6 公儀隠密
楽しんで頂ければ幸いです。
「隆行、今日はどうしたのだ?」
「今日はちぃとやっかいだ。抜け荷のようだ。」
「抜け荷か…。それは勘介のところが探っているはずだが…。」
江戸城内のある部屋に隆行はいた。話している相手は将軍笹之丞康直。彼は五人兄弟の末で本来は兄達が継ぐはずだったが、出家や病などで順番が回ってきたのである。江戸城の大奥から離れたところで暮し、遊びまわっていた笹之丞は隆行とは幼馴染であった。隆行は剣道場の師範だけでなく、笹之丞の下で公儀隠密としても活動している。巧之介もその一員である。このことを宗介は知らない。
隆行はその中でも位は下で暇を持て余すほどだが、業績は高く、親友のため、こっそりと笹之丞と話をしているのである。
笹之丞は書物の山から一枚の書類を取り出して見せた。
「これだ。隆行、今中村屋と岩野屋を探っている。この間尻尾をつかめそうだと言っていたからそろそろだと思うが…。」
「それほど悠長には言ってられねえんだ。実は…。」
隆行が全て話すと、笹之丞は、
「勘介から連絡が来たらつなげる。俺は動けねえからなあ。頼んだぞ。」
そして、話し合いを少し続けた後、隆行は江戸城を去った。