自己チューと狐?の冒険2
「と、言うわけで森に探索に出た所で
不思議な祠みたいなものを発見した時に……」
「テリアお嬢様と、それを追う我々に遭遇した。と言うんだな?」
「イエス、その通りでございます」
俺は今、無数のウルフマン達に囲まれ、尋問を受けていた。
誰に?そりゃ目の前の黒いウルフマンに。
まじで怖いんですけど。正座でウルフマンの群れに囲まれてるってもう詰んでるんじゃねぇのこれ。
「おい」
「ファァイ!」
黒いウルフマンの問い掛けに意味不明なテンションで返す俺。一瞬怯んだような顔になる。
「御主の言うことに嘘はなさそうだが、なぜお嬢様は人間なぞに……」
目の前の黒いウルフマン、名前をラダとか言ったか。ラダが心底呆れたように呟いた。
そうそう、あの紫っぽい毛色の狐、まんま狐なんだけど狐じゃないらしい。
正体はこいつらのお嬢様だとかなんとか。つまりはあれもウルフマン、って事か?
まぁ、あんだけ喋ってれば普通の狐じゃないわな……。
「だが、お前の仲間がお嬢様をさらってにg」
「仲間じゃないです。ただの顔見知りです」
ラダの言葉を遮りハッキリと言ってやった。
「う、うむ?だがとてもそうt」
「まじでなんでもないですから。
あ!なんなら身の潔白の為にあいつの毛全部むしってきますよ!」
「い、いやまて、あれだけしかない毛むしられたら可哀相じゃないか…?」
激しくうろたえた様子で情けをかけるラダ。
そんな慈悲を持ってるなら俺も見逃してくれ……。
言葉無く頭を垂れる一人と一匹。気まずい雰囲気に手持ち無沙汰な感じのウルフマン達。
「じゃ、じゃあ、毛の事は抜きにして人質として
俺らに付いてきてもらえばいいんじゃねッスか?」
声からして相当に若い感じがする1匹のウルフマンがそう提案してきた。
「多分町に戻ってはいるでしょうけど本当に町にいるかわかりませんよ?」
「そこは大丈夫ッス!俺ら鼻にはちょっとした自信があるんで!」
ああ、確かに。顔、狼だもんな。
「ゴホン、では君には悪いが取引材料として一緒に来てもらおう。それまでは危害は加えんと約束しよう」
ラダの言葉に強張っていた体の緊張が一気に抜けた気がした。
た、たすかった~。
正確にはまだ完全に助かってはないけど。とりあえず命は助かった……。
ぞろぞろと森の奥に消えていくウルフマンの群れを眺めながら、安堵のため息をついていると
「お兄さんも大変ッスね!」
「いやいや、なんの、命があっただけでもありが」
ヘッヘッヘッヘッ
さっきの若い?やつやああああああああん!
「どぅへっ!?ぜ、全部森に帰ったんじゃ!?どうして残って」
取り乱しながらそう言うと若いウルフマンは
「いやいやいや、それだと人質になりませんやん」
確かに。
この若いウルフマン。名前はラガー君というんだそうだ。
彼は思った通り一族の中でもかなり若い方らしい。
かなりフレンドリーな彼は色々と知っている範囲で教えてくれた。
「お嬢が書いたっつうその手紙の内容ッスね。
森を助けてくれの中身つーか、話のくだりは
俺からは言えねッスけど、んーと、なんつーか。
俺らの状況はあんま良くねぇんですわ。
ラダ老や皆がカリカリしてんのはそのせいッス……」
「え?俺らッスか?ずっと昔から住んでるッスよ。まぁ近くにある町には一切近寄んないですし
なんせエライ魔術の先生が張ってくれた結界のおかげで
人が森に入ってきても俺らの生活圏とは交わらなかったッスから。
わかんなくて当然ッスよ~」
よく喋る狼だ。口渇かないのか大丈夫か。といらぬ心配をしつつ
なんとなく状況がわかってきたのはありがたかった。
まだまだ不安はあるものの何もわからないまま巻き込まれるより断然ましだ。
捕まったのはあれだけどラガー君が俺の見張り役になったのは幸運だったな。
森の中をラガー君先導で歩くこと、どれくらいだろう?暗闇にも目が慣れてきたとはいえビックリする程暗く、また森の中は天然の迷路だった。
今から帰れって言われても絶対無理だこれ。
陽もささないから時間もわからねぇ。町を出たのが昼すぎ、今は夕方くらいか?
