またまた帝都に
そして、500年の月日が流れ……
晴天に恵まれ、ポカポカ陽気の暖かい日、
「……というわけなの。理解できた?」
「うん、なんとか……」
ここはカトリーナ学院の学院長室。わたしはエレンに「帝国成立史」の個人レッスンを受けていた。プチドラは机の上でのんびりと昼寝している。
なぜ今更、歴史の勉強か。それはすなわち、帝都の一等地に屋敷をもらったことがそもそもの原因だった。万事につけて階級社会の帝国では、帝都の一等地に屋敷を構えることができるのは、基本的に侯爵以上、伯爵であれば特に功績があった場合に限り許されるとのこと。すなわち、社会的には、わたしが超一流の貴族の仲間入りをしたと理解されるらしい。
したがって、知識や教養や礼儀作法等々についても超一流としてふさわしいものが求められることとなり、ポット大臣の発案で、エレンから地理・歴史・法律等々を教えてもらうことになったというわけ。
ゾンビ化の一件が片付いて以来、領地の経営は順調に進んでいる。時折、混沌の領域から小規模な攻撃が見られるものの、すべて猟犬隊に撃退され、被害はほとんどない。宝石産業の再生も進み、本格的な生産の再開は、もうすぐだ。マーチャント商会への借金は計画的に返済されているが、カオス・スペシャルの稼ぎをプールしてあるので、事実上、完済されたと見てよい。カトリーナ学院では、魔法科も含め、つつがなく、日々の授業が続いている。問題は、蔵書の数が少ないことで、これは、そのうちに手当てしよう。今は財政的に余裕もある。
ミスティアG&Pブラザーズのレオ・ザ・デスマッチとは、特に取引など行っていないが、なんとなくつながりが続いている。一応、捕虜の交換問題が懸案事項として残っているけど、今更本気で解決しようとは、お互いに思っていない。
そんなことがあって、しばらく……
「それじゃ、行ってくる」
わたしは館の中庭に出て、言った。いつものように、背負った風呂敷包みには、伝説のエルブンボウのほか、必要なものをつめこんでいる。今回も行き先は帝都。屋敷の引渡しを受けるためだ。
エレンは力を込めてわたしの手を握りしめ、
「カトリーナさん、本を忘れないでね」
実は、エレンとは前日、「帝都で学術的な書物を仕入れてくる」と約束していた。
プチドラは体を象のように大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。わたしはプチドラ本来の姿、隻眼の黒流の背中によじ登ると、エレン、エルフ姉妹、ドーン、ポット大臣の見送りを受け、3度目の帝都に向けて飛び立つのだった。