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剣客起居  作者: 緑風の小道
通り魔の道場破り
2/10

2 稽古

稽古に向かいます。

 今日は四谷の一刀流島崎道場の島崎葵を訪ねる予定だったので、浅井診療所から隆行と宗介は四谷に向かった。隆行たちの静道流とは流派が違う為、普通は相容れないものだか、亡き師十高と島崎は仲が良かったので、今も親交があるのだ。隆行と宗介は静道流の他に、一刀流の型も身につけている。二人が道場に入ると、島崎は快く母屋に迎えてくれた。


「やあ、二人ともいらっしゃい。元気にしていたようだね。」


島崎はもう六十に近いが、ぴんと背筋を伸ばして座っている。


「はい、島崎先生もお元気そうで。」


いつもは荒い口調の隆行も師の友人の前では丁寧だ。


「おや、宗介君は、今日は機嫌が悪そうだね。」


「え?いえ、そんなことは…。」


朝のことでまだ腹を立てていた宗介は顔を伏せた。


「そうかい?まあ、深くは聞くまいよ。皆も稽古をしている。二人ともついておいで。」


「はい。」


三人が道場に入ると、島崎の弟子達がざわめいた。弟子達の中には最近入った旗本の子息が何人かいる。先生に認められようとしているところに、浪人らしき青年と少年が師について現れたのだ。いぶかしげに二人を見ている。前からいる者たちは二人の強さを知っているので、敬遠する者や、歓喜する者などさまざまだ。隆行は島崎と共に座り、話をし始めたが、宗介は一人、稽古に入った。杉岡道場にも稽古に来る、旗本の子息、鳥居大悟(とりいだいご)が宗介に声をかける。


「宗介、どうした?難しい顔をして。」


「大悟、そんなに私の顔は変わっているか?」


「おお、いつもの仏の顔が鬼に変わっているぞ。」


「今朝、ちょっとあって。」


「まあ、いつまでもひこずっていても仕方あるまい。私の稽古相手をしてくれ。」


「そうだな、稽古に集中すれば、少しは冷静になれるかもしれない。」


宗介と大悟が木刀を持って対峙する。刀が交差し、互いに身体を引きながら篭手を狙う。再び対峙し、にらみ合う。宗介は下段に、大悟は正眼に構える。先に大悟が突きにかかる。宗介は身体をひねってよけると、大悟の胴を狙う。大悟は瞬時に木刀をたてて宗介の木刀を受けにまわるが、それを見た宗介が狙いを肩にし、打ち据える。ばしっという音がして、二人の動きが止まる。…先に動いたのは宗介だった。


「大丈夫か?肩。」


「ああ。お前が少し手加減してくれたおかげでな。俺も大分上手くなったと思ったんだがなぁ。」


「上手くなっているさ。ただ少し、私が太刀筋をかえるだけ上手かっただけさ。」


「お前は優しすぎだろ。」


と、二人が話していると、新入りの弟子の一人が宗介に名乗りをあげた。


「私は伊塚篤惟(いづかあつのぶ)という。きさまと一本、試合をしたい。」


「それが、試合を頼む態度かよ。」


大悟が文句を言うが、宗介は、


「…私は波倉宗介。あなたは一刀流の使い手ですよね?」


「ここにいるのだから当たり前だろう。」


「いえ失礼しました。では、試合を始めましょう。大悟、審判してください。」


「こんな奴、相手する必要ないぜ。」


「別に、試合を頼まれたから相手をするだけさ。隆行さんにいろんな相手とするようにとここに来ているのだから。」


「それはそうなんだが…。」 


何か言いた気な大悟だったが、説得させられ、二人の審判をすることにした。伊塚が、話しかける。


「きさまは島崎先生と何をしていたのだ?」


「あいさつをしていただけですよ。」


「どういう知り合いなのだ?」


「島崎先生は私の師の友人なんだそうです。」


「そうか。今話している奴か?」


「いえ、亡くなった師の友人です。」


宗介が律儀に返事をしていると、


「双方話を慎め、試合、…始め!」


大悟の号令があった。宗介は正眼に、伊塚は上段に構えた。まずは眼力比べ。伊塚が剣気を発しているが、宗介は全く動じない。むしろ、宗介の剣気に伊塚が圧倒されている。

そして、ぱしっ!


「一本!!」


勝負は一瞬で決まった。圧倒された伊塚の隙を見逃さず、宗介が篭手を叩いた。他の弟子たちも宗介のきれいな篭手に感嘆した。伊塚は礼をすると、ふてくされた顔をしてどこかに行ってしまった。


「情けねえ奴。」


「そう言うなよ。私は一応二つの流儀を習っているのだから。」


「微動だにしないのは悲しいだろ。」


などと、大悟と宗介が話していると、門の方が騒がしくなった。誰かが無理やり入ってきたようだ。


設定2

鳥居大悟 とりいだいご

旗本の子息でありながら、普通に剣術道場に通っている変わり者。

宗介と仲良くなり、よく手合わせをしている。

自由奔放で実直な性格。

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