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近い彼方  作者: 三角テトラ
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見えない世界 2

消灯までの時間、留置場ではそれぞれが自由な時間を過ごすことになる。

自由といっても檻の中、せいぜい読書か雑談がせきのやまだ。

津乃峰は同室の痴漢で捕まった年配の男との雑談で気分を紛らわしている。


「だーからー、俺は本当に無実っていうか、何もしてないんすよー」


「信じとるでー、兄ちゃんは何も悪うないw で、兄ちゃんの名前は何や?」


「えっ、俺っすか? 俺は津乃峰 修です」


「ツノミネはんかー、ワシはみんなから仏の留三って言われてるわ

 これからはトメやんって呼んでもろーてええよ」


こんなやりとりを続けた津乃峰はふと思うことがあり、留三に聞いてみた。


「あの、トメさん。トメさんって何才ですか?」


「おぉ、ワシは今年で55才やなー」


「55才って言うと何年生まれになるんですか?」


「そりゃー、現居35年生まれやー」


ゲンイ? ゲンイ35年?? 思ったとおり分からない年号がでてきたぞ…


「どーしたんや兄ちゃん、なに深刻な顔して。ワシみたいな現居生まれでも

 元気いっぱいや~兄ちゃんも元気出しやーw」


「は、ハハ、どうもありがとうございます」


笑うしかねぇーよ、昭和、平成はどこいったんだよ?

鈍い俺でもなんとなく分かってきたよ、ここって俺がいた世界じゃないよな??

じゃ、だとしたら……ここはどこなんだよ?


そう思った津乃峰はチラリと横目で留三を見る。


トメさんに聞くしかないか、でもいきなり「ここはどこですか?」なんて

聞けないし…「俺、ちがう世界から来ました」なんて言ったら麻薬で

捕まったって思われかねないし、ここは普通の会話の中で聞き出すか?



「トメさんって出身はどこですか?」


「おぉ、ワシはこのとおり関西やで、大阪やw」


おっ!! 地名は同じなんだ! ってことは日本も日本って名前のままだよな?

年号が違ったから地名とかも変わってるかと思ったよw


「大阪ですか? いいっすね~w 俺、行ったことないんすよねw」


「そりゃ~賑やかな所やでw 第2首都やしな~」


第2首都?? 大阪が第2首都って……じゃ、第1っていうか本来の

首都は東京のままでいいんだよな?


「そ、そ、そうっすよねw 大阪は第2首都っすもんねw」


津乃峰は精一杯の作り笑いを浮かべながらわざとに明るく答えた。

だが、留三が口にした次の言葉で津乃峰の作り笑いも消えていく。


「兄ちゃん、こんど大阪を案内したるわーw なんやったら台県にも

 知り合いぎょうさん居るから台県でもええでーw」


「タイケン……?」


「おおよ、台県よw まー、ワシが兄ちゃんの歳くらいの時は台県

 いわんと台湾いうてたけどなーwそうや、兄ちゃんは歳いくつや?」


「24っす…」


「おー、戦争が終わってすぐ生まれたんやなw そりゃええこっちゃw」


戦争?? 戦争ってなんだよ? 第2次世界大戦のことじゃないよな??

俺は戦争が終わってすぐに生まれた歳ってことか? じゃ、24年前に戦争が

あったのか……この世界は………だとしたら違い過ぎる!!

俺がいた世界とここは違いすぎるじゃないか……


「兄ちゃんどーしたんや? なんか顔色が悪うなって、腹でも痛いんか?」


「い、いえ、大丈夫っす、なんでも無いっすよ」


「それやったらええんやけど、そや、それより兄ちゃんは彼女とかおるんか?」


「いえ、居ないっすね」


「そらアカン、アカンでー。ワシが兄ちゃんくらいの歳の頃はなー」


留三の話が耳に入らない津乃峰は視線を落とし、床をただボーと見つめていた。

それは自分が知っている当たり前のことが目の前で否定されたような気分に

なったからだ。


こんな話を聞いたら、もう信じるっていうか、認めるしかないな…

俺は違う世界に来てしまったって………


ハァ…と短いため息をついた津乃峰はガクリと肩を落とす。

そんな津乃峰に鉄柵の向こうから声がかかった。


「こんな時間にもうしわけないが、津乃峰 修。ちょっと話が聞きたい、いいかな?」


ゆっくりとした動作で見上げると、そこには内川と外山が津乃峰の目を覗きこむ

ように見下ろしていた。













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