自己チューと狐?の冒険9
森の木々を滑らかに避けていくコカトリス。
これなら確かに、あっという間にゴブリンの村に着くな。すげえスピードだ。
チラリとモグを見るとコカトリスの背中に顔を埋めて泣いてるように見えた。
俺も自分に起こった事について色々考えてたんだが。どうにも整理がつかないでいた。
「お兄ちゃん村が見えてきた!」
モグの声に顔を上げると木々の隙間から建物っぽい物が覗いている。
モグは村に薬があると言ってた。でも今さっきまでの事を考えると、すんなりいくとは到底思えなかった。
******
「おお。モグか、よくk…!?」
村を囲うように申し訳程度のフェンスがあるんだが、その手前に二人の若いゴブリンがいた。
眉間にシワを寄せ、明らかに敵対心剥きだしって感じだな。
「モグ、そいつらはどうした」
「急ぎよるけん、ごめん!通るよ!」「おっ、おい!待て!」
強引にコカトリスを進ませようとするモグ。こいつぁ、やっぱ思った事が当たってそうだな…。
「どうした、モグ。コッコを村に連れて来るとは、何事だ」
村に響く聞いた事のある声。あのじいさんゴブリンだ。
一緒にいる俺達を一瞥すると、モグに向き直る「なぜコイツらがここにいる」
「お姉ちゃんがコッコに噛まれたと!じっちゃん、薬どこね!?」
じいさんは、慌てた声のモグとは正反対の極めて冷静な声で
「ふん、それならそれでよかろう。なんで連れて来たと聞いているんだ」
モグの顔がサーッと青くなっていくのがわかった。
「なんとなく、状況は分かった。モグ、このままペンデールの近くまで行く事はできるか?」
間に合うかは分からん。が……
小声でモグに聞いてみるが、反応無し。
「その二人を捕らえて工房に縛り付けておけ」
入口の若いゴブリン達にそう命じると俺達をコカトリスから引きずり下ろそうと手を伸ばしてくる。
「コッコ、よかけん中入ってしまえ!」
コカトリスの首の後ろをぱしぱし叩きながら言う。
クエエエエエ!と鳴いたかと思うと身軽に前を塞いでいたゴブリンを悠々と飛び越え
村の中に入ってしまった。
「モグッ!お前何を!!」叫ぶじいさんを余所にコカトリスを走らせる。
「うぅっ、モグ……?」苦しそうに声を出すサリーの肩はもう大分白くなってきている。
加えて首筋のあたりと肘のところまでが白っぽく変色してきている。
「大丈夫、二人は僕が助けるけん!」
じいさんの工房小屋から少し離れた位置の家に行く様コカトリスに指示すると
モグは急いで家の中に入っていった。
ガツッ!と何かが背中に当たる。「ってぇ!」
何だ?なんか固い物が当たった…石か!?
「お前ら何で生きてる!それにモグをどうしたんだ!」
狭い村だ。あっという間にゴブリン達に囲まれてしまった。次々と投げられる石。
危ねぇ!咄嗟にサリーを庇う。
ジーンと鈍い痛みが走る。黒ローブにやられたのが結構響いてて、痛みが合わさってのたうちまわりたい気分だ。
「やめろ、お前達」
その声に投げられる石が止む。群衆をかきわけ出てきたのはじいさんだった。
「分かっただろう。始めからわし等は協力なんぞする気はなかった」
「だろうな。モグがコカトリスを手懐けた時、そうだろうなって思ったよ」
「あの坑道から銅が採れなくなったのは本当だ。理由は違うがな」
色々合点がいった。最初からこいつら、追いはぎ目的で村に入れたんだな。なんつー質の悪い連中だ。
だがここで、はいそうですか。と諦めるわけにいかねぇ。こちとら命かかってんだ。
「じいさん、この村に石化の薬があるらしいじゃねぇか。ちからづくでもそれ貰うぜ」
「どこからそれを…ふん、貴様らなんぞに貴重な血清を渡すわけなかろう。
あれは村の者の万一の為に置いてあるものだ」
おっ。モグの話はまじだったか。薬まで無いなんてなったら膝から崩れ落ちる所だった。
と、唐突に家の扉が開いた。中からはモグの姿が。
「じっちゃん!石化の薬、どこやったとね!」
ふん、と鼻を鳴らし「教えたのはお前か。なんでそんなにコイツらの肩を持つ!」
そうだそうだ、と野次が飛ぶ。
「ゴブリンは仲間と家族ば大切にする事、仁義を重んじる事!そうやろ!」
「そうだ、ゴブリンは何よりも仲間を大切にする。だがそいつらは人間だ。お前がやってる事は全然違う事だぞ!」
「違わん!」
モグの気迫におされるじいさん。「な、なにを馬鹿な事を」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは僕ば命懸けで守ってくれた!美味しいご飯だってくれた!
ここまでしてくれた人はもう仲間やん!仲間ば裏切るとか出来ん!
