エマとプチドラ
目を開くと、わたしはプチドラを抱いて、屋敷の玄関の前に立っていた。たった今まで、真っ暗闇の異空間にいたはずだけど、どうなっているんだろう。
わけが分からず周りをキョロキョロと見回していると、プチドラはわたしを見上げ、
「神がかり行者が魔法の力でここまで送ってくれたんだ。でも、『追い出された』という方が正確かもしれないな。まあ、魔法は本当にあっという間のことだから、よく分からなかったかもしれないけど」
「全然分からなかったわ。それに、あの人、一体、何が言いたかったのかしら。真実の歴史を知ったとして、それで何か変わるのかしら」
「それはつまり、善意に解釈すれば、現在の帝国の在り方を批判して、みんなの声で社会を変えていこうということじゃないかな」
「好きにすればいいわ。政治権力は、鉄砲……ではなくて、剣と魔法から生まれるものよ」
「えっ?」
「なんでもない。中に入りましょう」
廊下を歩いて部屋に向かう途中、もう一つ腑に落ちない部分を思い出し、
「プチドラ、ちょっとした疑問があるんだけど……」
「疑問って?」
「今までは、『ご隠居様のご先祖のエマが初代皇帝に仕えて大活躍した』みたいな話を聞いていたけど、さっきの話では、人質か人身御供みたいよ。一体、どっちが正しいのかしら」
「うん、それは両方とも正しいというか、誤りではないというか……」
話によると、エマは、形の上では初代皇帝の側室として迎えられた。予定では、好色な初代皇帝がなぐさみものにするつもりだったが、意外にも、魔法に加えて武芸や軍の指揮にも抜群の能力を発揮したので、軍司令官としても便利に使われたという。聞いていると、さすがのわたしでも、なんだか気が重くなってくるような……
「ボクがエマに会ったのはその頃だったよ。いつも物憂げに、でも無理に微笑を作ろうとしてたっけ」
プチドラは、当時、ダーク・エルフとともに混沌の勢力の側で参戦していて、「極悪非道なダーク・エルフと混沌の黒龍を討つべし」と命じられたエマと、戦場で顔を合わせることになった。プチドラはエマの境遇に同情し、右目を射抜かれて家来になるという「茶番」を演じることで時間を稼いでダーク・エルフを逃がし、エルフ同士の戦闘を回避することに成功した。こうして「隻眼の黒龍」となったプチドラは、少しでも戦力を必要としていた初代皇帝の「温情」により、エマの部隊に編入され、以後、エマと行動を共にすることとなった。
やがて、エマは初代皇帝の子を産むが、その際、産褥熱で死亡(毒殺の疑いもなきにしもあらずとか)。エマは初代ドラゴニア候を追贈され、爵位は代々子孫に受け継がれた(魔法の能力は伝わらなかったようだ)。プチドラはエマから臨終の床で後事を託され、以後、500年にわたり、エマの子孫に仕えることになった。
以上、気がめいりそうな「封印されたドラゴニア侯爵家秘話」。




