三つの正義
プロメテウスが消え去り、教会には再び静寂が訪れた。MI6の特殊部隊は、ゾンビ化した男たちを無力化し、彼らの身柄を確保していた。私は、膝をつくリリアンに駆け寄った。
「大丈夫?」
「ええ。もう大丈夫。彼は、一時的に退いたわ」
リリアンは、そう言って立ち上がると、私をまっすぐに見つめた。
「あなたの『正義』は、僕には理解できない。なぜ、君は、この世界の『理』を書き換えることに、そこまでこだわる?」
私が問いかけると、彼女は静かに語り始めた。
「この世界は、多くの『不条理な物語』に満ちている。望まない戦争で死んでいった兵士たち、愛する人を失った人々の悲しみ。それらはすべて、この世界の『理』として受け入れられている。だが、私は、そんな『理』を認めない。私の力で、彼らの『物語』を、希望に満ちた結末へと書き換える。それが、私の『正義』よ」
彼女の瞳には、過去の悲劇を消し去ろうとする、強い意志が宿っていた。
「そして、プロメテウスは、私の『正義』の最大の敵。彼は、この世界の『理』を、絶望に満ちた結末へと書き換えようとしている。彼は、絶望こそが、この世界の真実だと信じているのよ」
リリアンの言葉を聞いて、私は、彼女が一人で背負ってきた重い使命を理解した。彼女は、MI6にも、プロメテウスにも理解されず、孤独な戦いを続けていたのだ。
その時、長官が、特殊部隊の隊員たちを下がらせ、私たちのもとへと歩み寄ってきた。
「リリアン。君を拘束する」
長官は、冷徹な声で言った。彼の背後には、銃を構えた隊員たちが控えている。
「長官!やめてください!彼女は、僕たちを助けてくれた!」
私が長官に訴えると、彼は私を無視し、リリアンに視線を向けた。
「君の能力は、あまりにも危険だ。君は、世界の秩序を乱す存在だ」
「秩序?あなたたちの言う『秩序』は、MI6の都合の良い『物語』に過ぎない。私は、あなたたちの『秩序』には従わない」
リリアンは、警戒するように、私から距離を取った。
「長官、僕を信じてください。彼女は、敵ではありません。彼女の『正義』は、僕たちとは違う。でも、それは、この世界にとって、必要な『正義』です」
長官は、私の言葉に耳を傾けなかった。彼は、私に冷たい視線を向けた。
「クラーク。君は、MI6を離れることを選んだ。だが、君の『正義』は、この世界の『理』には通用しない。君は、彼女の『正義』と、私の『正義』の間で、どちらかを選ばなければならない。だが、君は、どちらを選ぶこともできない。なぜなら、君の『正義』は、この世界の『物語』には存在しないからだ」
長官の言葉は、私の心を深く抉った。
私は、MI6の『正義』と、リリアンの『正義』、そして、僕自身の『正義』の間で、選択を迫られていた。




