非常線
わたしは馬車を降りてクラウディアを抱き起こし、
「血まみれになって…… 一体どうしたの? 誰にやられたの?」
「ちょっと失敗しまして、追い回されてしまい…… でも、なんとか…… 多分、大丈夫です…… うぐっ!」
クラウディアは咳き込んだ。本当に大丈夫だろうか。さっき大声を上げていた警備兵にやられたとしたら、魔法も使えるダーク・エルフにこれだけの傷を負わせるのだから、ドラゴニア候の騎士団(の下っ端)の実力も意外と馬鹿にできないかもしれない(認めたくはないが)。
「マスター!」
わたしはプチドラに促され、クラウディアの体を支えて馬車に乗せた。おかげで実行委員会用の数少ない一張羅が血で汚れてしまった。クリーニング代は後から請求することとして、でも、とにかく今は、一刻も早く屋敷に戻らなければ。わたしは御者に「傷に響かない程度に速度を上げるように」と命じた。
「すいません、迷惑ばかりおかけして……」
「気にしないで。こういう場合、お喋りで余分に体力を使うことはないわ」
「ドレスや馬車のクリーニング代などは、必ずお支払いしますから」
「だから、余計なことは言わなくていいって……」
こんな状態でクリーニング代を気にするなんて、クラウディアはわたしを「吝嗇家」や「守銭奴」と思っているのだろうか(実際、その傾向は大いにあるけど)。ただ、馬車で少し落ち着いたからか、クラウディアは、意外と気はしっかりしているようだ。派手に血を流しているように見えるが、傷は見た目ほど深くないかもしれない。
その時、
……ヒヒィ ~~~ン!!! ……
またしても車を牽く馬がいななき、馬車は再び急停車。
わたしは、つい、怒鳴り声を上げ、
「一体、どうしたのよ! 危ないわね!!」
「申し訳ありません、カトリーナ様。しかし、あれを……」
御者はおろおろして前方を指差した。そこでは十数人の警備兵が行く手を塞ぐようにたむろし、通行人を一人一人チェックしていた。非常線を張って検問を行っているのだろう。
それを見ると、クラウディアは済まなさそうな顔で、
「あの、わたしのことは構わないで……」
「気にしないで。別に、どうということはないわ。あなたは黙って隠れてなさい」
わたしは御者に「うろたえても泡を吹いても構わないから、何があっても絶対に一言も発するな」とだけ厳命し、馬車を進ませた。
わたしはプチドラを抱き上げ、
「場合によっては頼むわ。『kill them all』」
「任せて、マスター」




