鏡の中の影
リリアンの警告に、私の心臓が警鐘を鳴らす。
「彼女を、信用してはいけない…!」
私は、銃を構えた女性エージェントをまっすぐに見つめた。彼女の瞳には、長官と同じ、MI6の『正義』が宿っている。だが、その奥に、何か別の感情が隠されているように感じた。
「君は…『リリス』という名を知っているのか?」
私が問いかけると、彼女の表情が、一瞬だけ凍りついた。
「どうして、その名を…?」
彼女の声には、動揺が混じっていた。その反応は、私の推測が正しいことを示していた。
「この日記の中に、彼女の痕跡があった。彼女は、リリアンの能力を、意図的に破壊しようとしている。その目的は、何だ?」
私がさらに問い詰めると、彼女は、静かに銃を下ろした。
「あなたは…本当に、その日記を解読したのね…」
彼女は、警戒を解いたかのように、私に歩み寄った。
「私が、あなたの知っている『リリス』だ」
彼女の言葉に、私は息をのんだ。
「どういうことだ…?」
「私は、MI6に潜入した、『物語の破壊者』。リリアンと同じ、『プロジェクト・アザゼル』の被験者の一人だ」
彼女は、そう言って、自身の腕にある、まるで消えかかったタトゥーを見せた。それは、リリアンのものと酷似していた。
「リリアンは、私の能力を、**『歪んだ物語』**と呼ぶ。私は、他者の心を読み、その『物語』を、絶望に満ちた結末へと書き換えることができる。そして、その『物語』を破壊することで、私の『存在』を、この世界に定着させている」
彼女は、自分が、リリアンと対になる存在であることを語った。リリアンが『希望』を紡ぎ、自らを犠牲にするのに対し、彼女は『絶望』を紡ぎ、他者を犠牲にすることで、自らの存在を維持しているのだ。
「MI6は、私の能力を恐れ、私を監視下に置いた。だが、私は、彼らの監視をかいくぐり、私の『物語』を紡ぎ続けてきた。そして…」
彼女は、私をまっすぐに見つめた。
「そして、私は、この日記の中に、リリアンの『物語』を破壊するためのバグを仕込んだ。リリアンが能力を使うたびに、彼女の『存在』が削られていく。そうすることで、彼女の『物語』が、私の『物語』の栄養となる」
彼女は、リリアンの命を狙っていたのだ。
「なぜ、そんなことを…!」
「私は、ただ、生き残るためにそうした。この世界で、私の『物語』を紡ぐために。だが、あなたは、私の『物語』を壊した。あなたは、リリアンの『希望』となり、私の『絶望』を否定した」
彼女の瞳は、憎悪に満ちていた。
「ジョナサン・クラーク。あなたは、私の『物語』の最大の敵。だが、私は、あなたを殺さない」
「なぜだ…?」
「私は、あなたを利用する。あなたの『物語』の力を借りて、私の『絶望』を、この世界に蔓延させる。そして、最終的には、あなたを『物語の道具』として使い、私の『正義』を完成させる」
彼女は、銃を再び構え、私に冷たい命令を下した。
「さあ、私の**『物語の奴隷』**となりなさい」




