塔に眠る真実
ロンドンの下水道。冷たい水が、僕たちの足元を静かに流れていく。僕は、テオと二人、リリアンを抱えたまま、静かに身を潜めていた。彼女の体は、まだ透明なままだ。脈はかろうじて打っているが、その生命の光は、風前の灯火のようだった。
「リリアン…」
僕は、彼女の冷たい頬に触れ、その名を呼んだ。だが、彼女は、僕の声に答えることはなかった。
「僕のせいで…」
テオが、悲しげに呟いた。彼は、リリアンが自分を救うために、その『存在』を削ったことを、理解していた。
「違う。君のせいじゃない」
僕は、そう言って、テオを安心させようとした。
その時だった。
リリアンの唇が、かすかに動き始めた。
「…ジョナサン…」
僕は、耳を澄ました。
「…塔へ…」
彼女は、そう呟くと、再び、深い眠りについた。
「リリアン…!」
僕は、彼女の言葉を、必死に噛み締めた。『塔』。それは、テオが日記に記された暗号を解読して見つけ出した、**『物語の支配者』**が潜む場所。
「彼女は…僕たちが、その『塔』へ向かうことを、望んでいる…」
僕の言葉に、テオは静かに頷いた。
その時、リリアンの手から、小さな光の粒が、宙に舞い上がった。それは、まるで星屑のように、キラキラと輝きながら、僕の目の前に集まっていく。そして、それは、一つの絵を形作った。
それは、見慣れたロンドンの地図だった。だが、その地図には、僕が知っているロンドンの街にはない、不自然な『空白』が、一つだけ存在していた。
「この『空白』は…」
僕は、テオと顔を見合わせた。
「…この『空白』に、『塔』は隠されている…」
テオが、静かに言った。
リリアンは、最後の力を振り絞り、僕たちに、新たな手がかりを残してくれたのだ。彼女は、僕たちが『物語の支配者』を見つけ出し、この世界の『物語』を、希望に満ちた結末へと書き換えることを、心から望んでいた。
「行くぞ、テオ」
僕は、リリアンを抱きかかえ、立ち上がった。
「僕たちは、この『塔』の謎を解き明かし、この世界の『物語』を、僕たちの手で取り戻すんだ」
僕たちの旅は、今、始まったばかり。




