空白の地図
リリアンが残した地図の『空白』を頼りに、僕たちはロンドンの街をさまよった。テオは、僕の肩に顔をうずめ、ぐっすりと眠っている。リリアンは、まだ意識を失ったままだ。僕は、彼女を抱えながら、テオの描いた地図と、僕の頭の中にあるロンドンの街の記憶を照らし合わせていた。
(地図の空白は、ロンドンの中央に位置している…ここは、僕が知る限り、大英図書館がある場所だ…)
だが、大英図書館は、観光客で賑わう、ロンドンでも有数の名所だ。そこに、**『物語の支配者』**が潜んでいるとは思えない。
(この『空白』は、物理的な場所じゃない。この世界の『理』から、意図的に消された場所…)
僕は、その『空白』に、僕の『知識』を重ね合わせた。大英図書館の地下には、MI6の極秘の地下施設がある。そこは、MI6の『正義』が、歴史の闇に葬り去った、数々の秘密が保管されている場所だ。
「ここだ…」
僕は、テオを抱きかかえ、大英図書館の地下へと向かった。そこには、一見すると、ただの地下通路にしか見えない場所があった。だが、僕の『知識』は、その先に、MI6の地下施設があることを知っていた。
僕は、壁に手をかざした。すると、僕の『存在』が、壁の向こう側へと、僕の体を透過させていく。
(僕の『存在』は、この世界の『理』から外れている。だから、この『理』の壁を、通り抜けることができる…)
僕が壁を通り抜けると、そこには、MI6の地下施設が広がっていた。だが、そこは、僕が知っている地下施設とは、どこか違っていた。
そこは、まるで、時間が凍りついたかのように、静寂に包まれていた。施設の中には、MI6のエージェントたちの姿があったが、彼らは、まるでマネキンのように、動きを止めていた。
「ここは…」
僕が驚きを隠せずにいると、テオが、かすれた声で言った。
「ここは…僕が、時間を止めた場所…」
テオは、無意識のうちに、この場所の時間を止めていたのだ。だが、なぜ、彼は、僕たちを、この場所に導いたのか?
その時、施設の奥から、一人の男が、ゆっくりと歩み寄ってきた。彼は、MI6のエージェントの制服を身につけていたが、その瞳は、まるで虚無を宿しているかのように、何も映していなかった。
「ようこそ…『物語の紡ぎ手』」
男は、そう言って、僕とテオを交互に見つめた。彼の声は、長官の声と酷似していた。だが、その声には、感情が一切感じられなかった。
「僕は、君たちの『物語』を終わらせるために、ここにいる」
男は、そう言って、僕たちに、ゆっくりと歩み寄ってきた。彼の瞳の奥には、僕の『知識』が、今まで一度も見たことのない、深い闇が潜んでいた。




