凡人の武器
私は、長官の言葉に戸惑いを隠せなかった。
「ちょっと待ってください、長官。火を操る男、念力を使う少女……そんな連中と、どうやって戦うんです?この体は、確かに訓練されているのかもしれませんが、中身はただのサラリーマンですよ?拳銃を撃つことさえ、まともにできるか…」
私は、自分の無力さを長官に訴えた。
「私はただ、平凡な人生を送っていただけなんです。朝起きて、満員電車に乗って、会社に行って、定時になったら居酒屋に寄って…。そんな男が、いきなり世界の命運を握る超能力者と戦えだなんて、冗談でしょう?」
長官は、私の言葉を冷徹な視線で受け止めた。
「冗談ではない。君は、すでに戦っている」
長官は立ち上がり、窓の外のロンドンの街並みを見下ろしながら語った。
「君は、君の元の世界で、すでに彼らと同じように、困難な状況に立ち向かう術を身につけていたはずだ。君の魂は、この世界に転生する際に、この肉体の潜在能力と融合し、新たな力を生み出す触媒となった。その力は、単なる肉体的なスキルではない。君自身の経験と知恵が、この世界で君の武器になる。それが、君が超越者と戦う唯一の手段だ」
長官の言葉は、まるで謎かけのようだった。私の日本の経験が、超能力者と戦う武器になる?
「考えてみろ。この世界のエージェントは、訓練された戦士だ。だが、彼らは超能力という未知の力を前に、常に苦戦を強いられてきた。しかし、君はどうだ?君の経験は、この世界にはない。常識に囚われない君の思考こそが、彼らの意表を突き、活路を開く鍵となるだろう」
「だから、君はまず、君自身が何者であったかを思い出す必要がある。それこそが、君の最初の任務だ」
長官は、そう告げると、私の肩に手を置いた。その手は、冷たく、重かった。
「君はもう、ただの会社員ではない。この世界の運命を背負った、MI6のエージェントなのだ」