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第一話

作者より

こんにちは。

そして、こんなタイトルの作品を開いてしまったあなたへ。

ご愁傷さまです。

この物語は、

「母親が若返る」という割とよくある設定を、

絶対にやってはいけない方向へ全力で転がした結果

生まれました。

・母は母

・でも中身は思春期

・息子はただ静かに暮らしたかっただけ

誰も悪くありません。

たぶん。

ラブコメのようで、

ラブコメじゃない。

家族もののようで、

精神的にはサバイバル。

そんなお話です。

倫理?

常識?

冷蔵庫の付箋と一緒にどこかへ行きました。

更新は不定期ですが、

母の黒歴史は順調に増えていきます。

どうか、

主人公の胃に黙祷を捧げつつ、

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

東京郊外。

静かな住宅街の一角に、

周囲からほんの少しだけ浮いた高級マンションがある。

そこに住んでいるのは、

田中家の母と息子――

たった二人だ。

俺の名前は、マイク・パチャラ。

十六歳。

クラスメイトが、

もし俺の存在に気づいていれば、

「マイクくん」と呼んでいた……かもしれない。

もし自分を色に例えるなら、

ベージュ。

あるいは、物置の壁に塗られた薄いグレー。

とにかく地味。

四十人いる教室で、

教師に出席を取られ忘れ、

クラスメイトに気づかれずぶつかられる。

――それが、俺だ。

毎日は、だいたい同じ。

朝起きて、学校へ行って、

壁紙みたいに目立たないように過ごして、

家に帰る。

部屋にこもって、漫画かゲーム。

この生活、嫌いじゃない。

安全で、静かで、

誰にも期待されない。

最高だ。

……ただし。

同じ屋根の下に住む人物は、

その真逆だった。

田中ハミ。

俺の母親。

三十代前半のシングルマザー。

なのに――

なぜか彼女だけ、

時間という概念から除外されている。

美人で、上品で、頭も切れる。

そして、とにかく金持ち。

正直、

どんな仕事をしているのかは知らない。

ただ一つ言えるのは、

海外出張の回数が、

近所のスーパーに行く回数より多いこと。

母は俺を愛している。

……たぶん。

ただし、

会話の九割は冷蔵庫の付箋だ。

『マイクへ

大阪出張。明後日帰る。

夕飯は冷蔵庫。温めてね。

愛してる♡ ママ』

『マイク

靴下、洗いなさい。

山になってる。

(疲れたママ)』

『マイク

お小遣い振り込んだ。

野菜も食べなさい!

カップ麺禁止!

美人ママより』

これが、日常。

俺は迷惑をかけずに生きる。

母は働いて、美しくいる。

それで、よかった。

――あの日までは。

異変の始まりは、

母の小さな執着だった。

母は若く見える。

だが、美に人生を捧げる女として、

目尻のシワ(虫眼鏡必須)は致命傷だったらしい。

そこからすべてが始まった。

高級クリーム。

怪しいサプリ。

深海藻エキス。

値段の桁が、全部おかしい。

そして、

ある晴れた土曜日。

母は見つけてしまった。

新宿の裏路地。

どう見ても怪しいスパ。

《ヒマラヤ秘術×ナノ量子技術

細胞レベル若返りコース》

普通なら逃げる。

だが母は、

ブラックカードを出した。

瞬きもせずに。

緑色の泥。

足洗い水みたいな飲み物。

そして――

眠り。

午後五時半。

俺は、いつも通り帰宅した。

警備員のおじさんは、

俺を見て首をかしげる。

(たぶん、覚えてない)

部屋に入る。

静かだ。

冷蔵庫を見る。

……付箋がない。

「珍しいな……」

靴もない。

つまり、母は不在。

俺は肩をすくめ、

キッチンでカップ麺を作ろうとした。

そのとき。

――ガサッ。

母の寝室から、物音。

「……泥棒?」

俺は近くにあったフライ返しを握った。

心臓がうるさい。

そっと、ドアの前へ。

物音は続く。

服を漁っている音。

深呼吸。

そして――

ドアを開けた。

「動くな!

俺はフライ返しを持ってる!

使うぞ――って……え?」

そこにいたのは、

泥棒じゃなかった。

少女だった。

俺と同い年くらい。

もしくは、少し下。

長い茶髪。

大きな目。

そして――

母の高級ドレスを、

必死に着ようとしていた。

ぶかぶかだ。

舞台衣装みたいに。

「……誰だ」

混乱したまま聞く。

「何してる。

それ、母さんの服だぞ」

少女は飛び上がった。

口紅を落とし、

顔を真っ赤にする。

「マ、マイク……?

帰ってたの……?」

「……は?」

「マイク。

ママよ。

ハミよ」

沈黙。

「いやいや。

クラスの誰かの悪ふざけだろ。

警察呼ぶぞ」

少女は泣きそうな顔で叫んだ。

「違うの!

本当なの!」

近づこうとして、

ドレスの裾に引っかかる。

「ちょっと!

これ長すぎでしょ!」

「止まれ!」

俺はフライ返しを構えた。

「母さんは三十代だ。

大人で、綺麗で、

中学生みたいな化粧しない!」

その言葉が刺さったらしい。

少女は自分の頬を触った。

「……そんなに、変?」

そして突然。

「ちょっと!

肌乾燥してない!?

クリーム!

クリームどこ!」

俺は頭を抱えた。

「……証明して」

「何でも聞いて!」

「五歳の時。

祖母の誕生日で、

俺がやらかしたこと」

即答だった。

「着ぐるみでお漏らしして、

泣きながら走って、

ケーキ倒した」

「……信じる」

フライ返しが落ちた。

母は、

十六歳になっていた。

体だけじゃない。

心も。

「ママ……

まさか……

俺に、照れてる?」

「聞かないで!」

枕で顔を隠す。

「無理なの!

ホルモンが!

勝手に!」

……終わった。

俺の平和な人生は。

「……とりあえず」

俺は言った。

「楽な服に着替えて。

夕飯作る。

対策は、その後だ」

「……うん。

ノック、してね」

ドアを閉め、

俺は壁にもたれた。

世界は変わってない。

でも、俺の日常は終わった。

鍋の湯が沸く。

今日は、二人分。

「明日、どうすんだよ……」

俺は呟き、叫んだ。

「母さん!

豚骨?

それともエビトムヤム!?

あと、カーテンの裏、

隠れてるのバレてるから!」

――第一話・完。

あとがき

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

改めて振り返ると、

第一話から

・母が若返る

・年齢が息子と同じ

・しかも思春期で照れる

……詰みでは?

はい、詰みです。

主人公はただ

「静かに生きたい」

それだけだったのに、

人生は容赦してくれませんでした。

この物語は、

ラブコメではありません。

ホームドラマでもありません。

息子視点・精神的耐久テストです。

次回以降、

・学校に行けるのか

・仕事はどうするのか

・知り合いに見られたらどうなるのか

問題は山積みです。

母の黒歴史も、順調に増えていきます。

どうか、

主人公の胃と心に

温かい応援(と胃薬)を。

それでは、また次回。

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