っちゃうんだ。まぁいいや、此方こそ、よろしくお願いします先生。』


『ではこれで失礼させていただきます。』


先生はそう言うと、一礼して部屋を去っていった。セシィが案内役としてそれについていく。このままこの部屋にいても、することもないので、俺は私室へと戻ることにする。


私室に着くなり、いつもの如くベッドへとダイブを試みる。そして寛ぎながら今日の出来事を反芻する。


『やっぱり魔法って楽しいなぁ。それに、フライを成功させたときの先生の顔、もしかして俺才能あったりぃ。ふわぁー。寝んむく…なってきた。』


これからの授業も楽しみだなぁ、などと考えていると、意識が遠のいていった。




『お嬢様!起きてください!もうお召し物がしわくちゃじゃないですか。』

『え?あぁ寝ちゃってたのか。今何時―。』


『もう晩御飯の時間ですよ。準備もできているのでどうぞお召し上がりください。』


そう言えば香しい匂いが、鼻孔をくすぐっているような気がする。


『お父様は?』

『仕事です。いつも通り。』

『禿るぞ。いや禿ろ。』


折角今日の成果を話そうと思ったのに、全く娘心のわからない父親だ。俺が純度100%の娘だったら拗ねてすぐにでも反抗期だとわかっているのだろうか。いや知らんけど。



いつも通りの、美味しい晩御飯をいただき、お風呂をすませて、身体を休める準備をする。



『おやすみなさい。今日は早く寝てくださいね。平気そうには見えますが、初めての魔法でどの程度消耗していらっしゃるか、分かりませんから。』


『大丈夫。大丈夫。心配しすぎだって。まぁ確かに興奮しすぎて、少し疲れちゃったから今日はもう寝ます。セシィ、お休み。』


笑顔で就寝の挨拶をすると、少しセシィの顔が朱に染まったように見えた。


『お嬢様。私今晩眠れないかもしれません。』

『勘弁してください。寝てください。せめて直接それを私に言わないでください。』


セシィが私室から出るとすぐ脱力してベッドに寝転がって目を閉じる。すると、興奮して寝つきが悪かった昨日とはうって変わって、すぐに夢の世界へと入っていった。



―――――――――


コンコンッ。


『おはようございます。お嬢様。』


『おはよう。セシィ。』


『あら、今日はちゃんとお目醒めになっているのですね。』


『そんな続けて寝坊なんてしないよ。そもそも私が余り寝坊しないのはセシィが一番良くわかっているでしょ?』


『まぁそうですが残念です。』


『セシィに対する恐怖感が良いように作用しているのねきっと!そう確信した!今ので!』



朝の支度をすませて、朝食を取りながら、今日一日の予定を考える。今日は何があったっけ?たまには待女に頼らなくても平気だと言うところを見せねばなるまい。


・・・あれ今日の予定ってなんだっけ。全然思い出せない。



『今日は特に何もご予定はありませんよ、お嬢様。』


『そう、流石ね。言われる前に先回りなんて。』


『顔にそう書いてありましたから。』


そうか。そうなのか。顔に出ていたならば仕方がない。

しかし、予定が何もないとなると、どうすれば良いのだろう。二度寝するにも眠気がないし、本を読もうにも、こないだ読み返したばかりである。魔法の練習は…、目の前の待女が許してくれない気がする。窓から外を眺めてみる。非常に良い天気だ。


『お出掛でもしようかしら。』

『ダメですよ。襲われたらどうするんですか。』


ふと声にでた事が即座に否定される。


『む、良いじゃない偶には。社会勉強よ。べ・ん・きょ・う』


正直な所、暑いし、言うほど出たくもなかったのだが、そうもあっさり否定されると意地でも外に出たくなってくる。否出てやる。


『ちょっとお父様に許可貰ってくるわ。』


言うが早いか、俺は私室からおそらく父が居るであろう執務室に向け、てくてくと歩きだしていた。


活動報告にも書いたのですが、5話以内の入学という公約、守れなそうです…。

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