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自己チュークエスト!  作者: くもいひも
22/24

自己チューと狐?の冒険22


 森は異様な変貌を遂げていた。

木々は不自然に曲がり、痩せ細りあんだけ歩きにくかった茂みもない。

まるで別物。その不気味なまでの変貌ぶりに俺の足は前へ進む事がしばらくできないでいた。



「ボクが様子を見に来た時こんなじゃなかったのに……」

ウィルも俺と同じように青い顔をして後ろからついてくる。

「そうだ、ウィル。一緒に森に入っちまったけど体調はどうなんだ?」


「うん。少しくらくらするけど、前のような濃さはないよ。どうなってるんだろう」

「なんだか普通の森……に近い感覚ですね、人を拒むような雰囲気はなくなってます。

というよりなんだか、むしろ引きずり込まれるような気分がしますね」

「え! デイジーちゃんも森の事、気付いてたのぉ!?」

ああ、そうか。ウィルはデイジーちゃんに魔力がある事知らなかったんだっけか。


 不自然に開けた道を進んでいくと俺とクラウドが最初に森で見つけた

例のテリアを封印していた祠の場所までやってきた。

覗き込むとガロンさんの話の通り、くすんだ玉が祀られていた。

「これだよね~? シルフィーを閉じ込めてたっていう祠」

おっかねぇものを見る感じで引き気味に見るウィル。

「よっと」「ちょ、アデルぅ!?何取り出してるのぉ!」

俺はくすんだ玉を祠から取り出すとポーチの中へねじ込んだ。

「気にすんな、それより」

奥の廃墟から揺れる影が見えた。

「ウィルさん、そこから離れて下さい!」

すかさずデイジーちゃんが剣を抜きウィルを庇うように前に出る。



「ええ、なになに? ゴーレム?シルフィー?」

俺の後ろに隠れ覗き見るウィル。

一瞬揺れが収まったかと思うと、ぬうっとそれが姿を現した。

「うわ、出t ……って、あれ!?もしかして、ラガー君?」

ウルフマンは否定も肯定もせず俺達の姿を確認するとすぐさま顔を引っ込めた。

「えぇっ!? ちょ、おい、ちょっと待ってくれよ!」

ラガー君?の消えた先に行こうとしてデイジーちゃんに止められてしまった。

「駄目です、ここはもう敵の手の中なんですから」

それはわかっちゃいるが……ラガー君、ラガー君だったよな……?

顔を見た瞬間そう直感したんだが、あのラガー君とは思えない生気のない顔だった。

「とにかく、長居は禁物です。アデルさんの見たという魔術師の館へ急ぎましょう」

デイジーちゃんの声に俺とウィルは強く頷き歩調を早める事にした。



******



 その館は程なく見つかった。あい変わらず不気味に佇んでいる。

「ここですね」デイジーちゃんの顔にも緊張が見える。

館を取り巻くあまりの異様な雰囲気に飲まれ一歩を踏み出せずにいると


「な、なにぃこれ!」

刺すような視線を何処からともなく感じる。

それは痛いくらいに強くなっていく。不安からウィルが俺の袖をギュッと握りしめる。

「そこにいるのは誰ですか。この不愉快な視線はあなたのものですか?」

唐突にデイジーちゃんが屋敷とは少し離れた森の暗がりの中に向けて話しかける。



「あらあら、もう少しその不安そうな顔を楽しみたかったのですけれど」

そう言いながら俺達の前に現れたのは目を鋭く光らせたテリア。

「テリアちゃん……」

にたにたと笑いながら品定めをするように眺めてくる。

と、周りの茂みからも続々とグリーンウォルフが姿を現した。

だがその姿に生気は感じない。皆フラフラとまるでゾンビだ。

その群れの中でテリアの傍に一際目立つ大柄な影。


「ク、クラウドっ!」

ウィルの戸惑った声に反応する事なく、無表情のまま立ち続ける。

「ぅわぁ、ほんとに毛がある……気持ち悪」

すっげえ小さい声だったが確かにそう聞こえた。


「この方のように欲しい物を手に入れ、わたくしと手を組む気になりまして?」

「そんな気はさらさらねーよ」

「残念ですわ、アデル。あなたの事、人間としては結構信頼してましたのに」

「てめぇの目的はなんだ。なんでこんな事」

俺の言葉に一瞬にしてにやけ顔を崩す。



「わたくしはこの森を守りたい、それだけですわ」

「へっ。じゃあ何か?この様子はその現れってか?とてもそうは見えないぜ?」

(ち、ちょっとアデル! 刺激してどうすんのぉ!?)

