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自己チュークエスト!  作者: くもいひも
4/24

自己チューと狐?の冒険4

 町を彩る夕暮れの中

口をあんぐりと開けたまま固まる

俺は実に邪魔で滑稽だろうな。と

もう一人の俺が客観的に分析していた。




******


 サリア暦は、季節の節目で構成されている。

大地に芽吹く命の種子を巻き厳しい冬に備える(種子節)

厳しい冬が訪れ一丸となり難局を乗り越える(厳冬節)

激しい寒さは過ぎさり草花の息吹を感じ始める(若葉節)

やがて豊かな緑に囲まれ花の咲き乱れる風景に酔いしれる(花咲節)←今ココ

緑は実りになり、多くの喜びに沸く(収穫節)

宴はやがて終わりを迎え次なる実りへと準備を行う(終宴節)


 と、この6つの節目をグルグル回っているのだが

実はこの通りにはいかないのも事実。

農作物の宝庫としてスタートしたサリアらしい

暦となっていたが、最近は世界最大の国家カルデナール城塞連国の

画期的な暦であるカルデ12節を採用する国も多くなってきている。


 アデルの言う3ヶ月とは

カルデ12節のものである。サリア歴は

一つの節が過ぎる毎に1ヶ月と数えていく。

月の満ち欠けに因んだ数え方らしいのだが

今やあまり使われなくなってきている。



******



 小さな田舎町ブルティアを北にぬけ

馬車で1日、歩きで3日程の所にあるのがサリア大陸が誇る

貿易を中心に今もなお発展を続ける大都市ペンデールである。

今や学問の都としてもその名を

世界に知らしめているこの町に俺の実家はある。


 何本もの川に囲まれ町を覆う強固な鉄製の

外壁にはいくつもの入り口が見える。

門前には無数の検問待ちの馬車が並び

こっちじゃちょっと珍しい反物やら果物なんかがチラホラ。

知らない人が見ればここがサリア城下町かと

思い違える程の物々しさに圧倒され立ち尽くすウルフマンと狐。


「なんだここ…ブルティアの市場も

すげえ!でけえ!とか思ったッスけど

これ見ちまったらブルティアなんざウンコッスわ……」

まじ失礼な事を言うラガー君。

それだけ衝撃だったようだ。

それにまだ中じゃないんだけど。

その横で微動だにしない紫狐はというと

あまりの人と物の多さに驚きを隠せないようだ。


「ね、ねぇ、アデル。こんなウジャウジャと人がいてわたくし達大丈夫なの……?」

「ああ。それについてはアテがあんだ。まぁ大丈夫じゃねぇか?」

ちょっと格好付けて自信たっぷりに言う俺を

すげえ怪しむ二匹。まぁわからんでもない。


 でもこれに関しちゃほんとに自信あるんだよな。

ま、後でわかるから。と二匹を促し歩き出す。

「っ、ちょっ、ちょっと待ってくだせえ、俺らこのままじゃ入れねぇでしょ!」

焦るラガー君を余所に、馬車用のくそでけえ門の

隣にある来訪者用の扉にスタスタと向かう俺。

「大丈夫大丈夫、堂々とついてきな」


「……止まれ」

扉の目の前まで来ると

綺麗な装飾の銀ヤリが俺の行く手を遮った。

(うおわ、だから言ったじゃねぇッスかぁ~!)

たじたじのラガー君。

一方テリアはというとまだ荷馬車の方を見ていた。

余程反物やらが気になるらしい。


「あ〜失礼。通行証、もしくはそれに準ずる推薦状はお持ちですかな?」

銀ヤリを持った無愛想な若い衛兵。その後ろから

人の良さそうな初老の衛兵が声をかけてきた。

と、「あれ、アデル坊じゃねぇか!」


 初老の衛兵が俺の顔を確認するや、嬉しそうに声を発した。

「お久しぶりです。親父に用があってちょっと帰省しました」

「おお、おぉ。そうだったか!