なんて事を考えていたら、どうやら目的地についたらしい。
これまた、くそでけえ木だな…。
「ここッス!俺らの寝床ッスよ!今日はここで一泊してもらうッス!」
案内された巨木の根本にはかろうじて原型を留めたような古いレンガ造りの家が。
所々森の中を歩いてて気付いたんだが。あの祠だけじゃなく、やたら建築物の跡みたいなのがそこかしこにあったんだよな。
明らかに人が造った物が深い森の中に散見している。謎だ。
家の中には鋭い目付きのウルフマンがどっかりと座って、え?先客いんの?てかなに、ルームシェア?なんてアホな事を考えていた。
んん?ウルフマンさん?そのかじってる奴って骨じゃね?ギロリと目が合う。
「さっ、ちょいと狭いッスけど入ってくんなさい!
明日は早いッスからね!」
俺に明日は……あるのか……
ラダの一言、危害は加えないって言葉を信じるしかない。そう自分に言い聞かせているうちに眠ってしまったらしい。
自分でも中々の図太さだと感心する。
夜明けか……?心ばかり少し、明るい。
そう思いながら身を起こそうと体をひねった。と同時に
すごい獣臭で完全に目が覚めた俺は同時に凍りついた。
昨日の骨かじってたコワモテの方のお腹、枕ニシテルンデスケド??
「……よう、目覚めたか。
ラガーの奴はメシの調達に行ってる。
わりぃが人間の食い物なんざねぇから水でも飲んで起きてな。」
すごい渋い声の紳士でした。
「ハッハ!これか、骨にビビってたってか。アッハッハ!」
「もう、人間とは関わってないって昨日言ったじゃねッスか」
「め、めんぼくない……」
この渋いイケボな方、名前をガロンさんという。
ラガー君の師匠のような方らしい。
「それにしてもお嬢が人間にねぇ」
「そッスねぇ~。完全に不意をつかれたっつうか。ラダ老も泡吹く勢いだったッス」
「そういや、なんであの狐は人間のギルドになんか依頼を出したんだろ」
ふと思った疑問をポツリと言葉にしてしまった。
と、そこでジロリとこちらを睨むガロンさんと目があった。
「あ、いや、なんでもないですハイ……」
「ん?ああ、別に怒っちゃいねぇよ。おめぇさんを見たのは俺もなんで人間のギルドにって思ったからさ」
「それってやっぱ結界を張れる魔術師の先生探してって事ッスかn っイテェ!」
バシーン!とうろに響く乾いた音。
ねこパンチならぬ狼パンチ。結構痛そうだな。
「ああ、昨日言ってた結界ってのがどうにかなっちまったって事?」
そこまで言うと再びジロリとこちらに顔を向けた
ガロンさんは深くため息をついていた。
「ラガー、おめぇそんなんも言ったのか」
「す、すんません。つい……」
ガロンさんが言うには。
この森に結界を張ったのは人間で、すごい魔力を持った魔術師だったらしい。
ただ、その話自体噂のようなもので真偽の程は定かではない、って話だ。
でも火のない所に煙は立たないだろうと当時のガロンさんは色々調べまわったらしい。
結界を張る事になった理由は?その人間と出会ったキッカケは?なぜ噂程度しか残っていないのか?
時には人里に降りてまでここらの歴史を調べて見たらしいが成果無し。
むしろ森に関する情報の痕跡すらなかったらしい。
「まぁこういうもんの真実なんて触らねぇ近づかねぇのがいいって事さ」
******
薄暗い森に陽の光が所々漏れはじめた花咲節37日目。
ガロンさん、ラダ老、ラガー君、俺の面々は森を抜け
一路ブルティアの町を目指し歩を進めていた。
今になって冷静に彼等を見ていると
悪いモンスターというか悪意みたいなものは感じない。
むしろただの狼。ちょっとでかいし二足歩行だけど。
「おい大丈夫か。ボーッとしてると危ないぞアデル?」
実に心配そうにガロンさんが声を掛けてくる。
「いやいや、全然大丈夫ですよ」
「でも、さっきからブツブツ言ったりにやついたり、疲れてんじゃねッスか?」
若いウルフマン(正式にはグリーンウォルフ?とかいう一族らしい)が
これまた心配そうに俺を見てきた。
おおっと、顔に出てたか。考え事をしている時の俺は
ウィルが言うにはとんでもなく気持ち悪いらしい。失礼な奴だ。
そうそう、ウィルとは森に入る前、別行動になっていた。
本来俺達みたいな少人数のPTが別れて行動するのは推奨されていない。
冒険には何が起こるかわからないからな。
でも今回はウィルなりの考えがあるとの話に俺とクラウドは別行動を了承した。
ウィルの勘はなかなか当たる。まさか、こういう事だとは思わなかったが。
「見えてきたぞ。あれだな?」
木々の間からわずかに見える小さな家の屋根達と痛いほどの光。暫く目が眩んでしまう。
「森に入るときはあんなに手間取ったのに、出るときは1時間もかからないとはなぁ」
「当たり前じゃろう。ここはわしらの縄張りじゃぞ」
こっちを見ずに、でもどこか誇らしげにフフンと鼻を鳴らしながらラダ老が言った。
そういえば、あの時。そうだ、あの時の人影。あれはなんだったんだ?
