テレポートを重ねて
ガイウスはクラウディアが心配でならないようだ。しきりに天井を見上げている。しかし、しばらくするとドタバタも治まり、もとのように静かになった。クラウディアとプチドラが適当にツンドラ候をあしらって、一緒に馬車で出かけたのだろう。
ガイウスはわたしの方に向き直り、
「なんだったんだろう。気にはなるが、あまりグズグズしてもいられないな。行こう」
ガイウスは、反対側の壁に付いているドアを開けた。その先には、暗くてよく分からないが、通路が続いるようだ。ガイウスが呪文を唱えると、パッと光の球が現れ、フワフワと空中に浮かんだ。ランタンの代わりだろう。光の球は、その通路に向かって、風に流されるように空中を漂っていく。
「こっちだ」
ガイウスはそう言って、光の球を追った。わたしも遅れずガイウスに続く。通路は50メートル程度で、両側には金属製の扉が幾つも並んでいる。自分の屋敷の地下がこんなになっていたとは…… 意外な発見ではある。
しばらく進んでいくと、通路は行き止まりになっていた。その床には魔方陣が描かれている。おそらく、この魔方陣は、いわゆるテレポーターで、上に乗ると、どこか別の場所に転送されるという仕掛けだろう。
ガイウスは魔方陣の中心に立って、わたしを招く。
「そんなところで突っ立っていないで、この魔方陣の中へ、早く。大丈夫、落とし穴なんかじゃないから」
わたしは思わず吹き出しそうになった。口をついて出た言葉が「落とし穴」ですか。わたしには、まったく思いもよらない発想。ガイウスって、見かけによらず、意外とひょうきんな性格かも……
わたしが言われるままに魔方陣に足を踏み入れると、ガイウスは二言か三言、短い呪文を唱えた。すると、周囲はまばゆい光に包まれ、わたしは思わず目を閉じた。
そして、次に目を開けたときには、
「ここ、どこ???」
見たこともないところだった。木造の粗末な四畳半にゴミが散乱し、のみならず、ドブ川か家畜小屋が近くにあるような異臭が鼻を突く。わたしはメイド服の袖で口を押さえた。
すると、ガイウスは苦笑しつつ、
「ここはスラム街の一角だよ。貴族様には辛いかもしれないな」
「それで、どうしようというの? あまり、こんなところに長く居たくないんだけど……」
「ははは、確かにそうだな。では、私につかまれ。ここから目的地まで、一気にジャンプだ」
わたしは言われるままに、ガイウスの腰に手を回し、しっかりと抱えた。ガイウスは左手でわたしを抱き寄せ、もう一度、魔法の呪文を唱えた。
すると……
「ここは??? 何度も同じことを言うようだけど、本当に、ここはどこなの?」
「今度こそ目的地だよ。見るがいい」
顔を上げると、周囲は何も遮るもののない平原。左手には、遠くに帝都の外壁が見え、右手には、小高い丘が幾つも連なっていた。




