街中の噂話
宮殿に入れてくれないなら仕方がない。面倒を起こしたくないし、どうしようかと思案していると、
「ツンドラ候なら何か知ってるかも。気になるなら、ツンドラ候の館に行けば?」
プチドラは、ぽんと手を叩いて言った。随行は、基本的にエライ順(つまり爵位順)に並ぶ。伯爵より侯爵の方が皇帝に近い位置にいて、しかも、ツンドラ候は実行委員という役付きでもあり、皇帝の身に何かあれば状況を把握しやすいはず。ツンドラ候にきけば、ある程度、ハッキリするかもしれない。
でも、もしそんなことをすれば……
「イヤよ。話を聞いた後は、何やかやと理由にならない理由でゲテモン屋に連れていかれるだけだから」
「それもそうだね…… うっ!?」
プチドラは口を押さえた。ゲテモンの味を思い出したのだろう。わたしも、なんだか気分が悪くなってきた。とりあえず屋敷に戻ることにしよう。なお、一般論として言えば、皇帝の生死の確認は宮殿以外でできないわけではない。ただ、情報の信頼性には問題があるが……
わたしは一旦屋敷に戻り、プチドラにくすねてきてもらったメイド服に着替えた。
「マスター、服を着替えてどうするの?」
「町に出て、人々の噂話を収集する、つまり、盗み聞きして情報を集めるのよ。ガセネタは多いと思うけど、ある程度のことは分かると思うわ」
暗殺現場は、帝都の城門を出てすぐのところのはず。皇帝の行列の周囲には、多数の住民が見物に集まっていたから、恐らく今頃は、現場を目撃した人から「ここだけの話」が、帝都全体に広がっている頃だろう。わたしはプチドラを抱き、執事や使用人に見つからないよう、こっそりと屋敷を出た。
街中に出てみると、案の定、人々の間では「皇帝陛下暗殺(か?)」の噂話で持ちきりだった。「皇帝陛下が弓を射掛けられ、心臓に命中、即死」、「命中したものの一命を取りとめ、危篤状態」、「犯人は謎の魔法使い」、「黒幕は、実は、帝国宰相だった」などで、中には当てにならないものもあるが、噂話だからこんなものだろう。
街路の要所には警備兵が立ち、鋭い眼光を光らせている。ただ、こんな場合は、戒厳令や外出禁止令を出し、とりあえず流言飛語の類を取り締まるものだと思う。ドラゴニア候には、そこまで思いが至らなかったのだろうか。あるいは、帝国政府の上層部ではまだ混乱が続いているのか。
通りを歩いていると……
「ウソ偽りの無責任なデマにうつつを抜かしている愚かな大衆諸君!!!」
聞き覚えのある甲高い声だ。よく見ると、ここは公園。弁士は例によって、神がかり行者だった。噂話は、神がかり行者の耳にも届いていたようだ。それをネタに喋ってるみたいだけど、そこはかとなく興味が湧く。
「プチドラ、行ってみようか」
「マスター、それはちょっと…… どうかな」
プチドラは気分が乗らないようだけど、構わず、わたしはプチドラを抱いて公園の中へ向かった。




