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自己チュークエスト!  作者: くもいひも
8/24

自己チューと狐?の冒険8


「こ、ここらへんは、歩きにくかけん、大丈夫ですか」


オズオズと聞いてくるゴブリンの子供のモグ。

坑道までの道案内をしてくれてる。のは、いいんだが。


「も、も少し、ゆっくり行こうぜ、お二人さん」

ダメだ!こいつらの体力にはついていけねー!

それにこちとら徹夜で寝てねぇんだっての!気絶はしてたけどさ。


「はぁ。ほんっと、だらしないんだから!モグ君、ここらで少し休める所あるかな?」

「そんなら、あっちん方に、か、川が」

「決まりね。そこで少し休みましょ」

と、さっさと歩いていく二人。

待て待て。だから俺を置いて行くなっての!




******




川のせせらぎが疲れた体に心地いい。あー、疲れた。

「なぁ、ちょうどいいから昼にしようぜ。腹減っちまったよ」


もう日は真上に来ている。

実は出発前にギルドでも評判のいいカフェ、ぺんでえるで包んでもらった

ボリュームたっぷりサンドイッチとオニオンスープが気になって仕方ねぇ。

これ俺がペンデールギルドに居る時、一回も買えなかった人気商品だ。



「そうね、石化バット退治もあるし。体力つけておきますか」

そう言うとサリーは腰につけた小さなバッグから紙包みを取り出した。

「ほい。ぺんでえるのパンはすぐ売り切れるんだから。ラッキーだったわ~」

ホクホク顔で俺にも同じ包みを渡す。サリーもかなり楽しみだったみたいだな。


さてさて〜?気になる中身はっと。

ふわふわな丸パンを一個まるまる上下に切ったやつ。その中には

絶妙な焼き加減のベーコンと厚めの肉汁たっぷりパティ。レタスの上には、これまた厚切りトマトにとろけたチーズが。

そこに特製ソースが満遍なくかかっていて、頬張ると口の中いっぱいに旨味が広がっていく。


こりゃ人気なだけはあるな。すげえうまい。と

ここでその様子をジーッと見てるモグに気付いた。おっと食べるのに夢中になりすぎた。

モグは俺達から距離をとりつつ俺達の事を見ている。


「どうだ、食ってみるか?食ってる物は人間もゴブリンも大差ないんだろ?」

そういいながら、半分に分けたサンドイッチをモグに差し出す。



まさかの展開といった感じのビックリ顔。

「い、い、いいと?、ですか?」

「俺達だけ食ってたんじゃ悪いじゃねぇか。ただでさえ道案内なんてしてもらってんだからよ」

そうだそうだーと、サリーもサンドイッチを小分けにしている。

これまた一際ビックリした後、オズオズと近づいてくるモグ。目はもうサンドイッチに釘付けだ。


それにしてもよ。

改めてこうやってマジマジと見ると人間の子供となんら変わんねぇんだな。

外見は全く似てねぇけど。なんつうか、中身的なもんが。


ゴブリン、モンスターってだけでめっちゃビビってたけど。

あぁ、大人のゴブリンはそりゃ怖いけどさ。このモグに関して言えば、全然平気だ。


「うわぁ、うまか~!このベトベトするとが特に!」

ソースで口の回りをベタベタにしながら嬉しそうに食べるモグ。

「ほらほら、手で拭かないの」と川の水で濡らしたハンカチを差し出すサリー。

モグはハンカチも見た事ないようで、すげえ珍しがってた。



一通り食事も済んで、水筒に入れてたオニオンスープを配る。これまたうまい。

「あ、ありがとう。……人間のお兄ちゃん、お姉ちゃん」モジモジとお礼を言ってくるモグ。かわいい奴だ。


「さぁて~と、そろそろ行きますか!」立ち上がりながらサリーが言った。

スープの入ってた水筒に川の水も補充したし。食って休んだおかげで体力も回復した気がするし。

「パパッと終わらせて、早いとこペンデールに帰ろうぜ!」

その時何故だか、モグの顔色が良くないように見えた。

「お、おい。どした?食い物合わなかったか?」俺の声にハッとしたように顔を上げると「う、ううん!なんでも、なかよ!」と立ち上がり先に歩いていたサリーの側まで小走りでかけて行った。

こうして俺達は再び、坑道のある森の奥へと歩き出した。




******




休憩した川から歩く事1時間ってくらいか。

鬱蒼と茂る木々に半ば隠れるようにして、その坑道の入口はあった。

「うへぇ…中真っ暗」

長い間使われていない坑道に、松明がともってるわけもなく。

じいさんゴブリンから渡されていた小さめの松明に火をともす。あっち!