俺が責任持つ、こいつぁ大丈夫だ。通してやんな」


 チャリッとヤリを小脇に抱え込み

若い衛兵は軽い会釈と共に後ろへ下がっていった。


「ほれ、通れ通r、ん?その後ろのデカブツはお前さんの連れか?」

ラガー君とテリアをマジマジと見る。

依然ビビるラガー君。まだ荷馬車見てるテリア。


「魔術研究に、ちょっとね」

そう、うそぶく俺に嬉しそうな顔で

「おおお、そうか!そうか!がんばれよ!」と扉を通してくれた。




 扉を抜けるとすぐに

喧騒が聞こえてきた。ペンデール大市場だ。

ここに、さっき見た反物・果物・壷みたいな交易品が集まってくるんだ。

ガヤガヤとにぎやかな市場を人混みで

はぐれてしまわないように二匹に注意しつつ進む。



「なんか随分とアッサリだったッスねぇ?それに」

小首を傾げ通り過ぎた扉のある方を見るラガー君。

ブルティアじゃ、あわや大騒ぎになる所だったからなぁ、無理もないが。


「ここじゃ動物もモンスターも特に珍しくもないからな」

そう言う俺の横を大型の鹿が主人に引かれて通り過ぎる。

「……見たいッスね」

ホーっと感心したように大鹿を見つめ呟いていた。

「特に魔術関係は見たこともねぇ動物とか連れてる奴多いし。他の町や国に比べれば魔術に対する理解もあるしな。

町の人だって狼と狐くらいじゃ驚かねぇさ」

と、さっきまで心ここにあらずだったテリアが

我に返ったかのようにうるさく騒ぎ出した。


「あれっ、あれなんですの!?」

テリアの言うあれとは。人混みの向こう側に

嫌でも目に入るでかい塔に向けられた言葉の様だ。


「あれはな、この町の偉い魔術の先生方の研究施設だ。

上の階には入れねぇが一階の大魔道図書館は

手続きさえ受けてれば24時間いつでも入っていいんだぜ。

もう中は本本、本だらけだ。」


 そう。この大魔道図書館になら調べ物にもってこいだ。

手続きはめんどくせぇが、調べ物するにはもってこいだ。

サリア中のどこにも、ここ以上に情報が集まる場所なんて多分ねぇ。


 雑踏にもみくちゃにされながら

初めての人、物の多さにすでに疲労困憊の二匹を休ませる為に

まずは実家に寄る事になった。まぁどうせ顔出すんなら早い方がいい。




******



 ペンデールは大きく4つのブロックに分かれている。

さっきちょろっと出てきた大魔道図書館のある

ペンデール中央研究塔を中心に北西に住居区。

南西に貿易の行われるペンデール大市場(さっき俺らが入ってきた所だ)

北東に研究区とギルド関係の施設。南東にはちょっと特殊な住居区がある。

各ブロックの大きさはほぼ一緒なんだが、一つ一つがとんでもなく広い。


 大体1ブロックでブルティア10個分はあるんじゃねぇかな。

全体でいうとブルティアが40個あるみたいなもんか。

ブルティア自体も小さい田舎町とはいえ100人規模はある町。

こう改めて考えてみるとペンデールがサリア城下町に見えるってのも頷ける。



 今向かってんのは町の北西。

所々、舗装された道に植林された緑が目に優しい。

そこそこ富裕層が多い地区に俺の家はある。


「ここだ」

「ほえー」

「でか……アシカ亭の何倍もあるわよこれ」

ポカーンとしている二匹をせっつき

白いバラのレリーフをあしらった門を抜けた所で

思わぬ人物に出くわしてしまった。



「アデル……か?帰ってたのかお前」


 門を抜けた先、ちょっとした庭園があるんだが。

そこに滅多に外には出ない親父が

バラの剪定をしている最中の様だった。

「勝手に出て行ったかと思えば

ふらっと戻ってくるとは。どこまで勝手な奴なんだお前は」

まだなにかブツブツ、ねちねちと言ってくる親父を明るい声が遮った。


「まぁまぁまぁ旦那様!

折角アデル様が帰ってらしたんですよ!お小言はその辺で!」

この白く、長くたくわえた髭。

ピシッと七三に分けた白髪と物腰の良さ。

古い丸眼鏡の奥の切れ長の目。

家のほぼ全部をしきってくれている執事バーグ爺だ。

もういい年なんだが祖父から仕えているという彼には

親父も頭が上がらない存在だ。


「だがな、バーg」

「はいはい、ではお話の続きはお茶でも召し上がりながらでも、ほらアデル様も」

出鼻をくじかれたかの様な親父は、やれやれといった様子で中へ入っていった。


「よくぞお戻りになられましたな!

