自己チューと狐?の冒険15
憂鬱だった。
一族の使命とはいえあまり来たくなかった。
わたしさんの一族は代々封印の魔術師と言われ、特殊な教育を受けて育つ。
完全に外の世界とは遮断された閉鎖的な家だった。
それは過去ブルティアで起きた出来事で生まれてしまった
モンスターを秘密裏に、永遠に封印し続ける為。
事の発端はペンデールのいきすぎた事業拡大が生んだものだが
生まれたものがものだけに問題を完全にもみ消す事は出来なかった。
その為ペンデール市長は封印の魔術師ニックスと契約を交わし
一族は使命と引き換えに莫大な研究資金と地位を与えられる事となった。
当時のわたしさんは裕福だが自由のない我が家に閉塞感を覚え
幼馴染のアインツを連れて半ば亡命のような形でサリアへ渡った。
新天地で自由を手に入れ気ままに暮らすつもりだった。が
サリア入国の際、簡単な試験を受けていたのが後々仇になった。
わたしさんは歴代の封印の魔術師の中でも恵まれた魔力を持っていた。
その事がサリア王家に伝わるとすぐに拘束されてしまったのだ。
力のある、かつ無所属の魔術師なんてものは世間から見ると
危険人物と見られるなんて世間を知らないわたしさんは知らなかったのだ。
結果サリアの地下牢で軟禁される事になったのだが、一緒に居たアインツの剣士としての
才能を見抜いたギルドマネージャーが二人揃ってサリアギルドに
所属する事を条件にわたしさんの解放を国王に提案したらしい。
らしいっていうのは後にアインツから無理やり聞き出したから。
その後も何かと大変だった。
家からペンデールを通しての再三の抗議があったり、直接ケアロおじいさまが来た事もあった。
でも結局はある条件を出す事でおじいさまが折れる形になった。
こうして強制送還される事なく、サリアに移住することになった。
ギルドに入った日、銀髪のウェーブがかった髪を後ろで
一括りに束ねた優男がサリア王室からやってきた。
王室からのお目付け役と言う。つまりは魔術師のわたしさんの監視だった。
ロンドと名乗るいくつか年上に見えるその男は長身で
アインツより背が高くギルドのドアよりも高かった。
ロンドは必要最低限の言葉しか喋らず、また滅多に
話しかけてくる事もなかった。ただひたすら無言で傍に立つ
その姿に最初わたしさんは完全に怯えていた。
だけどそんな状態で何ヶ月か経つと人間不思議なもので
特に害もないロンドを気にする事もあまりなくなっていた。
ギルドにもある程度馴染みはじめたわたしさんは自分、ひいては
一族の秘密を守る為にギルドの誰とも喋らなくなっていった。
そう。これがケアロおじいさまが出した条件のひとつ。
またその頃からアインツもギルドの仕事に忙しくなっていき
話す機会が減ったっていうのも理由にあるけど。
しばらくしてアインツはギルドリーダーに就任するまでに剣士としての頭角を現した。
当時の騎士団の団長がアインツの指導係をしていたのだが
ギルドリーダー就任式の日、彼が私の所へ来て話をした事がある。
「あいつはすごい奴だな、ニーナ。お前は昔からの馴染みなんだろ?」
「そうですね」
「お前は……あいつが本気を出した所を見た事あるか?」
「本気、ですか」
「ああ、いや、すまん。今のは聞かなかった事にしてくれ」
そう言い残すと彼は式典に戻っていった。
団長が聞きたい事はすぐに分かった。
アインツは昔から特殊な奴だった。子供の頃、弱虫だった奴は
よくいじめられていた。その度にわたしさんが助けに入っていたのだが
一度間に合わなかった事がある。
年に何度かある封印の魔術を一族全員で習う日があり、その日1人きりになったアインツは狙われたのだ。
私が駆けつけた時、その場にあったものは
血まみれで横たわるいじめっ子達とその真ん中で
わんわんと泣きじゃくる無傷なアインツの姿。
その異様な光景は今でも鮮明に覚えている。
後で大人達からよそと全く交流を持たないわたしさんの家を気味悪がった結果
言葉に出てしまったわたしさんへの悪口が原因だったと聞いた。
それ以来アインツはわたしさん以外と交流を持たなくなり感情を表に出す事もなくなった。
今でこそ表面上笑ったり冗談を言い合うような社交性を身に付けてはいるが。
その時のわたしさんは何故当時アインツとだけは仲良くしてもいいのか、深く考える事はなかった。
ただ、一緒に遊べる掛け替えのない親友を手に入れた事に舞い上がっていた。