受けた恩を仇で返すくらいなら、僕みんなとだって戦う!」と、
どこから持ってきたのかモグは細身の短剣を取り出した。
呆然とするじいさん。ヒソヒソと村のゴブリンが囁きあってる。と。
「ちょいとお前さん達、道あけな」
よく通る声がしたかと思うとサーッとゴブリンの囲いが割れ一人のおばさんゴブリンが
こっちに歩いて来るのが見えた。
「お母さん!」モグはそう言うと、おばさんゴブリンに駆け寄る。
まるでアシカ亭の女将さんを彷彿とさせる迫力のおばさんゴブリンは
パシン!と一発、モグの頭を叩くと短剣を取り上げるとツカツカと俺達の前まで歩いてきた。
こええ、なんつう迫力。
「あんた達、コッコから降りな。なに、とって喰おうなんて思わないから安心しな」
あまりの迫力にビビる俺。回りのゴブリン達も気のせいかオドオドしてるような。
素直に降りるとおばさんは素早くサリーの腕や肩を触る。
「うん。まだ噛まれてそこまで時間は経ってないようだね。モグ、このお姉ちゃんを家に連れて来な」
そこまで言った所で金縛りからとけたように、じいさんが話しかけてきた。
「おい、ナタリア、お前までそいつら人間を助けるとか言うのか!」
「お父さん、別にアタシは人間の味方じゃあないよ。いつだってアタシは息子の味方さ。
息子が仲間だって言ってんだ、それなら親として出来る事をするのが筋ってもんじゃないのかい」
「~~っ!どいつもこいつも、勝手にしろ!」そう言うとじいさんはスタスタとどこかへ行ってしまった。
俺達を囲んでいたゴブリンもそれを合図にしてちりぢりに消えていった。
******
ハーブのいい匂いが家の中に漂う。モグの家は村のちょうど真ん中あたりに位置していた。
窓からは引っ切りなしに中の様子を伺うゴブリン達の姿が。
でもおばさんが睨みを効かせるとピューッと逃げていくの繰り返し。
気付いてなかったんだが、黒ローブとの戦闘で至るところに切り傷やら打撲やらしてたようで
気が緩んだ途端ものっすごい激痛に見舞われ、絶賛身動きがとれない。
サリーは例の石化の薬とやらを飲んで寝ている。
さっきまでの苦しそうな顔が嘘のようにスヤスヤ寝てやがる。
聞いた所、この石化の薬ってのはコカトリスから作った血清らしいんだが
コッコは他のコカトリスに比べて毒性が強いらしいってので応急処置にしかならないだろうと言われた。
明日の朝一番でペンデールに向かう事になった。
「モグを助けてくれたんだってね。ありがとう」
深々と頭を下げるおばさんとは打って変わって気の良さそうな優しい感じのモグの親父さん。
俺の身体も心配してくれて、念入りに化膿止めの薬草をつけてくれた。
包帯を一通り巻き終わった所で、親父さんは「本当に申し訳ない」と再度頭を下げてきた。
「義父さんの事、申し訳ない。モグの恩人をあわや命が絶たれてしまう程の
危険な目に合わせてしまった」と。
「ずっと僕達の村は銅が採れない事で経済的に厳しい状況でね」
モグの親父さん、ウェイトさんが言うには。
坑道から銅が採れなくなってしまったのは本当で
おそらく採りつくしてしまったのだろうという事だった。
それまで工芸品での収入がほとんどだった事もあり村はすぐに財政難になってしまったという。
元々狩り(前にキャラバンを襲うゴブリンってのを言ったと思うがそれね。)に抵抗があったウェイトさん達は途方に暮れてしまったという。
それでどうしようと考えあぐねている所に俺達のような抗魔鏡を求める旅人が度々やって来るのを脅す事でなんとかやってきていたらしい。
石化バットのくだりについては、行った先の坑道で石化バットとは比べものにならない大物
コカトリスを見たら逃げていくだろうと考えての事だったそうだ。
事実かなり成功したんだと。その際にもし死んでしまっても荷物が残るなら盗みとろうというのがじいさん達の作戦だったんだ聞いて開いた口が塞がらなかった。
今回誤算だったのは、サリーの異様な強さと乱入してきた黒ローブの事。
黒ローブについては、モグも村のゴブリンも全く知らないという。
「その君達を襲った黒ローブの奴に危険を感じたコッコが君達をも襲ってしまったんだと思う」
小さい頃からモグと育ったコッコはモグを親のように思ってるらしい。そのモグに危険が
迫ってるのを感じて黒ローブの所へ行こうとした所、俺達が立ち塞がった。邪魔が入ったように見えたんだろうな。
「ほら、いつまでそんな二人して謝り続けてんの。スープ冷めちまうよ。早くこっち来な」
モグのお袋さん、ナタリアさんが言う。そうそう、さっきからめっちゃいい匂いしてんだよな。
小綺麗なテーブルに所狭しと料理が並ぶ。
ハーブを漬け込んで骨まで柔らかく蒸したっていう鶏の蒸し焼きは絶品だ。
ナタリアさん自慢の季節の野菜スープが蒸し焼きに合ってて酒が呑みたくなってくるなこりゃ。
