3 道場破り
うまく表現できない・・・
「ここの師範に試合を申し込みたい!」
だるまのような大柄な男が道場に入るなり叫んだ。
「道場破りかい?一刀流かな?」
島崎が尋ねると男は黙った。肯定の証だ。
「お名前は?」
「黒田松近。」
「では、まず、石田、お相手をなさい。」
師の言葉に石田と呼ばれた男が相手をするが、肩を強打され、他の部屋に運び込まれた。黒田の剣は人殺しの剣であると、皆わかった瞬間、空気が冷たく張りつめた。さらに、宗介と隆行は黒田が今朝笹谷のとっつぁんを斬った浪人だと見た。大作が言ったものと同じ風体だったからだ。その後、三人ほど、腕の立つ者が相手をしたが、どこかしら大怪我をして負けた。宗介は隆行の目を合わせた。しかし、隆行は首を立てに振らない。隆行は宗介の目に怒りの色を見た。怒りは太刀筋を鈍らせる。怒りを静めろと隆行は視線を送る。宗介は了承しない隆行に苛立っていた。あまりのことに、大悟が話しかけても聞いていなかった。宗介が怒りを身にまとっている間、隆行は隣りの島崎に話しかけた。
「島崎先生、私か、宗介が相手をしてもよろしいでしょうか?」
「万一君等に怪我があったりしたら十高に顔向けができない。」
「いえ、それは気にしないでください。先ほど宗介が怒っていた件の原因の男なんですよ。」
「宗介君を怒らせた男か。それであんなに感情が露わになっているんだね。いいでしょう。おやりなさい。」
「宗介が怒りをおさめられたらいいんですが。」
「宗介君は慢心ではないですから、そのうち冷えるのではないかな?」
「そんなものでしょうか?まあ、やらせてみますか。」
隆行は立ちあがり、宗介の後ろに立った。そして、ばしっと宗介の頭を竹刀で叩いた。怒りに浸っていた宗介はいきなりの襲撃に頭をかかえて、振り向いた。少し涙目になった宗介を見て、隆行はにやりと笑って言った。
「宗介、試合を許す。ただし、怒るな。ただの試合だ。静道流は使用禁止、一刀流のみだ。」
宗介は目を輝かせた。
「はい!」
宗介は木刀を持って立ち上がった。
「今度は私が相手をします。」
「いったい何人やらなきゃいけないんだ?」
「私で最後ですよ。私があなたから一本取って。」
「そんな細腕で俺から一本とるつもりか?」
「ええ。一応名乗っておきますけど、波倉宗介です。」
「ふん、まあいい。掛かってこい。」
試合が始まると、宗介は正眼に構え、黒田は上段に構えた。やはり最初は眼力と剣気の勝負。宗介は怒りを無理やり抑えて勝負に望んでいる為、怒りの色が、ちらほら覗いている。黒田は剣気というより殺気が強い。それでも、宗介は動じない。今までの相手が腰を引いていたので、今度は黒田が逆に動揺した。が、先に動いたのは黒田だった。宗介の上から斬りかかる。宗介は身体をひねり、交わす。振り下ろした太刀を下から上に切り上げるが、それも、宗介はすっと下がってかわす。再びそれを繰り返したときには、黒田のあせりはひどかった。黒田より、十、二十ほど離れた少年に軽くあしらわれているからだ。黒田はあせりから、隙を生じさせた。宗介はそれを見逃さず、黒田の懐に入り、面を叩いた。
「一本!!」
黒田は額から血を流していた。
「貴方は今朝、お爺さんに斬り付けましたね?」
「ん?だからどうしたというのだ。」
「とっつぁんの敵だあ!」
宗介が木刀をふりあげたが、隆行に止められた。
「ばか、怒るなっつっただろ。おい、そこのお前。」
そう言いながら、隆行は黒田を足蹴にした。
「侍のくせに気取ってんじゃねぇぞ。町民や農民を斬り付けるなんてもっての他だ。監獄にぶちかましてやる!!」
隆行の鬼の形相を見て、周りの者は震え上がった。冷え切ったその瞳は黒田に恐怖を抱かせた。隆行はもう一度足蹴にすると、宗介を促して、母屋へ向かった。島崎が門徒たちに指示して黒田を引き立てていった。
「とっつぁん、浪人は叩きのめしたよ。」
帰り道で笹谷に寄った二人は翁に話をした。
「おお、ありがとうなぁ。」
「ま、しょっぴいたからあんなことはもうないだろ。」
「そうか。さすがだな、隆行。」
「いや、宗介さ。」
「へえ、強くなったねぇ。」
にこにこと翁と話している宗介を見ながら、二人は微笑んだ。
設定3
杉岡道場の人は近所の人と仲良しで、よく野菜とかをもらっている。
代わりになにか困ったときには相談にのる。
物騒なことが起きたときには見回りみたいなことをすることもある。
道場に来る人から月謝をもらっているが、あまり多くない。
宗介はあまり気にしていないが、普通なら火の車である。