急変
ドラゴニア候は、わたしに「危ないから」と言われたのが余程悔しかっただろう、その後、帝都の警備をかなり強化したようだ。帝都のあちこちに増員された警備兵が立ち、鋭い眼光でにらみをきかせている。
でも、眼光が鋭いといっても、警備兵としての能力は別問題だと思う。ドラゴニア候に仕える騎士たちが優秀だとしても、実際に街中に立って体を張るのは、騎士の家来(従者)や傭兵や(お金をかけたくなければ)臨時に徴用した領民たちだから。それに、今のところは住民との摩擦も起こっていないようだけど、そのうち、警備兵が無銭飲食したとか、警備兵から露骨にワイロを要求されたとか、苦情が届くかもしれない。
そして、いよいよ500年祭までは1週間余り。実行委員会もいよいよ大詰めを迎えていた。「大切な式典で粗相でもあったら大変」と、メンバーからは精神的なゆとりが失われ、実行委員会では、ほんの些細なことでも激論に(正しくは口論に)なった。
「は~、疲れた…… こんなときは精神的な滋養強壮剤に限るわ」
この日の実行委員会が終わると、ここ最近の習慣で、神がかり行者を見るため馬車で公園への路を急いだ。話の内容に興味があるわけではない。漫才やコントとして見れば、それなりに気晴らしになるから。
わたしの膝の上では、プチドラが丸くなって寝息を立てている。実行委員会の間もずっと居眠りしていたのに、よく寝られるものだ。できるなら、プチドラにメンバーを代わってほしいくらい。
ぼんやりと窓から外を眺めていると、警備兵が大声を上げて走り回っているのが見える。コソドロでも追いかけているのだろうか。
……追え! あっちへ行ったぞ! 捕まえろ! ぶっ殺せ! ……
最後の「ぶっ殺せ」はどうかと思うけど、傭兵や徴用された領民に品位を求めるのは酷かもしれない。
その時、
……ヒヒィ ~~~ン!!! ……
車を牽く馬がいななき、馬車は急停車。わたしはつんのめって前に倒れた。プチドラが丁度クッションになってくれたからよかったものの、そうでなければ顔面を床に打ちつけていただろう。
わたしは、「アイタタタ」と目を覚ましたプチドラを抱き上げ、馬車のドアを開け、
「一体どうしたの?」
「ひっ、人が……」
御者が震える手で指した先には、血を流した髪の長い女性がうずくまっていた。血で染まっていて分かりにくいが、よく見ると、とがった耳、銀色の髪、透き通るような白い肌には、どこか見覚えが……
「マスター!」
プチドラは女性のもとに駆け寄った。その女性は、ダーク・エルフのクラウディアだった。