捕われの身とはいえ考える余裕がでてきた俺は昨日の事に考えを巡らせていた。
これ、聞いていいやつなのか?でもガロンさんとラガー君は人間を相手にするのは
初めてだとか言ってたしなぁ。魔術師の事みたいにウッカリ聞いてまずい状況になるかも。
うわぁ、気になる。あとでこっそりガロンさんに聞いてみるか……?
「おい、聞いてるか。しっかりせんかバカモン!」
唐突にすねの当たりに痛みが走る。
「あいたぁっ!」
見るとラダ老がすねにチョップをしている。
「うおおおお!いだだだ!何す痛ぇ!」
「大袈裟な、これくらいで情けない」
全くこれだから人間はとかなんとかブツブツ。
「もう、アデルさんが大事な話聞いてないからッスよ~」
「あ、あぁ、すまねぇ。でもいてえ……」
「いいじゃねぇか。足がなくなったわけじゃねぇし」
と、ケタケタ笑うガロンさんに背筋がゾッとした。こえぇぇぇ
「それで、わしらは町には入る事はできん」
「まぁさすがにな」
ラダ老とガロンさんはフムフムと頷きあっている。
よくよく見ると顔も体格も似てるんだな、この二匹。違いは毛色くらいか?
ラダ老は黒くガロンさんは少し焦げ茶?っぽい色をしている。
というのも森の入口近くまできてやっとわかった事なんだが。森の中が暗すぎんだよ。
「そこで、ラガーを連れて村に入って欲しい。」
「連れてって……言われても流石にマズイよなぁ」
ちらりとラガー君を見る。
「よく見ろ」
と、ラガー君を見るよう促すラダ老。おもむろに布を取り出すとラガー君の頭からスッポリと被せる。
「これでちょっとでかい人間に見えん事もなかろう」
「どっからどう見ても狼ですけどお!?」
これまたあまりのボケにツッコンでしまった。
ガロンさんはゲラゲラ笑ってる。ラガー君は
……え?なに、照れてんのそれ?わかんないがもじもじしてる。
ラダ老は何かを考えるかのように目を閉じている。
しばしガロンさんの笑い声だけが森に響いていたかと思うと
「え、他になくね?」
******
すっごいわ。注目がすっごいわ。
いやわかるよ、俺も思うもん。なんでこの人、見るからに怪しい布に包まれた何かを連れてるの?って
いつもより少し人気の少ないブルティア市場大通りを、堂々と歩くラガー君。
よく利用してる果物屋のおばちゃん、すげえ怪訝な顔してる。ちなみに膝から下はノーガードなせいでフッサフサな毛がモロ見えだ。
これ俺ブルティア居られなくなるんじゃねぇの……
いやでも命があっただけまだなぁ。
なんて考えていた時、後ろから不意に声をかけられた。
「どうしたんですか?」
幾分狼狽しているが知っている声だ。アシカ亭の一人娘、デイジーちゃん。
ここで知り合いに会うのは心強い!勢いよく振り返り声を
「お嬢!」
ノウ!ファッキンウルフ!!
そういう俺も声をかける前にデイジーちゃんの
腕に抱かれたその紫の物体に釘付けになっていた。
ってちがああう!今喋ったよね?ラガー君声出しちゃったよね!?
「え?え?顔が、え?」
明らかに取り乱すデイジーちゃん。
市場のオッサン連中も俺達に釘付けになっている。だがまだだ!今ならまだデイジーちゃんを上手く利用すれば!
「デイジーお嬢様!お会いしとうございました!アデル、クラウド共に無事生還果たしました!」
仰々しく、優雅にお城の執事が如く片膝を曲げ手をデイジーちゃんに差し出す。俺。
まじ死にたい。咄嗟に出たのがこれか……。
と、俺の反応とは裏腹に、なんか、周りはやれやれみたいな反応?
デイジーちゃんに至っては
「あ、はぁ。そういうのは、なんか違うので止めてくださいね。」
と、これまたやれやれといった表情で冷たく言い放つデイジーちゃん。
ええ!? ブルティアでの俺のポジションってこんな感じだったの!?
デイジーちゃんの腕の中で丸々紫の物体が顔を半分出した状態で
「キモッ……」と小さくつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。




