帝国成立史3
こうして旧支配者の支配体制は、終わりを告げた。待っていたものは、しかし、平和な世の中ではなかった。なんとも言いようがないほどの擾乱だった。独裁政権が自壊すれば、混沌が支配することとなるのが世の習いだから。
その混沌とした時代、最初に世界に覇権を確立しようとしたのは旧支配者の残党だった。彼らは魔法の力を吸い取られていたが、「悪の魔力の元凶」の崩壊により力を取り戻していた。ただ、その力は以前ほど強力ではなく、他の種族にも魔法を使える者が現れていたため、相対的に強力という程度だった。
旧支配者は政権を樹立し、再び世界の絶対的な支配者として君臨しようとた。しかし、その支配は一時的なものであった。なぜなら、もはや他種族の反抗を抑えることができなかったからである。他種族の反抗は各地で発生し、その地を実効支配する軍閥のようなものがいくつもできあがっていた。軍閥は支配地域の拡大のため相争い、大地は地と涙で染め上げられた。ちなみに、初代皇帝が率いる勢力も、最初はそのような軍閥の一つだった。
ある日、大河の畔で釣りをしていた初代皇帝は、今まで見たこともない七色に輝く魚を釣り上げた。その魚は不思議なことに言葉を解し、「ああ、最高の王者に食されるなら、生まれてきた甲斐もあるものだ」と言って、喜んで自ら火の中に身を投じ、初代皇帝の胃袋に納まることとなった。初代皇帝が食事を終えると、大河から巨大なドラゴンが天に昇り、天から「汝、世界を統べよ」との声が聞こえた。これは、すなわち、天命が降ったということである。
初代皇帝は、早速、知り合いや親戚縁者を集めて義勇軍を編成し、各地を転戦した。天命が降った以上は、当然のごとく、向かうところ敵なしで、日に日にその勢力が膨れ上がっていった。そして、多くの勢力を糾合し、エルフやドワーフの王とも盟約を結び、その力をより強固なものとしていく。今は亡きご隠居様のご先祖、エマや「隻眼の黒龍」が初代皇帝に仕えだしたのも、この頃である。
しかし、旧支配者は世界を支配しようという野望を失っていなかった。ただし、自分たちの力だけでそれが不可能なことは明らかだった。そこで、オーク、ゴブリン、ホブゴブリン、オーガー、トロールといった混沌の勢力と同盟を結び、初代皇帝の勢威に対抗しようとした。
こうして世界は完全に二分され、初代皇帝側と旧支配者側による世界の覇権をかけた最終戦争が始まることとなった。当初は、混沌の勢力を取り込んだ旧支配者側が数の力に物を言わせ、有利に戦争を進めていた。しかし、皇帝軍の精鋭部隊が奮戦し、知恵を絞って敵を倒していくうち、いつしか形勢は逆転していた。そして、ついには旧支配者側の軍隊は打ち破られ、中原は初代皇帝の征するところとなった。旧支配者や混沌の勢力は辺境の地に逃れ、この地は後に「混沌の領域」と呼ばれるようになった。
初代皇帝は、周囲の者たちに推戴される形で、この時になってようやく即位し、都を帝都に定め(名前はそのままだけど)、建国の功臣や一族を各地に封じた。以来、帝位は初代皇帝の直系の子孫に代々受け継がれ、繁栄を続けている。