疲れておいででしょう。さぁさ、後ろの子達もこっちへおいで」

突然話を振られ困惑した顔でこっちを見る二匹に頷く。


 バーグに連れられ庭園脇にある

中庭への小道へ入って行くのを見送る俺。さてと。

パシパシと頬に気合を入れ

緊張する心に喝を入れた俺は我が家に足を踏み入れた。




******



 カチャカチャと皿とフォークの音が響く。

食卓にはサリア鶏を使った香草サラダ。

タレが自慢のシャケの蒸し焼き。

たっぷり煮込んだブルティアりんごのパイ包み。等など。

久々に食べるバーグの料理はやはり、絶品だった。

森に入ってからの怒涛の修羅場で

疲れていた心が嘘のように和んでいた。


「お口に合いましたかな?」

バーグが特製ハーブティーを注いでくれている。

「もちろん、さすがだよバーグ」

ふぉふぉ、と笑いながら差し出してくれたハーブティーの良い香りが鼻をくすぐる。




「バーグ」

一通りの食事が終わる頃、親父がバーグに声をかけた。

バーグは軽い会釈をすると手早く食器を下げていき奥へと消えて行った。


「なんで今頃になって帰ってきたか、深い事情は分からんが。とりあえずは」

ごくり。喉がなる。昔から親父は苦手だ。


 白髪混じりの長い金髪をオールバックでまとめ

長い間しかめっ面でいるせいで年々

深くなっているように見える眉間のシワ。

家族にさえ滅多に笑う所を見せない親父は

いつも憮然とした表情で、その顔で見られると

なにか怒られてんじゃねぇかと

子供の俺はいつもビクビクしてた。

でかくなった今でも苦手なのは変わらない。


 俺がペンデールを飛び出す

後押しになった理由の一つは、この親父なんだ。


「外にいた二匹のモンスター、あれに害はないんだろうな?」

ブフォッ! 盛大にハーブティー吹いた。まじか。

「見た目は珍しい色の子供の狐と人型のモンスターといった所だが。

まぁお前が連れているくらいだ。問題ないものなんだろうが……」


 親父はハーブティーを一口含み続ける。

「だが、紫の方、魔力が漏れ出していたぞ。

ペットか知らんが中央の人間に見られでもしたら即連れて行かれるぞ」

まったく……と、言われ自分の迂闊さに心臓を鷲掴みにされた思いだった。


 そうだ、危なかった。

ここペンデールは魔法研究に熱心な町、研究用の動物やらも多い。

だから町中をテリア達がうろついても騒ぎにすらならない。


 とは思っていたが

そうか、攫われる可能性があるってのは考えてなかった。

あっぶねぇ……



「どうせ」

思考に囚われていた俺に

正気を取り戻させるかのように親父が言葉を出した。

「またすぐに町を出るんだろう。

まぁ、それまであの二匹は家に置いておきなさい」

「あ、あぁ助かるよ」

意外な親父の言葉に驚く。

それにしてもやはり魔術に携わってる奴ってのは

分かるもんなんだな。改めてしみじみと思う。


 親父は中央塔の研究員であり、魔法学校の教員でもある。

実は家柄も結構いいんだなこれが。

だが俺には魔術の才能が全くなかった。

そのせいで色々つらい目にもあってきた。

親父の跡を継ぐのかとかも揉めたなぁ……。ってか

俺の境遇やらなんやらとか、そんなん今はどうでもいいんだよ。


 森へ入る俺達と別行動になる前に

ウィルが残した言葉が親父の言葉の繋がりで思い浮かんだ。

それというのも発端というか、別行動しよう。

と提案してきた理由については実はわからん。

まず問題の手紙、テリアの依頼書を見た時から

すでにウィルは大分顔をしかめていた。

まぁこんな意味のわかんねぇもん見たら

そうなるだろって思うとこなんだが、なんていうかな

すげえ嫌なものを見た時の反応っていうか拒否感が半端なかった。


それから森に入る為に装備と

ちょっとした小物類を揃えている時に

ウィルから提案があったんだ。


「ちょっといいかな、アデル」

「おう?どした?

なんか足んねぇもんでもあったか?薬草なら買い置きがあr」

「ううん、そうじゃなくって。

ボク、今回は参加したくない、ていうか二人にも

行って欲しく……ないんだよねぇ」

興奮してるってか、語気を強くして

そう言うウィルに幾分か戸惑ってしまった。

普段の甘ったるいノンビリ口調とは

全然違う感じに俺は余程の事なのだろうと考えたんだ。


「でもま、ポイントやべぇしな……何か嫌な感じか?」

無言で頷く。

「あの森に初めて入ろうとした時、あったでしょ?

