怪しいのは夜間だけ
次の日の朝は、ゲテモン屋のせいで、気分爽快というわけにはいかなかった。胃の中に、まだゲテモンが残っているような、妙な気分。それほど苦しいわけではないが、なんとなく違和感があって、「うーん」とうなっていると、
「マスター、おはよう!」
先に起きてラジオ体操をしていたプチドラが言った。
「あなたは元気そうね」
「胃壁以外であれば、金でもプラチナでも、なんでも溶かす胃液があるからね。一晩寝ればOK」
「なんでも溶かす胃液って…… それでも溶けない胃壁の材質はなんなの?」
「さあ…… よく分からないけど、そういう細かいところに突っ込みを入れないのが美学というものでは?」
起きて早々、なんだかよく分からない禅問答みたいな話になってしまった。
それはさておき、昨夜の執事の話があったので、わたしはもう一度、耳に手をあて、意識を集中してみた。ところが、今現在は、「完全な静寂とはこのことか」というくらい、物音一つしない。
しばらくすると、ドアをノックする音がして、
「おはようございます、カトリーナ様」
執事が朝食を持って、定例の朝のミーティングに訪れた。なお、ミーティングと言っても大したものではなく、執事と二人でその日の予定を確認する程度。ちなみに、今日は(と言うか、今日も)、予定は入ってない。
「おはよう。今のところ、昨日の『怪しい物音』は治まってるみたいよ」
「はい、不思議なことに、物音がするのは夜の間だけで、朝になれば、ピタリと止んでいるのです」
夜の間だけということは…… やはり幽霊は日の光に弱いのだろうか。それとも、秘密の地下室に夜行性のモンスターが閉じ込められているのだろうか。
「分かったわ。とにかく、調べてみないことには、なんとも言えないわね」
こうして、「怪しい物音」の正体を探るべく、調査あるいは捜索が開始されることになった。
しかし、そもそも「超」が付くほど方向音痴のわたしよりも、執事や使用人の方が、屋敷の内部構造をよく知っているはず。その執事や使用人でさえ、なんだかよく分からないということだから、わたし自身が調査を始めたからといって、新しいことが分かるとは思えない。
果して、昼前まで屋敷の中をくまなく調べたものの、怪しいのは、前々から分かっていた「開かずの間」だけで、他にこれといって新しい発見はなかった。こうなると、いよいよ「開かずの間」が疑わしくなってくる。
ところが、プチドラはどういうわけか、かなりリラクタントに
「やっぱりやめようよ。開けたら、何が飛び出すか分からないよ」
なんなんだか…… 分からないけど、プチドラが乗り気でないなら仕方がない。今回はそのままにしておこう。今のところは実害はないようだし。




