第2話 弓兵の初陣!!
球体のゲーム台に私は半分身を入れて新島をナビゲートする事にした。
相手は尾翼に吠える狼のイラストが描かれた白いF-16。TACネームはウルフ。辺りを見回すと、眼鏡をかけた陰気臭い男子生徒がREDのゲーム台にいた。
「ははーん。初心者殺しのウルフさんね」
「初心者殺し?」
大河は訝しげに私に訊いた。まぁ、おっかない通り名みたいのを聞けばそうなるか。
「経験値を稼ぐために初心者を狩る連中のこと。まぁ、大抵そういう奴はそんなに強くないけどね」
弱いけど、時々強いのもいるんだけど。でも、私なら瞬きする間に全滅出来るけどね。
「ほら、始まるよ」
BGMはハイテンポなテクノ系の曲。私はこの曲はあまり好きではないが、戦闘中に聴くとテンションがハイになる。いわゆる『アゲアゲ系』だ。
≪Ready≫
両者向かい合う。機体の性能差では明らかにF-4が不利だが、方法次第では勝ち目はある。その為に私がいるんだもん。勝たせて、おだてて、仲間にしよう!!
≪Fight9≫
「新島君、まず」
「えい!!」
大河は愛紗の結う事を聞かずにミサイルを全弾発射した。
「はい!?」
ロックオンもせずに放たれたミサイルは言うまでもなく、あらぬ方向へ飛んで行った。
あたしの勝利の方程式が……。
「あれ?なんで敵に飛んで行かないの?」
不思議そうに画面を眺める新島君。私は大きくため息をつく。
「あのね、ミサイルはロックオンしないと目標を追尾しないし、しかも初期の機体AIM9サイドワインダーの初期型しか装備できないの。正面からのロックオンは無理。相手のノズルがこっちに向いてないと当たらないの」
初心者にも解るように説明したが、新島君は困惑する一方だ。
「こっち来るよ」
「とりあえず、右に旋回。相手の背後を取ってよ」
「こう?」
画面が右方向に激しく回転した。そう、彼はただ操縦桿を右に傾けただけだった。
エルロンロールしながら大河のF-4は機銃を撃ちながら突進するF-16と交差。だが不幸中の幸いにもロールをしていたおかげで、機銃弾は全弾回避できた。
「わっわわわわ」
さらに困惑。才能ないのかな?彼……
「ちがう!!機体を90度に傾けたら、操縦桿を手前に引く!!」
「どうやったら機体の角度って解るの?」
「画面の真ん中にWみたいな印あるでしょ?それが機体の水平状況を表してるの。右旋回したいなら右の辺が下に向いたときに操縦桿を引く」
「こう?」
HUD画面の中心部にあるWの右辺が下を向くタイミングに合わせ、大河は操縦桿を引く。
「そうそう!!そのまま、加速して間合いを取る。今敵は後ろにいるから、間合いを取って体勢を立て直そう」
「こう?」
少し画面が右に傾く。何度も何度も。
「何してるの?」
まさかと思うけど、ひょっとして彼……。
「アクセル踏んでんのに加速しないよ」
やっぱり。左右を微調整するのに使うラダーペダルをアクセルと勘違いしてる。
「だぁあぁあぁ!!それはアクセルじゃない!!ラダーペダル!!左手のスロットルを前にとせば加速!!」
呆れた私は彼の左手に手を添えて、スロットルを強制的に操作。フルスロットルで敵機から逃げ出した。その様子を見ていた詩穂は
「愛紗、怒鳴らなくてもいいじゃない」
「うるさい!!」
詩穂がなだめるがお構いなし。私はやはり古典と人のプレイするゲームが大嫌いなのだ。
「うん。掴めた」
怒鳴られても新島君は冷静だった。彼はその動きを実感させるように、上下にピッチしたり左右に旋回を軽くした。
その光景を見た私は落ち着きを戻し、新島君のサポートに徹する事にした。
「よし。じゃあ、旋回する時に操縦桿を手前に素早く引いて。そうすると鋭い旋回になって、それを左右に繰り返して」
「うん」
私が彼に教えたのはブレイクと呼ばれる基本的な機動を教えた。これさえ出来れば、大丈夫だろう。
敵もフルバーナーでこちらを追撃してくる。今、回避しろと私の勘がささやく!!