「ぼ、僕……」と言いかけたモグに

「ありがとう。中は危ないからここに居てね、モグ」とサリー。

いくらサリーがいるっつっても子供を守りながらは厳しいだろうしな。

「おう、任せとけ!(サリーがなんとかすっから)」バシッと背中を叩かれる。地獄耳すげぇな!おい!

何か言いたそうな顔のモグだったが、モゴモゴとした後、とぼとぼと近くの木陰へ移動していった。


「なぁ、思ったんだけど足手まといになりそうな俺m」

「何?ほら早く行くわよ」却下されました。

暗い。まじ暗い。明かりは俺とサリーの持つ松明二本のみ。

途中壁にかかってる松明に火をともせないか試してみたが、しけってるようでダメだった。

「アデル、足元注意ね。かなりデコボコしてる」

確かに。長らく整備されてない地面は剥き出しの土が所々隆起していて足をとられそうになる。にしても、こんなボコボコなるか?


「なぁ、サリー。」

「ん?」

俺は少し気になっていた事がある。ブルティアに滞在していた冒険家PTのうちの一つ。

「ブルティアによ、二人組の連中でサリアからの冒険家が居たんだけどさ」

その言葉にサリーはピタッと歩みを止めた。

「一人はひょろっとした背の高いイケメンだったんだが」

そう、俺はぺんでえるでこいつの話を聞いていた時にふと思ったんだよな。

「もう一人がイケメンより頭一つ小さいくらいの、それでも充分背のたけえ、女だったんだよ」


「背の高い……それってもしかして、金のラインが入ったあさぎ色のローブ着てた?」

おそるおそると言った感じで聞いてくる。

「そうか。やっぱあれがお前の言ってた秘密主義魔術師か」

「えっ、どういう事?なんでニーナがブルティアに?」


「とにかく、これ終わったらさ。ギルドの事もあんだろうけど、どうせ通る道だし。ブルティアに寄ってかねぇか」

「そうね。事と次第によっちゃ無視できな」

サリーが言葉を出したのはわかった。でもそれは俺の耳には届かなかった。


ゴゴン!という音に続いて凄まじい縦揺れが坑道を襲ったからだ。なんだ、なんだ!?

暫く揺れたかと思うと「……アデル」

静かに声を出すサリー。後ろ手で距離をとれ、といってるのがわかった。


今の揺れはなんなんだ、まるでデカイモンスターが頭をぶつけたみたいな。

警戒しながらジリジリと下がる。と、その時。



「クゥエエエエエエエ!!!」

耳をつんざく金切り声。なんだこれ!?耳いてえ!


「嘘っ!?コカトリス!?」

坑道の奥から姿を見せたのは、首から上はニワトリっぽい。

その下は獅子のようなガッシリした体。薄暗い坑道にテラテラと光る鱗が異様な全身真っ白のモンスター。

目だけが血走ってるように真っ赤に光ってる。

ぬうっと首を持ち上げると天井スレスレに頭がくる、でっけええええ!


「なっ、どういう事!?コカトリスなんて大物がいるなんて!」

サリーめがけて前脚を大きく振り下ろすコカトリス。

ドォン!という音と共に土煙が上がる。

これ、こいつの足跡で地面がボコボコなってんじゃねぇか!?

すんでの所をひらりとかわし松明を前に身構えるサリー。

「コイツはあたしが止めるから、外まで走って!」

「お、おい待て!武器もねぇのにどうすんだ!石化バットなんかと比べもんになんねぇぞ、これ!」

俺は自分の腰にさしていたショートソードを投げ渡した。

「あら、気が利くじゃないアデル」

アホか!丸腰の松明のみとかいくらなんでも無謀すぎるだろ!


そんな時「あああ、駄目駄目っやめろ!こらー!」

背後から叫び声がした。思い切り振り向くと

なんとこちらに走り寄って来るモグ、とその後ろには坑道の薄暗さよりなお黒い、ローブ姿が。



モグは気付いてない。背後の黒ローブは持っていた剣を振りかぶりモグに一直線に振り下ろそうとしている。

おいおいおい、なんでコイツがここに居るんだ!