「あのサンドイッチもがば美味しかったけど、やっぱお母さんの料理が一番だ!」
ニッコニコのモグ。満面の笑みを見てるとこっちまで嬉しくなるな。
「朝はモグにペンデール近くまで送らせよう。コッコならすぐだからね」
「すみません、何から何まで」頭を下げる俺にいやいや!と手を振るウェイトさん。
「あんた達の目的には協力出来そうにないからね、それくらいさせておくれ」
そう、結局抗魔銅は村にはないらしい。サリーの目的は完全に潰れてしまったな。
「あ、そういえば」
ウェイトさんがポンと手を打ちながら言う。
「昔の事だから今もまだ御健在かはわからないんだけど。
一度抗魔鏡をペンデールに卸した事があってね。
品のいい魔術師さんに買って頂いた事があるんだ」
おお、まじか。ここにきて新情報。いかにもRPG!ってなに言ってんだ俺。
「たしか、ノートさんだったかな」
ブホーーーーーーーー!!!口に含んだスープ全解放。
「ゴホッ、ンゴ!」
「だ、大丈夫かい?」
ノートって何気に珍しい名前なんだが、てか親父そういうの好きだったな。
「それ多分、うちの親父です」
「ええっ!?」重なる三人の声。いたたまれない。これはいたたまれない。
「ま、まぁ手がかりが見つかって良かったよ……とは言っても君達の望む物とはいかないかもしれないけど」
明けて次の日。
日帰りで帰る予定だったからウィル心配してるだろーな。
まだ噛まれた部分が薄白く、腕を上げる事は出来ないらしいがなんとか自力で動けるまでは回復したサリーと
茶色のマントを羽織ったパッと見誰かわからないモグと共に一路ペンデールを目指している。
ある程度の事情を話したサリーは色々察していたようで、すんなり把握したようだった。
噛んだ本人だというのに意気揚々とコッコの背中に乗るあたり
サリーだなぁ。なんて意味のわからない感想を抱いているとすぐにペンデールが見えてきた。
「ほんと早いわねぇ。まさかコカトリスに乗る事があるなんて、思いもしなかったわ!」
「コッコの足は他んコカトリスよか早かけんね!」自分の事のように嬉しそうなモグ。
「そろそろ人目につく場所まできたな。どうする?」
どうする?とは、モグが計画してる野望を見透かして出た言葉だ。
「え?、えと……」歯切れが悪い。
「お母様から、あたし達と一緒なら少しだけ行ってもいいって言われてるわ、どうするモグ?」
「ほ、ほんなこつ!?」
そりゃあこんだけ深くマント着込んでるの見たら察しはつくわな。
昨日からソワソワしてて俺達についてペンデールに来たかったって所だろうし。
「迷い子とかならねぇように俺達から絶対離れんなよモグ」そういってお互いに手をギュッと握りしめた。
見えてきたペンデールの門、に、なんだ?
普段手続き待ちで列を作ってる馬車が全くない。それどころかみんな手持ち無沙汰のように、それぞれテントを張って、野営してる……?
サリーも異変に気付いたようでチラリとこちらを見やる。
門から少し離れた場所で降り、徒歩で近づく。さすがにコカトリスはやべえだろう。先に村で待ってるようにモグが言うとコッコは名残惜しそうにモグに体を擦り付けた後、村へと走り出した。
検問の為の門は固く閉ざされ、衛兵の姿はまばら。なんだか凄く慌てた様子が見てとれた。中の詰め所も慌ただしい。
「おおお、お前さん外にいたんだな!アデル坊、良かった良かった……」
知り合いの衛兵が俺に気付いて出てきてくれた。「どうしたんだよ?この騒ぎは一体?」
「実は中で暴動騒ぎが起こっててな」
「えええ!?」
「ほんとなら今部外者は一切立入禁止なんだが、見逃してやっから早く通んな」
そういう初老の衛兵は顔を近づけ小声で続けた。
「アデル坊、俺も詳しくわかんねぇんだがよ、暴動ってのがお前さん家を含めた数件を
変な連中が襲ってるって話しなんだよ」
はい、どうも~!
真剣な展開にどうかと思われ企画すら無くなったかと思われましたが
無事再開になりましたーパフパフ。
でははじめましょー。アデル・ノートの一言ノート~。
はい早速お手紙読みますよー?
えーなになに、ブルティア在住裁縫大好きさんからのお手紙。
アデルさんこんにちは!はい、こんにちは~!
突然ですが、お仕事はされないのでしょうか!
小さな事からコツコツとやるものいいと思います!
汗を流し、働いた後のご飯は美味しいですよ!
それでたまには大きなお仕事もして頂けると助かり…
……。
職場の上司から手紙キターーーーー!
…は、はい。てなわけでね、お時間なんでね、しーゆー。
誰だこれ選んだスタッフ!ちょ、ほんと止めて!
え?
手紙の人が来てる…?
待って待っていいよいいよ入れなくていいって!
暴露大会みたいになるやんけ!ちょ、まじ!勘弁してよ!デイj