腕にしがみつき揺さぶるウィルにデコピンを食らわせる。

「わたくし気付いたんですの。わたくしのこの魔力で木々を育て森を増やしていけば

どんなに魔力が溢れようとも広大になった森に皆を逃す事が出来るのだと」

「ふぅん、そうかい。それにしては逃げる元気もなさそうだぜ?皆」

「仕方のない事ですわ。森を豊かに、大きくする為には莫大な魔力が必要ですもの。

それまでの我慢、ですわ!」

テリアが大きく息を吸い込むと次々と周りのウルフマンが倒れていく。

俺も心なしか貧血みてぇに足がふらつく。

「う、く、テリア、これを見ろ!」ポーチから取り出すくすんだ玉。

「……?なんですの?」吸うのを止め俺の手元をジッと見つめる。

「お前の欲しがっていた抗魔鏡だ、受け取れ!」

勢いよく明後日の方向に投げる。



「え!ええ!?ちょ、誰かあれを取りなさい!」

テリアが俺達から注意をそらしたその時

目にも止まらぬスピードで距離を詰めるデイジーちゃん。

「今だ!打ち合わせ通りに!走れウィル!」

俺の声に弾かれたように俺の背後から飛び出し館に向かって一直線に走り出す。

「なっ!?」完全に不意をつかれたテリアに細くしなやかな剣が伸びる。

が、届こうかという所でクラウドのロングソードが軌道を遮り割って入った。


 ウィルに向かって次々と襲い掛かるグリーンウォルフ達。

「うおりゃああ!」ウィルの後ろに追従する形でショートソードで切り伏せていく。

ウィルが館の門を潜る。俺は門を背にグリーンウォルフの群れと対峙した。


「アデル、一体何を……!?」

デイジーちゃんからの苛烈な猛攻を凌ぐクラウド。

やがてデイジーちゃんのスピードが落ちてきたのを契機に攻防が逆転した。

「く、このままじゃっ」ぼふっと激しい土煙が上がったかと思うと

俺の横にぴったりとつくデイジーちゃん。額には滝のような汗。

「ま、まずいです。体に力が……」

「病み上がりだってのに無茶するからだろっ」

「仕方、ないじゃないですかっ アデルさん前!」

グリーンウォルフの群れを掻き分けクラウドが突きの体制で突っ込んでくる。

「やっべ!」例の捌き方じゃ二人だとよけられない。

「スピードを捨てて一瞬の膂力を上げればっ」

と、デイジーちゃんが突き出されたロングソードの切っ先を

目がけ弧を描き叩きつける。刃先がぶつかり合いギリリリと

金属音を響かせ軌道を逸らしていく。「いいっ加減に目を覚ませバカ!」

軌道を逸らされ体制を崩したクラウドの脇腹目がけて蹴りを入れる。


 それでも手を伸ばそうと大きく体を揺らすがゆっくりと膝から崩れ落ちた。

「だ、大丈夫かっデイジーちゃん!?」

「うう、今ので限界のようです……」剣を突き立て縋るように立つ。

「デイジーが弱っている今がチャンスですわ!」

その場にいるグリーンウォルフ達に命じるも誰も動こうとしない。

「はぁ!? なんで、どういう事ですの!」

ただでさえフラフラだったグリーンウォルフ達がバタバタと倒れていく。

「しまった、魔力を吸い上げすぎましたわっ……でもこれさえあれば!」

その手には俺がぶん投げた玉。テリアはそれを振ったり揺らしたり、揉んだりするも

何の反応も示さない。



「ちょっと、アデル!どういう事ですの!」

「どういうもこういうも、ちゃんと抗魔鏡だぜ。お前を封印してた昔のもんだけどな!」

「わ、わたくしを!?」

途端顔を引きつらせ玉を投げ捨てるテリア。

「おいおい、お望み通りに持って来てやったのに」

「ア、アデルさんどういう事です!?なぜ抗魔鏡をテリアに」

「わ、わたくしを封印していたものが、抗魔鏡!?聞いてないですわ、ロンドはそんな事一言も」

「やっぱりか。ロンドから何も教えてもらってねぇようだな」

「な、何を……」慌てふためくテリア。

「今までの事、よく考えてみたんだよ。お前ロンドに騙されてんだよ

今回の事もロンドの入れ知恵なんだろ」





「わ、わたくしはだ、騙されてなんて」

「話はガロンさんから聞いたぜ。お前、ガロンさんとラダ爺の会話盗み聞きしてただろ。

それで自分の事に責任感じた。違うか?」

「む、く、そ、それは……」

「ロンドから抗魔鏡の事を聞かされたお前は、手に入れる為に俺達に一芝居打ったんだ」

「テリアちゃん、聞いてください。抗魔鏡は使う相手の魔力を奪うアイテムなんです」

「そんな、嘘ですわ!魔力を高めてくれる物だと確かに!」

「ああ、間違ってねぇ。でも前提が欠けてる。相手の魔力を奪って、だ」