そう思うより早く手はモグの方へ伸びていた。

ザグッ!と重そうな剣が音を立てて地面に突き刺さる。

「えっ、ええっ!?!?」

俺に引っ張られ、勢いで一緒に尻餅をついたモグと俺。

スーッと音も無く剣を構え直す黒ローブ。

「えっ誰?誰だ、あんたっ!」

黒ローブを見るモグはひどく混乱してるみたいだ。


「ってか、なんで入ってきたんだよ!石化バッドなんかよりやべえのが」

「あれは、うちの!」

そうこうしてる内に再び剣を振り下ろす黒ローブ。うわやべえ!

「この忙しい時にっ、あんた、何者よっ!」

ガギィン!とショートソードであの重そうな剣をはじくサリー。

見るとクチバシを大きく開けたコカトリスが!サリー後ろ!後ろ!!


「もう、ほんと忙しいわね!」クルッと身を捻り燃えさかる松明をコカトリスに向け牽制する。

「アデル、悪いけど、そっちの黒いのは任せたわよ!」ヒョイッとショートソードを渡してくるサリー。

「おまっ、これ渡したら、お前どうすんだよ!」

俺の持っていた松明をひったくると「なんとかなるわよ!」

両手に持った松明をブンブンと振りコカトリスをジリジリと後ずさりさせていく。


まじかよ!いけるのか!?この状況、ええい!

「モグ、俺とサリーの間から離れるなよ!」こうなったらもう腹くくるしかねぇ!


見た目もさっきのサリーが弾いた感じからも、こいつの剣がスゲー重いのは間違いねぇ。

剣術なんてまともにやってねぇ俺じゃ真っ向から防ぐのは危険だ。勢いを殺して受け流していくしかねぇ。

やや斜めに構えたショートソード。折れたりとか無しだぞ相棒。頼むぜ、まじで!


「……」

黒ローブはおもむろに剣を下げると、体をねじり、坑道の壁へと剣を向ける。

それ剣止まんじゃね?と思ったのも束の間。壁の板張りを突き破りガラガラと壊しながら、その破片ごと切りつけてくるじゃねぇか!

「嘘ぉ!?」こんなん受け流すとかできねぇじゃんか!屈む?モグは!?


ギィィィィィンン!響く金属音。「いってぇぇ!」ショートソードを立て、体で支えるように受け止めるが、身体が軋んで悲鳴を上げる!

「モグ、しゃがんでろおおおお!」声を張り上げる。

ふと身体が浮き上がる感じがするとそのままの勢いで

剣の圧力で壁に押し込まれる。なんつー馬鹿ヂカラしてんだコイツ!


ミシミシと骨が悲鳴を上げる。支えた肩に食い込み痛みが走る「てんめぇぇ!」

立てたショートソードを倒しながら体をしゃがませ脱出。

相手の剣は俺の頭上で止まってる。勢いで壁に刺さってんじゃん!


ショートソードを構え直し、黒ローブの剣を持つ腕に振り下ろすと

ガギン!となんとも鈍い金属音。だが黒ローブは痛がるそぶりも見せず剣の柄から手を離し


「ぶッッ!」

思いっ切りパンチをもらっちまった!ほ、星とぶ……

「お、お兄ちゃん!」モグが吹っ飛んだ俺に駆け寄る。クラクラする頭で前を見ると

やはり、なんのダメージもないように剣を壁から抜き取ろうとする黒ローブ。


あああ、そいやこいつ、下に鎧着てるんだったか?ミスったな。

「クゥエエエエエエエ!」

コカトリスの金切り声に我に返った。やべえ、んな寝てる場合じゃねぇ、立て直さねぇと!

チラリと後ろを見ると松明を上手く使いコカトリスの前脚攻撃をかわすサリーの姿が。

すげえ、流石だな…。サリーは炎に気を取られ、上げた右脚を振り下ろせないでいる

コカトリスの左脚目掛けて松明をかざそうとした、その時だった。

「お姉ちゃん待って!コッコを攻撃しないでー!」


!?

んなっ、何を思ったかモグが俺の横をすり抜け

なんとサリーとコカトリスの間に割り込んじまった!

「ばっ、ばか!何してんだモグ!あぶねっ」

と、唐突に猛烈な衝撃が横っ腹に響いた。


んぐ!?なんだ、なにが!?

見ると黒ローブの足。なぁるほど剣を取り出すのは諦めて蹴りか。なるほどじゃねぇ!

