最終ルート
ウォレス・マッケンジーから届いた指示は、エイドリアン・グレイの旧邸宅の地下が**『真の原典』**への最終アクセスポイントであるという、決定的なものだった。長官の『物語の全て』を受け取った今、僕に残された時間は少ない。
「ウォレス、旧邸宅はロンドンの監視外にある。移動手段を」
僕は、地下トンネルの暗闇の中で、デバイスにそう打ち込んだ。
ウォレスからの応答は、わずか数秒で届いた。
「了解しました。長官の『知識』に基づき、MI6の監視下にない**『物語の断片』を利用します。ロンドン東部、廃墟と化した『リバー・ドック』**へ向かってください」
ウォレスが提示した座標は、テムズ川沿いの古い船着き場だった。
「リバー・ドックには、MI6の**『物語の運び屋』が、かつて機密性の高い物品を輸送するために使っていた『偽装された輸送機』**が隠されています。長官の最終命令によって、その輸送機の制御システムは、あなたの認証キーに接続されました」
ウォレスは、その輸送機の名を伝えてきた。
「コードネームは**『カローン(Charon)』**。
ギリシャ神話で、死者を冥府へ運ぶ船頭の名です。スローンの部隊が、この輸送機の存在を知るまで、猶予は20分。急いでください」
『カローン』…死と生の境界線を運ぶ、MI6の影の乗り物。長官が、どれだけ深い絶望の中で、僕の**『創造』**に希望を託していたのかを痛感した。
僕は、急いで地下トンネルを抜け、ウォレスが指示したリバー・ドックへと向かった。
長官の『知識』を受け継いだことで、僕の『創造』の力は、周囲の『物語の理』の**『空白地帯』を瞬時に読み取れるようになっていた。スローンの追跡者たちが、僕のいる場所とは全く別の場所**を捜索している様子が、頭の中に流れ込んでくる。
リバー・ドックの錆びついたクレーンの下、古びた倉庫の陰に、ウォレスの言う通り、黒く塗装された小型の飛行機が隠されていた。外見はただの貨物輸送機だが、その機体全体が、MI6の**『物語の偽装』**によって、周囲の環境に溶け込んでいた。
僕は、デバイスの認証キーを輸送機にかざした。
機体のハッチが音もなく開き、コックピットの計器が緑色の光を放った。座席には誰もいない。すべてが自動制御されている。
僕は操縦席に乗り込み、ウォレスに最後の通信を送った。
「ウォレス。輸送機に乗り込んだ。エイドリアン・グレイの旧邸宅へ向かう。長官の『物語』は、無駄にはしない」
「ご武運を、クラークさん。私は、MI6の**『情報領域』から、追跡者に『偽りの物語』**を送り続け、あなたを援護します」
ウォレスからの通信は、そこで途切れた。
僕は、『カローン』を起動させた。輸送機は静かに垂直に浮上し、MI6とスローンが支配するロンドンの夜空を、エイドリアン・グレイの旧邸宅という**『物語の始まりの場所』**へと、孤独に飛び立っていった。




