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ザ☆旅行記Ⅴ ダーク・エルフ  作者: 小宮登志子
第5章 人間模様
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カエサルとスッラについて

 気がつくと、わたしは真っ暗闇の空間の中で、ひとり苦しんでいた。胃の中で蛇のような巨大な寄生虫が大暴れしているような……実際にそんな目に遭ったことはないが、あえて表現すれば、そんな感じ。

「偽りの国、偽りの君主、偽りの都、あらゆるものがウソ偽りで塗り固められた中で、みじめな安逸をむさぼっているブタども!」

 どこからともなく、常軌を逸した基地外演説が響いてくる。暗闇といえば、つい最近、神がかり行者に異空間に引きずり込まれたばかり。もしかすると、今もわたしは神がかり行者の魔法にかかっているのだろうか。


「あれっ、ここは?」

 ふと気がつくと、わたしはさほど大きくはない川の前にたたずんでいた。ほんの少し前まで、わたしは真っ暗闇の空間にいたはずだが……

 脈絡がなさ過ぎるように思えるが、その川の前には、マントを羽織り、両手、両足の露出した鎧を着た男が物思いにふけっていた。

「渡れば人間世界の悲惨、渡らなければわが破滅……」

 このフレーズをみれば、大抵の人には分かるだろう、これは、ガリアから軍団を連れて戻ってきたユリウス・カエサルがルビコン川を前に、元老院最終勧告に従うか、逆らってローマに軍を進めるか思い悩んでいる場面。軍団を従えてルビコン川を渡ることが、ローマ共和制秩序の崩壊につながることを予想し、思わず身震いしている、みたいな……

 そして、このすぐ後には「賽は投げられた」の台詞が続く。なかなか、言い得て妙ではないか。賽の目のようなギャンブルは、個人の人生だけではない。誰も未来のことを確実に知ることはできないのだから、社会であれ、国家であれ、リーダーの下す最終的な決断はギャンブルにならざるを得ない。であれば、そのことで思い悩んでいても仕方がないのではないか。

 カエサルとは対照的に、閥族派の領袖スッラは、ローマに攻め入るときに躊躇した形跡がない。のみならず、反対派を大量に粛正し、独裁官に就任し、「スッラ体制」と呼ばれる独裁制を敷いている。一般的にはカエサルの方が人気は高そうだけど、畳の上で大往生したいなら、スッラを手本とすべきかと思う。


 水の流れを前にして、うつむき加減で思いを巡らしていると……

 チャプン…… チャプン……

 なんだろう。水音がした方向に目を向けてみると、あろうことか、七色の光を放つ魚の大群が、水面上にジャンプを繰り返しつつ、川の上流に向けて流れを遡っていくではないか。新王朝の初代皇帝になれとでも言うのだろうか。いくらなんでも、それはいろいろな意味であり得ないだろう。

「マスター、ねえ、マスターってば……」

 見ると、プチドラがスカートの裾を引っ張っている。何か言いたそうに、口をパクパクさせているが、何を言っているのか聞き取れない。周囲に騒音の発生源があるわけではなく、急に耳が悪くなることもないはずだが……

 あっ、あれ???

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