もう一つの『原典』
僕の言葉は、長官の『正義』を「管理による停滞」という新たな『歪み』として定義した。長官は、僕の『創造』の可能性と、彼の『管理』の限界に直面していた。
長官は、僕の言葉を否定しなかった。しかし、その顔に浮かんだのは、苦悩よりも、遥かに深い諦念と、僕への同情だった。
「君の論理は、正しい。ジョナサン・クラーク」
長官は、静かにそう言った。
「私の『管理』は、世界の『物語』を停滞させている。そして、君の『創造』は、その停滞を打ち破る力を持っている。私自身、その『創造』こそが、この世界を救う唯一の道だと、心の奥底では理解している」
彼は、そう言って、部屋の壁に触れた。壁に映し出されていた無数の『物語』の光が消え、代わりに、一つの巨大な影が浮かび上がった。それは、僕たちが見た**『物語の原典』**の形によく似ていたが、遙かに巨大で、黒い光を放っていた。
「私が、君を『管理』下に置こうとしたのは、君の力を利用するためだけではない…」
長官は、そう言って、その黒い影を指さした。
「私が本当に恐れているのは、君の『創造』が向かう先だ」
彼の言葉に、僕は息をのんだ。
「君が知っている『物語の原典』は、エイドリアン・グレイが自身の『物語』を隔離するために作った**『写し』に過ぎない。あれは、世界の『理』の『設計図』**だ」
長官は、その黒い影を見つめた。
「そして、ここに映っているのが、世界の『物語の理』そのもの、**『真の原典』だ。これは、エイドリアン・グレイの『希望』の物語が暴走した際に、この世界から生まれた『絶望の対価』**だ」
彼の瞳は、僕への警告の色を帯びていた。
「この『真の原典』には、世界の『物語の理』を崩壊させる**『終末の物語』が、すでに記録されている。君が、その『創造』の力で、世界の『理』を書き換えるたびに、この『真の原典』も更新され、『終末の物語』**の完成が、一歩ずつ近づいていく…」
長官は、そう言って、僕に最後の真実を突きつけた。
「私が**『管理』を続けるのは、この『終末の物語』が完成する『時間』を稼ぐためだ。君の『創造』が、世界を救う唯一の道かもしれない。だが、君がその力を使い続ければ、世界は必ず『終末』を迎える。それが、この世界の『物語』に課せられた避けられない運命**なのだ」
彼の『正義』は、世界の『延命』という、さらに絶望的な次元へと変わっていた。




