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Invitation to MI6  作者: 徳田新之助
第一章 この世界の理
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頭脳戦の開幕





ロンドン地下鉄のトンネル内。




私は、長官から受け取った特殊な装置を手に、ヴァルカンが潜伏している区画へと向かっていた。地下の冷たく湿った空気が肌を刺す。この静寂が、嵐の前の静けさだと知っていた。




「見つけたぞ、MI6の犬め」




背後から、低く、唸るような声が聞こえた。振り返ると、そこに立つ男がいた。黒いコートを纏い、冷たい光を宿した瞳。彼の指先からは、赤い炎がゆらゆらと揺らめいている。




「ヴァルカン…」




私が呟くと、彼はニヤリと笑った。




「私の居場所を突き止めたのは、運が良かっただけだ。だが、この密室空間では、お前の命運は尽きた」




彼の言葉と同時に、彼の指先から放たれた炎が、トンネルの壁に沿って蛇のように走り、私の行く手を塞いだ。炎は壁を溶かし、熱気が一気に上昇する。




「ほう…この程度の温度上昇で、すぐに君が溶けるとは思わなかったが、その代わり、このトンネルの酸素は君が呼吸できないほど急速に消費されるだろう。さあ、苦しみもがきながら死んでいくがいい」




ヴァルカンは、勝利を確信したかのように笑う。確かに、酸素を奪われれば、私は何もできない。だが、それは私の知る世界での常識だ。




「悪いが、その手は使えない」




私はヴァルカンの言葉に動じることなく、ポケットから小さな装置を取り出した。それは、数時間前、私がITショップで改造した煙感知器だ。




「なんだ、それは?」




ヴァルカンが警戒するように一歩下がる。




「これは、君の能力を逆手に取った、ハイドロフルオロカーボン放出装置だ」




私は装置のスイッチを入れた。すると、トンネル内に白く冷たい霧が充満し始める。それは、ヴァルカンの炎によって熱せられると、化学反応を起こし、空気中の酸素を分解する。




「まさか…」




ヴァルカンの顔から、笑みが消えた。彼の手から放たれていた炎が、まるで水に濡れたかのように、勢いを失い、やがて消えていった。




「火は、科学的に見れば酸化反応だ。そして、その反応には必ず酸素が必要になる。君の能力は強力だが、その本質は、ただの化学反応に過ぎない。君が炎を生み出すほど、このトンネルの酸素は消費され、自滅する…いや、君はすでにその罠にかかっている」




ヴァルカンは、驚愕に目を見開く。




「な…なぜだ?なぜ、そんなことを知っている?」


「私は、君たちの常識に囚われていない、ただの会社員だ」




私の言葉に、ヴァルカンは激しい怒りを露わにし、再び炎を生み出そうと試みた。しかし、炎はもう、彼の指先からわずかな火花すらも発しなかった。




彼の能力は、完全に封じられた。



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