「ってぇ!」

あまりの痛みにうずくまる俺。まるで鉄の棒で思いっきり殴られたみたいだ。重い蹴りしやがって…!


「モグ、危ない!!」

叫び声に思わずサリー達の方を見る。

モグを庇い抱きしめるサリー。その肩はコカトリスの大口に噛み付かれていた。


噛まれた!?



「コッコ!バカっ!お姉ちゃんを離せ!コッコ!」

モグがコカトリスの顔をバシバシ叩いている。

コカトリスっていや、有名な石化モンスター……だよな、あれ?石化毒ってどこにあるんだったっけ?

グルグルと考えが回って纏まらない。サリーの表情は苦悶に満ちている。

確か脚の爪は鋭いけど毒はないんじゃなかったっけ。てことはまさか……!


ジャリッ

すぐ横で響いたその音に全身の身の毛がよだった。

いつの間に引き抜いたのか、その手には壁に突き刺さってたはずの剣が。


「~しのアデルに手を出すなぁ!」

黒ローブが俺に剣を向けようとしたその時、サリーの叫び声とともに

顔を隠していたフードに勢いよく松明が当たりローブに火が燃え移った。

「!!……!!」それまでとは対照的に手をバタバタとさせ火を嫌がる黒ローブ。

と、足元の隆起した土に足をとられ尻餅をつくように転んだ!!


「っ!うおりゃあああ!」

ここでやらなきゃやられる!勢いよく立ち上がると

なおも火を消そうともがく黒ローブの顔めがけ

体重をのせた一撃を叩き込む!


ズグッ! ……な、なんだこの手応え。まるで固めの土を刺したみたいな。

黒ローブはショートソードを掴み頭からひき抜こうとするも

力が入らないようで、ただジタバタとするだけだった。

動きが鈍くなってきたかと思うとやがて動かなくなった。


ショートソードを引き抜こうと手をかけると……ん?なんだこれ?まるで泥のように全身がグズグズと崩れていき、少し焦げた紙とローブを残して消えてしまった。


「そうだ。サリー!モグ!」

振り向くと、頭を垂れてモグの傍で座り込んでいるコカトリス。あれ、目が赤くない。

すっかり大人しくなった様子のコカトリスを余所にモグはサリーを背負おうと必死になっている。

「お兄ちゃん!早く、お姉ちゃんを!お姉ちゃんが死んじゃう!」


見るとサリーの噛まれた部分が白っぽくなってきている。

「!!おい、しっかりしろ!大丈夫かサリー!?」

「ぜぇっ。うぅっ……?アデル。モ、モグ、は無事?」

「モグは大丈夫だ。黒ローブもなんとか。

コカトリスの奴はなんでかわかんねぇが大人しくしてる。

今んとこ襲ってくる気配はねぇみたいだ」


「よかった……」まるで逆上せたみたいに顔が熱く額の汗がすごい。でも顔以外、体は汗一つかいていない異様な状態。

一刻も早くペンデールに戻らねぇと……ああ、でも歩きじゃ遅すぎる。

コカトリスの毒は即効性だったはず、どうする!?

「お兄ちゃん、村へ!、お姉ちゃんを僕達の村に運んで!薬があるけん!」

薬!?真剣な表情のモグ。到底嘘をついてるようには見えない。ゴブリンのとこなら間に合うか!?

色々思う事はあるが、今は少しでも急がねぇと!止まってる場合じゃねぇ!

サリーを背負うとモグに目配せし走り出そうとした。

「コッコ!」

モグがそう言うと、なんとコカトリスがむっくりと起き上がりこっちに来るじゃねぇか!

「乗って!コッコなら村まですぐだから!」

そういうとモグはコカトリスの背中にひょいっと乗ってしまった!


はぁ!?

な、ななな、なんだ!?どういう事だ!?

「早く!」急かすモグ。

ええい、もうどうとでもなれ!!

勢いよくコカトリスの背中に飛び乗ると

「ケエエエエエエエ!」とつんざく様に叫んだかと思うとすっげえスピードで走りだした!

うわうわ、これ落ちる!

ガッシリと背中にしがみついた俺達を乗せて

コカトリスは猛スピードで山を駆け降りていく。



「ごめんね、ごめんねお姉ちゃん、お兄ちゃん!」

爆走するコカトリスの足音に掻き消されながら、涙目を流すモグは確かにそう口にしていた。



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