表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ☆旅行記Ⅴ ダーク・エルフ  作者: 小宮登志子
第1章 帝都生活
5/68

もともと小市民につき

 帝都までは、例によって10日余り。はるか遠くから宮殿の周囲に建てられた4本の尖塔と魔法アカデミーの塔が目に入ったのは、前回と同じ。ただ、降り立ったのがツンドラ候の館ではなく、宮殿の中庭という点は、前回と違っていた。

 予定では、この日、宮殿の中庭でカギを受け取り、その後すぐに屋敷の引渡しを受けることになっていた。中庭では、事前に申し合わせていたとおり、誰か知らないが帝国の官吏らしい男が待機している。その男がカギを持っているのだろう。

 わたしが地上に降りると、男は慌ててわたしのもとに駆け寄り、深々と頭を下げた。

「あの……もしかして…… ウェルシー伯でいらっしゃいますか?」

「そうよ。カギをもらいに来たわ」

「え~っと、はい、これは…… しばらくお待ちを」

 男はなんだか妙な顔をして、しかし、あたふたと宮殿の中に全速力で駆け込んでいった。

「なんなの?」

「さあ……」

 子犬サイズに体を縮めたプチドラも、よく分からないという風に、腕を組んで首を左右に振った。


 しばらく待っていると、豪華な馬車が宮殿の脇から現れ、わたしの目の前に停車した。

「どうぞ、こちらへ。お乗りになってください」

 御者は先刻の男だった。男は腰をかがめ、上目遣いにわたしを見上げながら、馬車のドアを開けた。何か言いたいことがあるのか、口をモゴモゴと動かしている。

「どうしたの?」

「はい…… あ、いえ、何も……」

 男は口をつぐんだ。何度か理由を尋ねても言葉を濁すだけだったので、わたしは「言わなければ無礼討ちで死刑、即執行」とすごんでみた。

 すると男は、「ひぃ~」と震え上がり、

「いえ、その…… まさか、ご自分でいらっしゃるとは思わなかったもので……」

「自分で? ああ、そういうことね」

 言われてみれば、なるほどそのとおりで、自分で屋敷のカギを受け取りに来る貴族は、普通、いないだろう。早速、育ちの悪さが出てしまったわけだが、もともとサラリーマン家庭に育った昔風の小市民だから、仕方がない。


 わたしはプチドラを抱いて馬車に乗った。馬車はゆっくりと動き出す。

 その時、わたしは背中に何やら針で刺されたような刺激を感じ、後ろを向いた。馬車の後部の窓越しに、帝国宰相が宮殿の正面玄関に立っているのが見える。どんな顔をして立っているのか、あまり想像したくないけど、大体想像はつく。

 なんとなく前途多難のような、そんな漠然とした予感……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