管理者の最終論理
僕の言葉は、長官の『正義』の根幹を揺さぶった。彼は、僕の反論を鏡のように跳ね返すことはできなかった。僕が指摘した、彼の『管理』という名の操作が、エイドリアン・グレイの『希望』という名の操作と本質的に変わらないという事実は、彼にとっての最大の矛盾だった。
長官は静かに目を閉じ、深く息を吐いた。そして、ゆっくりと目を開けたとき、彼の瞳の奥には、苦悩ではなく、冷徹な『管理者』の意志が再び宿っていた。
「君の言う通りだ、ジョナサン・クラーク」
長官は、僕の反論を、感情を排した声で認めた。
「私の『管理』は、確かに**『暴力』**だ。私は、エイドリアンと同じく、この世界の『物語』に、私の意志を押しつけている。私の『正義』は、不完全で、偽善的なものかもしれない」
彼は、自身の欠陥を認めることで、逆に自身の論理を強化しようとした。
「だが、不完全な私であっても、この世界の『物語の理』を管理する必要がある。なぜなら、君の言う『物語を紡ぐ自由』が、この世界を崩壊させた過去を知っているからだ」
長官は、壁に映る無数の光の粒――世界の『物語』――を指さした。
「君は、リリアンの『希望』の物語を美しいと言う。リリスの『絶望』の物語を、奪われるべきではないと言う。しかし、その二つの物語が、制御を失って衝突した時、何が起きる? 世界の『理』そのものが、一瞬で消滅するのだ」
彼の声には、その真実を知る者だけが持つ、恐怖と孤独が滲んでいた。
「私は、不完全な管理者として、人々の小さな自由を犠牲にし、大きな破滅を防いできた。私の正義は、偽善であっても、世界を存続させる唯一の現実だ。君の『物語を紡ぐ自由』は、世界を美しい理想郷に導くかもしれないが、その前に世界そのものを消し去るだろう」
長官は、一歩踏み出し、僕に最後の選択を迫った。
「私が君を『管理』下に置くのは、君の力を利用するためだけではない。君の『自由』が、君自身を含むすべての『物語』を破滅させないよう、君を守るためでもある。君の『正義』は、私の不完全な『正義』と統合されることでしか、この世界で生き残る術はない」
彼は、僕の『正義』を否定する代わりに、それを「危険な力」と定義し、自身の管理下に置くことが唯一の**『救済』**であると主張したのだ。