「今!!」
「うん」
左にブレイク。
きっと初心者の乗るF-4がこんな機動出来るとは思っていなかったんでしょうね。追い抜いてやんの!!へたっぴー。
「操縦桿の左上に武装変更ボタンがあるから、機銃にして!!」
「あ……うん」
一拍遅れて新島君は武装を機銃に変更。しかし、時は遅くF-16は右に旋回し形勢を立て直そうとしていた。
「追って!!」
だが彼は加速しようともせずに、ただ追従するように右へ旋回した。
「ねぇ藤谷さん、鉄砲ってどこで狙えばいいの?」
「え?その輪の中に入れて狙えば……ってここから当てるの!?無理だよ!!」
相手との距離は約1500メートル。ミサイルならまだしも、初心者の撃つ機銃弾が当たるわけがない。
でも、私はなぜか彼が当てられると思ってしまった。そうさせたのは他でもない、彼の眼差しだった。
放課後の教室で外を見る時の遠くを見るあの眼差し。それが私に出来ると思わせてくれた。
「解ったわ。機体は、常に前に進む。直接照準より少し先を狙って」
「うん」
彼は操縦桿を使って旋回して逃げるF-16を機首で追う。追われるF-16単調に旋回しているので狙いやすい。『撃って下さい』って言ってんの?
「うっ」
私が合図を出そうとする前に新島君の指先は動いた。自分の判断か、私の声とも呼べない声を正確に聞き取ったか解らないがベストタイミングで彼は機銃弾を放った。
亜音速で逃げる敵機に吸い込まれる20ミリ弾。リアルなCGで破壊の様子は描かれた。翼はもげ、オイルは飛び散り最後は破片を散らしながら爆発。REDの醍醐味ともいえる。
≪YOU WIN!!≫
敵のF-16が爆発し、レーダーから姿を消したらいつも私の見る文字がデカデカと出てきた。
「なんでだー!?」
隣から残念な叫び声が聞こえる。フフ、良い気味ね!!
「て……いうか……」
私は言葉を失った。初心者にしてあの見事な予測射撃、ただならぬ才能の持ち主やもしれぬ……
「すごいよ!!新島君!!」
と詩穂。本当だよ。スペック差と経験の差ももろともせずに初心者殺しを倒すなんて……
「愛紗も何かいいなよ」
「まぁ、さすがあたしのナビゲーション。素人さんでもいっちょ前に戦わせるなんて」
あぁ、心にもない事を!!なんで素直に『凄い』って言えないのよ?あたし!!
「……うん、ありがとう」
照れ臭そうに新島君は後ろ髪を掻いた。はにかんだ顔がかわいらしいな……おい。
「ねぇ、新島君楽しかった?」
詩穂が彼に問うた。その問いの答えにしばらく迷った様子の彼だが、小さくうなずいて
「うん……ゲームも楽しかったけど、クラスメートと一緒に放課後で遊べたのも楽しかった」
彼の言葉は私の中で何か引っかかった。でも、いいや。とりあえず勧誘だ!!
「じゃ、毎日やろうよ」
「え?」
「新島君、筋が良いからすぐに上達するよ。あたしがコーチするからさ、あたし達のチームのメンバーにならない?」
「え……良いの?僕まだ、友達にも……」
「一度一緒にやれば友達になれる。これがゲームの良い所だよ、新島くん」
その言葉を聞いた彼の表情は何とも言えなかった。安堵?喜び?いろんな良い感情がごっちゃ混ぜになったような表情なのは解るよ。




