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ザ☆旅行記Ⅴ ダーク・エルフ  作者: 小宮登志子
第1章 帝都生活
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神がかり行者

 わたしはプチドラを抱き、陰鬱な気分でツンドラ候の馬車に乗った。侯爵は、何を想像しているのか知らないが、既にこの時点で、よだれを拭っている。ゲテモン屋は、悪食のツンドラ候にとっては御馳走かもしれない。ただ、一般的には……誰がどう見ても、常軌を逸しているしか思えないのではないか。

「どうした? 顔色が良くないようだが」

 一応、気遣ってくれているつもりだろう。でも、顔色が悪いのは、「そもそもあんたのせいだよ」と言いたい。

 わたしたちを乗せた馬車は、館を出て、帝都の一等地から離れ、まずは市街地へと進む。そして、大通りや商店街を抜け、大きい公園の前に差し掛かった。すると……


「愚かな大衆諸君!!!」

 出し抜けにアジテーションともデマコギーともつかぬ大声が聞こえた。

「偽りの町に住み、偽りの王を戴き、偽りの平和を貪っている大衆諸君!!!」

 見ると、公園の真ん中で、ボロボロの衣服を身にまとい、白髪を振り乱した老人が、杖を振り回し、口から泡を飛ばしながら、大声でわめいている。

「真実を知らず、知ろうともしない。虚栄と偽りに彩られた都の生活は心地よいであろう。おまえたち、低脳どもにはピッタリだ。しかし、耳あるものは足を止めて聴くがよい!!!」

 なんだか、選挙のたびに出てくる泡沫候補さながらの電波ジジイだけど……

「あいつは帝都では『神がかり行者』として有名な爺さんなんだ。暇つぶしに聞いていると、結構、面白いぞ」

 ツンドラ候は、その「神がかり行者」を指差してゲラゲラ笑った。


 見ると、神がかり行者の前で足め、その迷演説を聴いている通行人はいなかった。ほとんどは、うさんくさそうに、神がかり行者を一瞥して去ってゆく。そればかりか、神がかり行者をあからさまに見下し、ツンドラ候のようにゲラゲラ笑う者、「バカヤロウ」などと罵倒する者、石をぶつける者などもいた。しかし、神がかり行者は、そのような妨害行為を意に介することなく、ツンドラ候とは別の意味で常軌を逸した演説を続けている。

 嘘だの偽りだの、真実を知れだの目を覚ませだの、わたしにはサッパリ分からない話だ。でも、どういうわけか、理由はよく分からないが思わず聞き入ってしまう。

 ツンドラ候は、不思議そうな顔をして、

「どうした? そういえば、あいつを見るのは初めてだったか?」

「ええ、なんといいますか…… とっても個性的な人ですね」

「そうかい? みんな、基地外って、言ってるぜ」

 ツンドラ候は、そう言って笑った。端から見れば、確かにそのとおりだろう。

 馬車は公園の前を横切り、町外れに向けてゆっくりと進む。さあ、あな恐ろしきゲテモン屋は、もうすぐだ。

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