そして私はいつしか多忙で話す機会のなくなってしまった
アインツの代わりに子供時代のアインツを無口なロンドに重ね
勝手に親近感を覚えるまでになっていた。
一方的な話し相手としてロンドへ子供の頃の事や最近の事まで
色々な事を話し掛けた。話し掛けたといっても
ロンドは終始無言で頷くだけだった訳なのだが。
そんな時、ペンデールのケアロおじいさまから連絡があった。
正直気乗りしなかったが行く事は即断した。
何よりそれこそが条件のふたつ目だったからだ。
気の緩みか、その事をロンドに話してしまった。
「……それは、すぐに出発する必要があるでしょう。
国外への遠征許可は私が手続きしておきます」
「ありがとうロンド、でも遠征の内容は」
「わかっております。おまかせ下さい」
「あ、アインツには何て言おうか……こんな事言ったらただでさえ
忙しくて大変なくせに俺もついていくなんて言い出しかねないし」
「……おまかせ下さい。アインツ様にも私から
上手く伝えておきましょう」
「そう? じゃあお願いしようかしら」
この時の私は出来る執事を持ったお嬢様のような気分だった、と思う。
それからすぐにわたしさん達はブルティアに旅立った。
ロンドは本当に優秀だった。面倒な出国手続きも入国審査も
自分が魔術師とは思えない程何もなく。すんなりとブルティアへ着くことが出来た。
街についてからは森に近づき出来るだけ観察した。
おじいさまからも詳しく情報を聞いていくと
どうやらなんらかの原因で魔力が祠から漏れ出しており
それが森を包み始めているようだと話していた。
このまま漏れ出していくと封印の膜によって森の内部に
濃い魔力が充満し続ける事になる。それは森に住んでいる
グリーンウォルフや動物にとって死に直結しかねない。
原因を探るよりまず先に森に広がりつつある魔力を
どうにか押さえる方が先決だと感じたわたしさんは9体のゴーレムを生み出し
森を囲ませゴーレムへ吸収させる事で収束させようと考えた。
魔力がゴーレムに満ちればそのまま土に還し受け取った魔力は
新たなゴーレムを生む力になる。
そして作戦決行の日、わたしさんは裏切られた。
「なんで、どういう事よ!」
魔力のほとんどを使いゴーレムを使役した、その時。
森の結界は消え中に溜まっていた魔力が外に漏れ出し始めた。
傍目から見ても分かる程の濃い魔力。
とにかくゴーレムで吸収・分解する方が先だ。
かろうじて結界消失に居合わせたおかげで辺りに濃い魔力は残ったものの、町にまで被害はいっていない。
幾度となくゴーレムの分解と生成を繰り返す。
思っていた以上に重くドロドロとした森の魔力に
わたしさんの体力と精神力はどんどん削られていった。
なんとか収まりを見せた時、自身の体に妨害用の魔術を
向けられている事に気付いた。腕に、足に針を刺されていく気分だった。
こんな時に、このタイミングで?
まさか結界は自然に解けたんじゃない!?
焦るも体が思うように動かない。
「ロンド、そっちはどうなってるの!? ロンド!」
あらかじめ魔力の消耗で疲弊する事を伝えていたわたしさんは
ロンドを後方支援として傍へ待機させていた。
もう首を動かす事も出来ないくらい体力を奪われていたわたしさんは
その時、ロンドが近くに居ない事にすら気付かなかった。
森の魔力の噴出は収まってきている。
こうなったらゴーレムを1体使って防衛を……
「もう終わりましたよ。ニーナ様」
唐突の声に我に返ったわたしさんは声の方へ目を向ける。
声の主は、あろう事か森の中にいた。
「ロンド、なぜそこに……それに一体何を言って……」
ここでわたしさん気付いた。疲弊以前に体が全く動かせないと。
突如芽生えたロンドへの
危機感に近くのゴーレムを呼び寄せようとするも、反応がない。
「ゴーレムに流れるあなたの魔力を遡って
その体に入り込むのは大変骨が折れましたよ」
「あ……、な…」
声を出す事も出来なくなっていた。
妨害魔術と思っていたそれはロンドがゴーレムを
伝って送り込んできた精神操作と言われる魔術の類だったのだろう。
それにしてもロンドがそんな高等魔術を!?
技術を身に付けたとしても普通の人よりも魔力が多い程度でこんな事は無理だ。
じゃあどうやって……?どこから?ふと気付く。あの時、準備してたように森の魔力が溢れた事に。
「さぁ愛しのニーナ様、こちらへどうぞ……」
成す術も無く、やがて意識も薄れ目の前に暗闇が広がっていった。




