尋問
本部に戻ると、長官は私を自室に招き入れた。
「素晴らしい手腕だった、クラーク。ヴァルカンは、我が部隊のエージェントが何人も歯が立たなかった相手だ。それを、君は一人で、しかも一滴の血も流さずに制圧した」
長官はグラスに琥珀色の液体を注ぎ、私に差し出した。
「スコッチだ。さあ、一杯どうだね」
私は受け取らずに、テーブルに置かれたヴァルカンのファイルを手に取った。
「彼は…この後、どうなるんですか?」
「彼か。尋問を経て、MI6が管理する極秘施設へ移送される。君も立ち会うか?」
私は頷いた。
「ええ、そのつもりです」
長官は、私の目を見て、静かに言った。
「君は、我々が探し求めていた**『超越者』**だ。そして、君には、彼らを超える頭脳と、常識に囚われない思考力がある。それは、この世界にいない君だからこそ持ち得る、最強の武器だ。だが、その武器は、時として君自身を傷つけるかもしれない。君が元いた世界と、この世界との間で、君のアイデンティティが揺らぐ時が必ず来るだろう」
私は黙って長官の言葉を聞いていた。確かに、日本の会社員であった自分と、MI6のエージェントである自分。二つの人格が、私の中で同居している。
ヴァルカンの尋問
尋問室は、地下深くに位置するコンクリートの部屋だった。ヴァルカンは、特殊な拘束具で椅子に縛り付けられ、顔には悔恨と絶望が入り混じった表情が浮かんでいた。
彼の目の前には、私と、もう一人、心理分析官の女性が座っている。
「ヴァルカン…いや、イワン・ドミトリエヴィチ。なぜ、テロを企てた?」
心理分析官が質問すると、ヴァルカンは嘲笑した。
「テロ?違う…これは、我々『超越者』の正当な権利を主張するためだ。お前たち凡人には、我々の能力は理解できない。恐れ、憎むだけだ。我々は、この世界を支配するに値する存在だ」
ヴァルカンは、私を睨みつけ、唾を吐きかけた。
「だが、お前は違う。お前は…何者だ?なぜ、俺の能力を封じることができた?どこで、そんな知識を…」
私は静かに答えた。
「あなたの能力は、科学的に解明できる。炎は酸化反応で、酸素を必要とする。ただ、それだけの話です」
私の言葉に、ヴァルカンは絶望の表情を浮かべた。彼は、自らの能力を「神の力」だと信じていたのだ。それが、たった一人の「凡人」の知識によって否定された。
「嘘だ…そんなはずはない…!俺の能力は、神から与えられたものだ!」
彼は、激しく身体を震わせ、拘束具を壊そうと試みた。しかし、特殊な拘束具はびくともしない。
私は、彼の目の前に立った。
「あなたのような超越者は、他にもいる。彼らと戦うために、私はこの体を得た。そして、あなたと同じように、彼らの能力を、ただの化学反応、ただの物理現象として解明してみせる。それが、私の仕事です」
私の言葉に、ヴァルカンは完全に戦意を喪失した。彼は、虚ろな目をして、ただ天井を見つめていた。彼のプライドも、彼の信念も、私の「知識」によって完全に打ち砕かれた。