驚愕の表情で俺達の顔を凝視するテリア。

「そ、それじゃあ更に負荷がかかってしまう……森を生み出す前に皆……」

テリアは鋭い目つきで倒れているクラウドを見る。

「そんなの、そんなの信じませんわ!アデルのアホ!嫌い!」

途端、クラウドの体が跳ね、操り人形のようにおよそ人間らしくない

不自然な動きでシルフィーの傍に跪く。

「あなたの願い、ありったけ叶えますわ!大量の魔力を与えます!立ち上がりなさい!」

そう叫ぶとクラウドの体に濃縮された霧みたいなものが流れ込んでいく。

「ううう……!」クラウドは霧を取り込みはじめた途端頭を抱えうめき声を上げる。

「おい、やめろ!テリア!」



「クソッ、クラウドっ! ……ん?クラウド?」

突然の魔力に悶え苦しむクラウド。そして急速に伸びていく髪の毛。

これには俺もデイジーちゃんも、周りのグリーンウォルフ達も、テリアでさえも

顔をしかめ異様なものを見る目でクラウドの頭を凝視していた。

伸びる。どんどん伸びる髪。もはや膝下くらいまでの長さがある。きめぇ……。


「よ、よし! い、いい感じに魔力が漲ってますわね!手始めにアデルを……」

少しの戸惑いを残しながら

テリアがクラウドに指示を出す。が、クラウド動かず。

棒立ちのまま立ち尽くしていたかと思うと急に四つん這いになり

オロロロとなんとも汚ねぇ虹が現れた。

「あれだけの魔力を一気に受ければ、そうなりますよね……ヒッ!」

デイジーちゃんの悲鳴が木霊する。

「な、なんですの?急に、一体どうしたの……」



 パラリパラリと舞い落ちる大量の毛。

あまりに急速に伸びた結果、毛根が耐えられなかったのか。

あれだけあった毛は全て抜け落ち、そこには呆然とするつるっぱげのおっさんが四つん這いでいる。

「あ、あああ…… こ、これは……」

その光景にテリアも動揺を隠せないようだ。

しばらく手元の大量の毛を眺めていたかと思うと、不意に頭に手をあてる。


 ぺた。ぺたぺた。なんともいい音が静まり返った森に響き渡る。

俺とデイジーちゃんを見据えるとゆっくりと立ち上がり歩いてくるクラウド。俺の肩に手を掛ける。

「……二人とも悪かったな、随分迷惑掛けちまった」

「あ、ああ、いや、もうなんともないのか? ああ、なんとも無いってのはその」

「ああ。さっきまでの苦しみが嘘のようだ。

まるで夢の中にいるみたいに体の自由が効かなかったが、今はほら」

そう言って腕や足を動かしてみせる。爽やかな笑みが怖い。

デイジーちゃんはあまりの事に目を見開いたまま固まっている。

「し、しまっ、望みの対象がなくなってしまいましたわ!」

「さて、この落とし前はきっちりつけないとな……」

ゆっくり、ゆっくりと振り返るクラウド。

その顔を見たグリーンウォルフ達は一様に身を竦め

まるで蜘蛛の子を散らすように森の奥へと消えていった。



 クラウドの背中から放たれる強烈な威圧感。

テリアはまるで生まれたての小鹿のようにアワアワしている。

歩き出しながら小さくもよく通る声で誰と言うでもなく話し出す。

「俺ってやつぁ、よくいらん事して女将さんからゲンコツをもらうんだが

そのゲンコツがたまげる程すっげえ痛いのよ」

隣のデイジーちゃんもうんうんと頷く。

「いつだったか。あんまりにも痛いもんだから聞いてみたのよ。

なんかコツでもあるんですか? ってな」

手をぶらぶらさせ首をバキバキと鳴らす。

「そしたら女将さんが言うには、いつの頃からか

魔力のツボみたいなのが見えるようになったんだと」

完全に説教をくらう子供みたいに縮こまるテリア。

ついにその前にクラウドが立つ。

「どうもそこを突くと声も出せないような痛みがある事に気付いた女将さんは

練習に練習を重ねぼんやりとだが他人のツボを見る事が出来るようになったんだそうだ」

握った拳に息を吹きかけはじめる。

「要するに、だ。女将さんの秘密特訓に密かに俺も参加してたんだぜって話だ」

「け、結果は……?」おずおず尋ねる。

「勿論、習得済みだ!」




 それは普通、どころか軽くこつん。と突いただけのように見えた。

あれ?みたな顔のテリア。だが、「あたたたたた、だだだだだだだ!」

次の瞬間、情けない声を出しながらのたうち回る。

「毛達の痛みを、悲しみを思い知れ……!」そう告げるクラウドの目から一筋の涙が溢れた。


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