なんか、膜みたいな蜘蛛の糸が顔とか

体についちゃった~みたいな……変な気持ち悪さを感じたの」


 あん時のか。


 ブルティアについてすぐ俺達は

探検気分でブルティア近辺を散策した事があった。

この辺りじゃ強いモンスターどころか

最弱とされるモンスター、バケツネズミ

(魔力を吸ってバケツくらいに

でかくなっちまった害獣、だったかな?確か)

すらほぼ見かけない平和そのもので

すぐに森に目を付けた俺達は意気揚々と入ろうとした事がある。

その時急に気分が悪くなったっていうウィルと

一緒に大事をとって町に戻ったんだ。



「ん~、ま!バケツネズミすら

ほとんどいねぇ様なとこだしな!

何かあったらすぐ逃げてくっから。大丈夫大丈夫~!!」

すっかり復活して荷物をまとめるクラウドの

脳天気な声にウィルもそれ以上は言えなかった。


 かくして修羅場に放り込まれる、てわけだな。

今思い出しても腹立つな、あのハゲ……。

ウィルも魔術師の端くれだ。

あの時すでに何かを感じ取ってたのかもしんねぇな。




******


 時は夕暮れに差し掛かっていた。

ひとまず俺は今日中に確認したい事があると

親父と二匹に伝え中央大通りに向け歩を進めていた。


 ここ、中央塔周辺の大通りといわれる

場所には便利な施設が所狭しと並んでいる。

中でも冒険家に限らず商人達や学者

果ては王族まで利用する施設が俺の目的だ。



 施設の名前は魔便局。

今や世界中、小さな村にまであるという魔便局は

遠く離れた人にでも一瞬で手紙を

送ることが出来るというシステムの開発に成功した大企業だ。

専用の手紙に魔力を通す事によって

それを受け取りたい人間がこれまた専用の紙を使う事で

文字が浮かび上がってくるって代物だ。


 カランカラン

小気味いい鐘の音のするドアを開けると

中には手紙を受け取る人でいっぱいだった。

受付の魔便局の青い制服を着たおねーさんの所へ向かう。

「すんません、アデル・ノート宛てで

ブルティアに手紙きてないですか?」

そう、今や別行動の二人クラウドとウィルとは

こうして長い間お互いが離れてしまった場合の

安全確認や現在進行中の出来事を報告しよう。と決めていた。


「アデル・ノート様ですね。お掛けになって少々お待ちください。」

案内された椅子で待つ事1時間くらい。

退屈になってきて欠伸してると俺の名前が呼ばれた。


「ブルティア魔便局より2通

お預かりしております。魔便箋はお持ちですか?」

「ありますあります、これ使って下さい。」

差し出したのは一般的な魔便箋。

っつっても、これでも結構な値段するんだぜ。

しかもこれってば消耗品だったりする。

この一般的なやつは一回分のみ印字が可能。

便箋に込められてる魔力が消えちまうと文字も消えちまう。

印刷して30分くらいが限界だな。

中には何度も印字できるのもあるんだが

目ん玉飛び出るくらいたけえんだこれが……。


「はい、お待たせしました。ご利用ありがとうございました。」

さっ、印字されてる時間は限られてる。パパッと読んじまうか。

「アデル、クラウドへ。」

こっちはウィルのか、なになに?





 無事にこの手紙を読めている事を祈ります。

まず、一緒に行かなかった事、ごめんね。

森の事を考えただけで気分が悪くなっちゃって……。


 アデルには伝えた通り、ボクはボクで森の事について調べてます。

でもブルティアのお年寄りにも、ギルドの資料室にも、何もなくって。


 でも絶対怪しいんだ。あれは多分、魔術の類い……結界だと思う。

夕方まで二人を待ってようと思ってたんだけど、何かあるような気がして。


 ボクは一度ペンデールに向かいます。

(ペンデール!?ウィルの奴こっちに来てるのか?)

そこで昔のブルティアの事、森の事を調べてみるよ。

二人もこの手紙を読んだらペンデールに来て。

(そうか、だとしたら大魔道図書館にいるってとこか……ん?)





p.s.

(続き…?なんだ?)




 これは、出発前に言っておく事だったんだけど……。

あのね森に入っても何も持って帰ってこないで。

もし建物とかあって宝物とかあっても触っちゃだめだよ。特に








む  ら  さ  き


の色した物は


ぜ っ た い に


ダメだからね!





 夕暮れ。

中央大通りにはいくつもの影が伸び

家路につく研究者や買い物帰りの主婦達で溢れている。

そんな中にただ図むどよ~んと暗い空気を纏った俺は

進行の邪魔でさぞかし不気味だろう。

ウィルよ……、時すでに遅いわ!

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